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投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 6 月 13 日 09:07:04: mY9T/8MdR98ug
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090609/197076/?P=1&ST=manage

 何をやってもダメ。麻生太郎首相官邸はいよいよ末期的な様相だ。

 「首相官邸の主」との異名を取る総務省出身の秘書官、岡本全勝がほかの秘書官らを無視するかのように差配。週末は必ず露出度の高いところに首相を出向かせ、麻生人気の回復に躍起になっている。

 ところが…。
「麻生ー、さっさと辞めろー」

 例えば5月31日の日曜日。麻生は篠突く雨の中、東京・府中の東京競馬場に姿を見せた。競馬の祭典である東京優駿、つまり日本ダービーの開催日だった。

 麻生はダービーを制した騎手の横山典弘らに「内閣総理大臣賞」を授与するため登場した。すると、会場からひときわ通る声が投げかけられた。

 

「麻生ー、さっさと辞めろー」

 一瞬、会場がどよめいた。馬券を外し、やけになって上げただけの声とは思えぬ響きが込もっていた。

 その2週間前にはミス・ユニバース日本代表が官邸を表敬訪問した。やはり岡本の手配だった。


 麻生の露出度は確かに上がった。しかし、露出度が即、支持率上昇につながるわけではない。扱いを間違えれば、露出度の高さはマイナスイメージをも増幅する。

 美女と並んだ麻生の姿はまさにそれだった。にやけまくった表情に首相の威厳、見識など微塵もなかった。まして、政権交代の危機感など皆無であった。

 麻生は民主党中枢を襲った西松建設の違法献金事件以来、にわかに元気を取り戻していた。

 「総理、反転攻勢の時です」

 民主党の敵失とはいえ、回復し始めた支持率にニンマリする麻生は岡本の助言に飛びついた。そして、岡本の振り付けのままカメラに収まり続けた。

 しかし、バラバラの秘書官、力不足が否めぬ官房長官、そして政策を勉強するより昼寝を好む首相らの技量が劇的に改善するわけもない。

 官邸の支離滅裂ぶりはますますひどさを増す。

厚生労働省分割騒動の発火点は渡辺恒雄

 突然に降って湧いたように起こり、バタバタ劇を演じて尻すぼみとなった厚生労働省の分割騒動はその好例ではないか。

 発信源は、麻生内閣の要石で3大臣を兼務する与謝野馨の肝いりで創設された「安心社会実現会議」である。

 元財務事務次官に、元検事総長、メディア界の大物に加えて左派系の学者…。厚化粧が過ぎるとしか思えぬような面々が集められている。

 その中でもひときわ存在感を示すのが読売新聞グループ本社会長、渡辺恒雄である。厚生労働省の分割騒動の発火点はこの渡辺だった。

 5月14日の夜。

 日本料理店での会合で、渡辺は「医療・介護省新設案」と題された資料を同席していた与謝野馨、そして与謝野の腹心である園田博之(政調会長代理)に示した。

 与謝野と政界とのかかわりは、大学卒業後、元首相の中曽根康弘の秘書になったところから始まる。その中曽根を寄り添うように支えてきたのが渡辺である。与謝野からすれば、渡辺は自らの師匠と同格の存在である。

 渡辺から示された資料にざっと目を通すや賛意を示し、そしてこうつけ加えた。

 「総理にも私から話します」

 与謝野は渡辺に約束した通り、翌日、麻生に報告した。

 与謝野の報告を聞いた麻生は「渡辺ペーパー」に飛びつく。衆院選挙前に改革イメージを出せると踏んだようだ。

与謝野の与謝野による与謝野のための会議

 与謝野自身はどうか。厚労省分割は与謝野のかねてからの持論である。このタイミングで走り出した背景には、衆院選挙に向けたマニフェストに厚労省分割を反映させたいという思いがあったようだ。

 そしてもう1つ。政策立案の軸足を「経済財政諮問会議」から、冒頭に触れた「安心社会実現会議」に移したいという与謝野の思惑も見え隠れする。

 “与謝野の与謝野による与謝野のための会議”と揶揄されるほど、同会議は与謝野人脈で固められている。

 発足当初、財務省の元事務次官、武藤敏郎がいたのは、これもまた持論である消費税率引き上げを目論んだものと言われる。また、その武藤と中学時代からの幼馴染で大物検事総長と呼ばれた但木敬一(現弁護士)が参画することも意味深長だ。西松建設からの違法献金事件と絡めて解説する者もいる。同会議発足の狙いは様々に取り沙汰された。

 そして、目を凝らして見れば与謝野の狙いが透けて見える参画者に行き当たる。北海道大学教授、宮本太郎である。

元「東大細胞」と宮本顕治の長男が国の将来像を描く

 宮本は福祉政策の比較分析を専門とする政治学者である。元共産党議長、宮本顕治の長男でもある。

 渡辺は昭和21(1946)年に共産党に入党し、「東大細胞(共産主義政党内の末端組織)」のキャップを務めていたものの、翌年、日本共産党統制委員長だった宮本顕治によって除名される。

 渡辺を共産党から除名した宮本顕治。その長男と渡辺が膝を交えて、この国の将来像を描こうとしている。だから歴史は奥深い。

 宮本招聘を熱望したのは与謝野だった。事あるごとに宮本の近著『福祉政治――日本の生活保障とデモクラシー』(有斐閣Insight)を宣伝し、一度参画を断った宮本を口説いたのも与謝野だった。

 日本の社会構造を無視し、乱暴に過ぎた小泉改革によって崩壊した雇用制度は、それによって成り立っていた社会保障の仕組みを崩壊させた。また、地方への公共投資を過度に切り詰めたことによって、地方と都市部との格差が拡大。その再構築の理論、手立てを近著によって示してみせた宮本に対する与謝野の信頼は絶大である。

その場しのぎだった「社会保障省」「国民生活省」

 与謝野の「安心社会実現会議」への思い入れとは裏腹に、厚生労働省分割への手順は稚拙を極めた。

 与謝野から報告を受けた麻生は、聞いたままをさも持論であるかのようにぶら下がりの記者たちに話してしまう。そこから始まったのが厚労省分割狂騒劇だった。

 5月15日の「安心社会実現会議」で麻生は、医療・介護・年金分野を「社会保障省」、雇用・児童のほか内閣府の少子化対策、文部科学省の幼児教育の分野を「国民生活省」とする考えを示した。

 さらに19日の経済財政諮問会議では分割案を具体的に検討するよう、与謝野に正式に指示を出した。

 こうして見ると、既に青写真が出来上がっていて、それに沿って動いていたかのように見える。けれども、内実はその場しのぎの連続だった。

 麻生が示した「社会保障省」「国民生活省」のネーミングからして、会議の1時間前に与謝野周辺が内閣府関係者に頼み込み、出てきた名前なのである。つまり具体案がないままイメージだけが先行したに過ぎない。

幼保一元化の“地雷”を踏んだ非常識

 そして麻生が、幼稚園と保育所の一体的な運営や監督を一本化する「幼保一元化」に言及するに至って、厚労省分割案は葬られることが決定的になる。

 文部科学省所管の「幼稚園部門」と厚労省所管の「保育所部門」は、さながら宗教論争のように相いれない。幾度となく一元化の話が出たものの、両者の背後にいる族議員らの暗躍によって日の目を見ることはなかった。

 幼保一元化が“地雷”であることは政界関係者であれば常識である。本気でやる気ならば、用意周到でなければならないのはもちろん、族議員らを黙らせる腕力やリーダーシップも必要だ。しかし、今回、そうした動きを官邸がした様子はない。麻生は振り付けられた言葉をそのまま話しただけだ。与謝野も3つの省庁を所管する多忙さから焦点がぶれる。

 迷走した2週間。主があってなきに等しい首相官邸の機能は、いよいよ末期症状のようだ。(=敬称略)


児玉 博(こだま・ひろし)

ノンフィクションライター。1959年生まれ。主な著書に『 “教祖”降臨―楽天・三木谷浩史の真実 』、『 幻想曲 孫正義とソフトバンクの過去・今・未来 』(ともに日経BP社刊)などがある。

 

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