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■「自分たちのサッカーをやり通して勝つのが一番いい」
この日2得点を挙げた柴田。相手に傾きかけた流れを引き戻した【写真は共同】 U−20女子ワールドカップ(W杯)は30日から決勝トーナメントに突入。東京・国立競技場では、19時30分の日本対韓国に先立ち、16時からナイジェリア対メキシコの試合が行われていた。
ナイジェリア・サポーターによる、独特のリズムが断続的にスタジアムを包む中、拮抗(きっこう)した試合展開が続いた。ゲームを支配していたのはナイジェリアだが、メキシコも守護神サンティアゴがファインセーブを連発し、劣勢にあってもしっかり後方からビルドアップしてチャンスをうかがう。なかなか点は入らないものの、どちらも持ち味を生かしたサッカーを展開していて、あっという間に時間が過ぎてゆく。試合は0−0のまま決着がつかず、今大会初の延長戦へ。そして延長後半4分、オパラノジーの決勝ゴールが決まり、ナイジェリアがベスト4一番乗りを果たした。
それにしても、今大会の日本は運に恵まれている。何しろ今大会屈指の攻撃力を誇るナイジェリアと北朝鮮、そして北中米の実力国である米国とメキシコがまとめて反対側の山へ行ってくれたのだから(日本との初戦で1−4の大敗を喫したメキシコだが、大会が進むにつれて持ち前の力を発揮していたのはさすがである)。これらの国々とは、決勝(もしくは3位決定戦)まで対戦することはない。一方、日本の山に組み込まれたのは、韓国、ドイツ、ノルウェー。本当の意味での強豪はドイツくらいであろう。そうして考えると、つくづくグループリーグを1位通過してよかったと思う。
この日、日本が対戦する韓国は、初戦でナイジェリアに0−2で敗れたものの、その後は見事に立ち直り、イタリアとブラジルをいずれも2−0で下している。しかも韓国は、昨年のAFC U−19選手権では4位に沈み、当初はW杯の切符を手にすることすらかなわなかったのである。ところが、開催国がウズベキスタンから日本に変更されたことで、繰り上げで韓国が出場権を得ることとなった。あまり準備期間がなかったにもかかわらず、それでもベスト8進出を果たしたのは、さすがと言うほかない。加えて日本にとって韓国は、2年前のU−17女子W杯決勝でPK戦の末に敗れた因縁の相手でもある。
それでも日本は、この難敵に対して「自分たちのサッカーをやり通して勝つのが一番いい」(吉田弘監督)という決断を下した。結果としてこの決断が、ヤングなでしこにとって初となる、ベスト4進出の原動力になった。
■相手に傾きかけた流れを引き戻した柴田のゴール
この日の日本のスターティングイレブンは、以下の通り。GK池田咲紀子。DFは右から高木ひかり、土光真代、木下栞、浜田遥。中盤は守備的な位置に藤田のぞみと猶本光、右に田中美南、左に田中陽子、センターに柴田華絵。そして1トップに西川明花。4日前のスイス戦から3名が交替。このところ日本のスタメンは、毎試合3名が入れ替わっていており、ここまでのフル出場は池田、猶本、土光の3名のみ。複数のポジションができる選手が多いため、吉田監督としては疲労の蓄積を勘案しながらチームを回していきたいところだろうが、それでも替えの利かない選手はどうしても出てきてしまう。
日本の先制ゴールは開始早々に生まれた。猶本のカットしたボールを田中陽が受け、さらに縦方向の西川へとつなぎ、西川が前線にスルーパス。飛び込んできた柴田が相手GKよりも一瞬早くワンタッチで押し込み、ボールはそのまま無人のゴールに吸い込まれていった。柴田の勇気と冷静さが際立った、見事なゴールである。
この1点で気持ちが楽になった日本は、さらに攻勢を強めていくが、逆に15分に韓国のカウンターを招いてしまう。20番のイ・グンミンが、スピードを生かしたドリブルで左サイドを切り裂いてクロスを供給。これに中央からフリーで11番のチョン・ウナが、頭で押し込んで同点とする。先のブラジル戦でも見せた、韓国が最も得意とする得点パターン。一瞬、スタジアムに嫌な空気が漂い始める。
いったんは相手に傾きかけた流れを引き戻したのは、吉田監督が「この試合のMVP」と称賛した柴田であった。4分後の19分、右サイドの田中美からの折り返しを中央で受けた柴田は、短いドリブルでコースを空け、そのまま左足を振りぬく。GKが精いっぱいのセービングを見せるものの、弾道はポストの内側をたたいてそのままゴールイン。柴田の連続ゴールで、再び日本が1点リードする。
その後、韓国はセットプレーからたびたびチャンスを作るが、日本は何とかこれに持ちこたえると、37分にさらに追加点を挙げる。右サイドでボールを受けた田中美が、3人の守備陣を引きつけながら、オーバーラップしてきた高木にパス。高木は加速しながら一気にゴールへ突進していく。そのままシュートを打つかと思ったら、ゴールラインぎりぎりで折り返し、逆サイドで巧みに相手のマークを外した田中陽が楽々とゴールを決める。4試合連続、今大会5点目を挙げた田中陽は、これでゴールランキング単独2位に浮上。前半は日本の2点リードでハーフタイムを迎える。
<続く>
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/2012/text/201208310002-spnavi.html
韓国はなぜオープンな戦い方で臨んだのか?
ヤングなでしこは初のベスト4に進出。あと2試合を見られることになった【写真は共同】 エンドを替えた後半は、両者共にゴールはなかったものの、日本の的確なディフェンスをじっくり観察することができた。特に守備面で貢献していたのが、猶本と藤田のボランチコンビ。彼女たちへの吉田監督の指示は「10番(ヨ・ミンジ)と11番(チョン・ウナ)が下がって来てボールを受けて、そこで起点になることが非常に嫌だったので、そこのコースを切りながらポジションを取れ」というものであった。
一方、センターバックの木下は「(韓国のゴールが)入ってしまったときは、自分たちが(相手の)ターンに甘かったという認識なので、前を向かせないようにしてボランチや中盤の選手にプレスバックするという守備を話し合って、そこは徹底してできるようになった」と振り返る。後半、韓国の中盤がプレッシングを強めながら積極的に仕掛けてくる中、それでも日本のディフェンス陣は前半の失点の原因をきちんと修正し、破たんすることなく90分を終えたことは十分に評価してよいだろう。
とはいえ、さすがの日本も時間の経過とともに疲労の色は濃くなってゆく。ベンチは、前半終了直前に高木に代えて中村ゆしかを、さらに後半16分には浜田を下げて横山久美を投入する。両サイドバックを替えるという大胆なさい配は、おそらくけがかコンディション不良によるものだろう。横山投入の際には、左MFだった田中陽をひとつ下のサイドバックに下げている。彼女は、所属するINAC神戸レオネッサでもサイドバックで起用されることが多く、吉田監督も「想定内」とは語っていたものの、さりとて積極的なポジションチェンジであったとは思えない。
そうして考えると、2点リードされていた韓国も、やりようによっては十分に勝機があったように思えてくる。170センチ台の選手を前線に並べ、執ようにロングボールを繰り出していけば、いずれ日本のゴール前にほころびが生まれていたかもしれない。あるいは、ラフプレーぎりぎりのフィジカルを前面に押し出したプレーで、心理的に相手を圧倒するという戦い方もあっただろう。だが韓国サイドは、あくまでビルドアップとパスサッカーによるオープンな戦い方にこだわり続けた。その理由について、韓国のチョン・ソンチョン監督はこのように述べている。
「日本のサッカー界も同じ考えだと思うが、サッカーというものは1日や2日で成長するものではなく、日々の積み重ねによって発展していくものだと思っている。持続的に日々、丁寧にしっかりとサッカーしていくことで、いつしか上位にランクしていくものではないか(と考える)」
■どれだけ両国間にギャップがあっても
つまり韓国は、結果よりも内容を重視したのである。いくら因縁の日韓戦とはいえ、アンダー世代の国際大会であれば、ある意味当然のことと言えよう。加えて、ロンドン五輪の3位決定戦の時のように「史上初のメダル」や「兵役免除」、さらには「光復節(日本統治からの解放を祝う祝日)直前」といったバイアスがなかったことも無視できない。いずれにせよ、韓国はオープンな戦いで日本に挑み、当然の帰結として、技術力とチームの完成度の差がそのままスコアに反映されることとなった。
試合後、健闘むなしく敗れた韓国の選手たちに、スタンドから温かい拍手が送られた。日韓関係が非常に危うい時期に開催された、今回の日韓戦。幸い、政治的なノイズに邪魔されることなく、無事に90分を終えることができた。そして両チームの選手もスタッフも、さらには両国のジャーナリストもサポーターも、きちんとサッカーに集中していた。当たり前といえば当たり前の話だが、このところ政治の世界で「当たり前と思われていたこと」がことごとく覆される事態を見てきたので、いささか疑心暗鬼になっていた。とはいえ、スポーツはスポーツ、サッカーはサッカーである。どれだけ政治体制や国民性や歴史認識にギャップがあっても、サッカーのルールはひとつであり、だからこそ国を代表していてもオープンに戦える。そのありがたみを、図らずも痛感した日韓戦であった。
かくして私たちは、ヤングなでしこの戦いをあと2試合、楽しめることとなった。ライバルを打ち負かしたこと以上に、彼女たちの意外性とエンターテインメント性に満ちたプレーを引き続き見られることは、実に喜ばしい。セミファイナルでの対戦相手は、ドイツとノルウェーの勝者(おそらくドイツだろう)。今まで以上にタフな試合になること必至だが、それでも選手たちに気負う様子はない。猶本は言う。
「史上初のベスト4ということですが、わたしたちは最初から優勝を狙っていますし、U−17W杯で準優勝しているので、特にうれしさとかはありません」
その心意気やよし! こうなったらぜひとも、このままファイナルまで突き進んでほしいものだ。そしてその時は、あの国立競技場を満員にして、日本女子サッカーの歴史に新たな1ページを加えようではないか。
<了>
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