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刻印とともに登場した「国際化」統一球】
2010年8月、日本野球機構(NPB)は、それまで球団ごとに選択していた公式球について、12球団統一のいわゆる「統一球」を2011シーズンから使用することを発表した。⇒当時のNPBのリリース文
2010年8月統一球を発表する加藤コミッショナー(サンケイスポーツ)
コミッショナー自身が「国際試合でもNPBの選手のボールに対する違和感が少なくなることを期待しています」と説明したように、WBCをはじめとする国際大会のボールに合わせて行くということが理由であった。
統一球の導入は、結果的には大幅な打率の低下、ホームラン数の減少、防御率の大幅向上など、実際の記録に甚大な影響を与えた。あまりの感触の違いにほとんどの選手たちは当初から大きな戸惑いを見せていたが、WBC大会での連覇を受けての「ボールの国際化」という説明に、一定期間様子を見るという前提でこれを受け入れていた。
また、この統一球には、はじめて加藤良三コミッショナーの直筆のサインが刻印された。
MLBの市場拡大に大きな成果を出したセリグコミッショナーのサインが入るMLB使用球を模したわけだ。しかし選手の間では、WBC関連の交渉に何ら力を発揮しないコミッショナーが、「ボールの国際化」だけを先行させたことへの反発もあって「プレーでボールを見るたびに腹が立つ」という声さえ聞こえて来た。
【こっそり変更された「国際化」統一球】
この「国際化」統一球だが、実は、今シーズンから変更されたことが明らかになった。しかも、12球団や選手会に一切その事実を伝えることなくいわば”こっそり”変更されていたというのである。
今シーズン開幕以来、実際にプレーする選手はもちろん、記録への影響などから記者やファンの間でも「ボールが変更されているのでは?」という多くの疑問の声が上がっていた。選手会からNPBに対して、ボールが変更されているのではないかという非公式な問い合わせを行ったこともあった。しかしコミッショナー事務局の回答は「ボールは変更していない」という一点張りであった。NPBを取材をしている複数の記者に確認しても事務局の回答は同様であったようであるし、ボールを製造しているミズノも「ボールは変更していない」という回答をしていたようである。
しかし、2013年6月11日、ボールの変更に関する公式な回答を求める選手会からの要請を受け、事務折衝後に行われた記者会見で、下田コミッショナー事務局長は、ミズノに対して、反発係数を調整する指示を行っていたことを対外的に認めたというのだ。
下田氏は、昨季の反発係数の検査で下限を下回るボールが頻出し、反発係数の下限を守るためにミズノ社に調整を要請したという趣旨の説明を行ったが、このように規則を守るためにやむなく要請したかのような説明は明らかに詭弁である。
2010年の統一球導入の発表の際、下田氏自身が「契約期間は2年。(その後ことは)1年、2年とやった時点で球団、選手の反応を聞いた上での判断になると思う。」(既出NPBリリース文)と公式に述べており、また、昨年新井前選手会長も個人的意見ではあるが「野球がさすがに面白くなくなっているのでは」という統一球の再検討を求める意見を伝えている。
そして、今回の変更の決定も、12球団の間でどのようなボールを使うべきかの議論があり、最終的に変更するもしないもコミッショナー事務局に一任された上でなされたというのである。規則を守るためだというのであれば、なぜその事実を隠す必要があるのだろうか。ミズノに対して「ボールは変更していない」という回答をするように指導してまで。
【こっそりは大きな問題!】
結論から言って、今回のコミッショナー事務局が、選手、12球団、ファンに意図的に事実を隠した対応には、非常に大きな問題がある。
1つ目は、選手会の目線からの問題だ。選手の労働条件に関わる問題だからである。出来高契約を結んでいる選手は多く、ボールの変更はこの契約条件の達成に大きな影響を与えてしまう。また、ボールが変わることによって選手のフォームなどへの影響もあるし、また投手の打者の攻め方だって変わってくる。これを知らせずに変更する事自体あり得ないことなのである。2011シーズンの統一球のスタートは前年の8月に通知した上で行われているし、選手の意見を聞いた上で継続を決めると明言されている。今回のこっそり行った変更は、あまりに野球をプレーする現場を軽視した行為と言って良い。
2つ目は、ファンに対する裏切りとも言うべき観点である。毎年野球を楽しみにしているファンに嘘を言ってまでスポーツエンターテイメントを提供していたという事実は、ファンとプロ野球との信頼関係を大きく損ないかねない。
【なんでこっそり?!】
では、コミッショナー事務局はなぜこのように明らかに不誠実な対応をとったのであろう。
当初の統一球は、約1メートル飛距離が落ちると想定していたところ、実際に風洞実験を行うと3メートル程度飛距離が落ちるものだったようである。仮に今回の変更を、統一球導入当初の約1メートルという想定レベルにするための変更と位置づければ、説明に窮するようなことはないはずである。にもかかわらず、NPBはボールを調整、変更したことを認めようとしなかった。全く理解できない対応である。
今回のボールの変更には、コミッショナー自身の関与があったといわれている。そこには「ボールの国際化」を高らかに打ち出し、自らの直筆サインまでボールに刻印した加藤コミッショナーのプライドのようなものが透けて見えてこないであろうか。当初の統一球を失敗であったと認めたくない。「ボールの国際化」はどこへ言ったと言われたくない。そんなことが理由で、選手の労働条件や、ファンとのプロ野球との信頼関係がないがしろにされたのだとすれば、これは到底許しがたいことである。
これが理由であるならば、加藤良三コミッショナーに対して「自らのプライドの象徴とも言える統一球の刻印とともに退場すべき」と言っても批判されることはないであろう。
コミッショナーは事務局の責任にするのではなく、自ら選手やファンが納得できる”こっそり”の理由を早急に説明するべきである。
石渡 進介
ヴァスコ・ダ・ガマ法律会計事務所パートナー弁護士
弁護士としての専門領域は、IT、スポーツ、エンタテイメントなどのコンテンツビジネス領域全般および危機管理PRなど。クックパッド株式会社の取締役兼執行役COO、株式会社コロプラ等の社外取締役、日本プロ野球選手会の運営委員などを務め、近年は行政刷新会議の行う事業仕分けなどで仕分け人としても活躍。
Twitter
@shinsukeb
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http://bylines.news.yahoo.co.jp/ishiwatarishinsuke/20130612-00025627/
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