海自はインド洋・ソマリア沖から撤退を 「警察活動」名目の武力行使だ新たな植民地主義を打ち砕け 10日足らずの スピード審議 四月二十三日午前、衆院海賊・テロ特別対策委員会で「海賊」対処法案の締めくくり質疑が麻生首相出席の下で開催され、同法案は与党の賛成多数で可決された。続いて午後の衆院本会議で「海賊」対処法案は可決され、参院にまわされた。四月十四日に審議入りしてからわずか十日足らずのスピード審議で、衆院を通過したことになる。政府・与党は参院でも審議のテンポを速め、野党の反対で否決されることを見越したうえで、「三分の二条項」を使って衆院で再可決し、今国会中の成立をねらっている。 われわれは改めて訴える。「海賊」対処法案は、「対テロ」戦争への自衛隊の実戦的参加をさらに一歩進める憲法破壊の派兵・戦争法案である。そのことは@ 特措法ではなく、期限のない「通常法」の形で自衛隊を海外に派兵し、戦闘参加を想定したものであることA海上保安庁法を準用する形で、従来のPKO法派兵や「特措法」派兵のような「武器使用」についての制限を大幅に取り払い、任務遂行のための武力行使、すなわち先制攻撃による「敵戦闘員」の殺害に踏み込むものであることB護衛の対象をすべての国の船舶へ拡大し外国軍と密接な連絡を取って行われる活動であり、「集団的自衛権」行使への事実上の踏み込みであること、などに示されている。 実施計画対象外 の外国船護衛 政府・与党は「海賊」制圧は「警察活動」なのだから「武力行使」にはあたらない、国会での事前承認もいらない、として批判から逃れようとしている。しかし最新鋭の護衛艦やP3C対潜哨戒機を投入した「船舶護衛活動」が戦闘行為であることは明白である。問題は「警察活動」と軍事活動が限りなく一体化し、自衛隊が「警察活動」をも担うことで、その活動分野が広がり、「武力行使」への制限がはずされることである。 ソマリア沖の「海上警備行動」名目で三月十四日に呉を出港した「さざなみ」と「さみだれ」は、三月三十日にはソマリア沖・アデン湾で配置についた。いざ任務につくや今回の実施計画では「日本関連船舶」となっている護衛対象の枠を超えて四月四日にはシンガポール船、同十一日にはマルタ船への「保護」に踏み出した。「海賊船」とおぼしき「不審船」に追われているという無線連絡を受け、海自護衛艦が「不審船」に接近し、「大音響装置」を使って「警告」し追い払ったというのである。この護衛艦の活動には法的根拠がない。かりに「不審船」が抵抗の姿勢を見せたなら、海自護衛艦は攻撃を加えていただろう。 浜田防衛相は「あいまいなところをはっきりさせる上でも、新法は必要」と語った。つまりこの活動が脱法行為であることを浜田は認めたのである。それならばただちに海自護衛艦を撤退させるべきだ。しかし実際には違法・脱法行為を積み重ねて既成事実とすることで、逆に「海賊」対処法案早期成立のテコにしようとしている。これを許してはならない。 「国際貢献」の ウソを暴こう 米軍の「対テロ」戦略に組み込まれた自衛隊のソマリア沖派兵と「海賊」対処新法案は、「派兵恒久法」の先取りであり、「集団的自衛権」発動を違憲とした「政府見解」変更への水路である。「北朝鮮ミサイル」破壊措置命令発令とも重ね合わせて、麻生首相は安倍政権時代の「安保法制懇」の座長だった柳井・元駐米大使と会い、「集団的自衛権」行使容認を提言した「安保法制懇」を復活させる意向を明らかにしたと報じられている。 戦後最悪の資本主義の危機が、新自由主義的「構造改革」路線の帰結である貧困・格差社会を直撃し、麻生政権は十五兆円に上る二〇〇九年度補正予算案を含む「新経済対策(経済危機対策)」を発表するなど、危機乗り切りに躍起となっている。しかし同時に、グアム移転協定による辺野古新基地建設の加速化、「海賊」対処新法をはじめとした「派兵・戦争国家」づくりのレベルアップが確実に進められている。改憲勢力の巻き返しも着々と準備されている。 小沢秘書逮捕を契機に、民主党の「政権交代」への勢いは急速にしぼんでしまい、今や麻生政権の逆攻勢が目立つようになっている。民主党は「海賊」対処新法に対して、派遣される自衛隊員を首相を本部長とする「海賊対処本部」の本部員として兼任させるとか、派遣にあたって国会での事前承認を義務づける、とする修正案を提出した。しかし民主党はもともと「ソマリア海賊対策」派兵の火つけ役であり(昨秋臨時国会・衆院テロ特委での長島昭久議員の質問)、「海賊」派兵に賛成である。したがって衆院でもスピード審議・早期成立に協力的な姿勢で応じている。 「5・3憲法集会実行委員会」はこの間、ソマリア派兵に反対する三月五日の院内集会を皮切りに、三月九日、四月七日、十四日、二十二日と四回の国会前行動を積み重ねてきた。しかし「朝日」社説(1月24日)が海自護衛艦の派兵について「やむをえない判断」としたように、世論状況は「国際貢献」の欺瞞に満ちた土俵に乗せられたままである。 四月十二日、「海賊」の襲撃を受けて人質となった米貨物船「マークス・アラバマ」の船長を救出するため米海軍特殊部隊(SEALs)が「海賊」を急襲し、海賊三人を射殺した。四月十五日、フランスのフリゲート艦「ニボーズ」はケニア沖で小型船に乗った「海賊」十一人を拘束したと発表した。しかし四月十四日には米船籍の貨物船「リバティーサン」が襲撃され、ギリシャの海運会社が運航する貨物船とレバノンの企業が所有する商船が乗っ取られた。各国の海軍による先制奇襲、「海賊」の側からのゲリラ的逆襲という武力のエスカレートの可能性も大きくなっている。いずれにせよ「武力で平和はつくれない」のだ。 発信するソマ リア市民社会 「海自ではなく海保を」「海軍ではなくコーストガードを」という主張もまた、グローバリゼーションと「対テロ」戦争、大国の介入による国家と社会の破壊・荒廃というソマリア社会が抱える根本問題への責任に「警察的」に対処しようというものであり、問題の根源を見えなくさせるものである。 二〇〇七年一月にケニアのナイロビで開催された世界社会フォーラムではソマリアの若者や女性が参加したワークショップ・「ソマリア社会フォーラム」が開催された。 そのフォーラムでソマリアの青年は次のように語ったという。 「ソマリアでの紛争は政治的なものである。紛争を抑止する伝統的なメカニズムも存在するが、政治的危機が続いている。その背景には、様々な国々による介入がある。アメリカは石油利権に関心を持っており、イギリスは軍事的利益を見出している。エチオピアはソマリアを支配したいと考えている。アラブ諸国は、ソマリアの海に関心を示し、エチオピアに対抗しようとしてきた。それぞれの国が、ソマリア国内の勢力と結びついており、ソマリアにおける紛争はグローバルなものになっている。国際社会は、さまざまな利益を調整し、ソマリアに害を与えないようにすべきである」(大津祐嗣「ソマリア市民社会の声」、アフリカ日本協議会『アフリカNOW』76号 2007年3月)。 労働者・市民はこのような声にこそ耳を傾けなければならない。 (4月26日 純)
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