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メジャーリーグ(MLB)挑戦を表明していた花巻東高の大谷翔平選手が、北海道日本ハムファイターズ入りを決めました。当初、国内は「ゼロ%」と公言していた大谷選手を、見事に翻意させたファイターズのスカウト陣の手腕は見事だったと言えるでしょう。
大谷選手の心変わりを批判する向きもあるようですが、大谷選手はまだ18歳。文字通り未成年でまだ子供です。これからようやく自分の人生に向き合おうとする若者ですから、考え方が変わることもあるでしょう。ファイターズはドラフト1位指名を棒に振るリスクを取って、大谷選手獲得というリターンを得ました。同じリスクを取らずに結果から批判するのはフェアではありません。
さて、日本人なら誰もが知っているこの“大谷騒動”ですが、実は米国ではほとんど報じられていません。報じているのは、一部活字メディアに限定され、テレビなどでは全く報じられていません。要は、調べれば出てくるけど、米国で普通に生活しているレベルでは全くこのニュースに触れる機会はありません。
仮にマンハッタンで街頭インタビューを敢行し、「MLB挑戦を表明していた大谷選手がファイターズ入りを決めた件についてどう思いますか?」とニューヨーカーに質問したら、十中八九「大谷選手って誰?」という回答が返ってくるでしょう。
僕も日本人ですし、一応元高校球児ですから、高卒の日本アマ球界トップ選手が初めて日本プロ野球界を経ずにMLBに挑戦しようとしているというニュースはもっと大きく報じられても良い(報じて欲しい)ようにも思うのですが、残念ながら次の2つの理由から、こちらでは日本ほど大きく報道されることはありません。1つはタイミングの問題、もう1つは日米球界での育成モデルの違いです。
新人選手がチームの中心戦力にはなりえない
今、MLBではどのチームも来シーズンの中心戦力を整備するので手一杯の時期です。ヤンキースを例に挙げるなら、今季実質的にエース級の活躍をした黒田投手とは早々に契約更新を行いましたが、イチロー選手はまだ交渉のテーブルにすら着けない状況です。
当然、ファンの興味関心も「球団フロントは来シーズンに向け今年の弱点を克服する補強を行ってくれるだろうか?」という点が中心になりますから、いつ活躍するかもわからない新人選手の動向など現時点ではどうでも良いのです。
また、もう少し広い視野で考えると、「米国で注目度ゼロのWBC。その3つの理由」でも触れましたが、アメリカでは1年を通じてたくさんのスポーツが開催されており、基本的に今やっている「生もの」の競技しかメディアが取り扱わないのです。今なら、スポーツニュース報道の大半が、プロフットボール(NFL)、大学フットボール、米プロバスケットボール(NBA)などで独占されています。
“少数精鋭囲い込み型”の日本と、“大量採用サバイバル型”の米国
“大谷騒動”が米国で報じられない2つ目の、そしてより本質的な理由は、日米ではマイナーの位置づけが大きく異なるためです。
米国のマイナーリーグは最下層の「ルーキー・リーグ」からメジャー直前の「トリプルA」まで7階層に分かれており、各階層のチームにはそれぞれ登録選手枠の上限(ロースター・リミット)が設けられています。メジャー球団は、この7階層全てのレベルでマイナー球団を保有しなくても良いのですが、最大で250名のマイナーリーガーを保有することができることになっています(下図)。
つまり、40人のメジャー一軍枠を巡って290名の野球選手がしのぎを削ることになるのです。競争率を単純計算すれば、倍率7.25倍となります。
更に、過酷な競争に追い打ちをかけるのが最大50ラウンドに及ぶドラフト制度です。つまり、ただでさえ競争の激しいサバイバル環境に、毎年50人もの新人選手が大量に投入される(=50人の選手が解雇される)のです。290選手中、50名が入れ替わるわけですから、“選手回転率”は約1/6となります(1年で球団が抱える1/6の選手が入れ替わる)。
一方、日本のプロ野球では、一軍と二軍を合わせた支配下登録選手の上限は70名で、うち一軍登録選手は28名。競争率は2.5倍です。また、毎年ドラフトで指名される新人選手(育成選手は除く)は最大7名までですから、“選手回転率”は1/10となります(1年で球団が抱える1/10の選手が入れ替わる)。
このように、同じ9名でプレーするのは同じですが、一軍の舞台に立つまでの道のりに日米で大きな違いがあるのです。
米国ではマイナーに入ってからが本当のスタートで、そこから厳しいサバイバル競争に勝ち抜かなければメジャーでスポットライトに当たることはできません。その意味で、“大量採用サバイバル型”の育成モデルになっていると言えます。どんなにアマチュア時代に名を馳せた選手でも、メジャーに昇格するまでにマイナーで3年前後“修行”することが普通です。そのため、MLBでは「高卒即戦力」「大卒即戦力」といった言葉はありません。
一方、日本のプロ野球は一旦プロ選手になってしまえば、あまり激しい競争にはさらされず(あくまでもMLBとの比較という意味です)、短期間での結果にとらわれず、じっくりと育ててもらうことができるのです。その意味で、“少数精鋭囲い込み型”の育成モデルと言えるかもしれません。
このように、日本では「高卒即戦力」とも噂される大谷選手は、一軍の戦力にインパクトを与えうる選手として認識されており、それが故にメディアでも大きく扱われるわけです。しかし、米球界では余程アマチュア時代に(米国で)傑出した実績を残した選手以外は、米国ではマイナーに入ってもそこから頭角を現さなければ注目を浴びることはありません。
日米で大谷選手の動向のメディア報道にギャップがあるのは、こうした日米球界での選手育成環境の違いがあるのです。
鈴木 友也
スポーツ経営コンサルタント
ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社「トランスインサイト」代表。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、マサチューセッツ州立大学大学院に留学(スポーツ経営学修士)。世界中に眠る現場の“知(インサイト)”を発掘し、日本のスポーツ界発展のために“提供(トランス)”する。そんな理念で会社を設立し、日本のスポーツ組織を中心にコンサルティング活動を展開
http://bylines.news.yahoo.co.jp/suzukitomoya/20121211-00022697/
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