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「バーン」。大きな爆発音とともに「ショット機」と呼ばれる設備の鉄の扉が突然、激しい勢いで開いた。すぐ近くで作業していた社員Aさんは、厚さ一〇ミリほどの扉に顔面を直撃され、骨折する重傷を負った。
四月二七日午後八時ごろ、トヨタ系部品メーカー・株式会社ファインシンターの春日井工場(愛知県春日井市大泉寺町)で爆発事故は発生した。設備から出た火は消火器で消し止められたものの、消防と警察が駆けつける騒ぎとなった。
社員一人が大ケガをするという業務上過失傷害の疑いもある事件性の高い爆発事故である。にもかかわらず、東証二部上場企業であるファインシンターは現在に至るまで情報を開示していない。
ファインシンターは、春日井市明知町に本社を置き、春日井をはじめ、埼玉や滋賀などにも工場を持つ。自動車のエンジンなどに使う粉末冶金製品を中心に製造しており、二〇一〇年三月期の連結決算は売上高三一六億円、純利益一一億円を計上している。
筆頭株主はトヨタ自動車株式会社(二〇・八%)で、年間八〇億円ほどの取引がある。同社の水野豊社長も、トヨタ本社からの {天下り} である。
ファインシンターの主力である粉末冶金製品とは、鉄粉などを高速でぶつけることにより、研磨したり、強度を高めたりした部品のこと。ショット機はそのための設備だが、部品にぶつかった後の細かい粒が原因で、粉塵爆発を引き起こす危険性があるとも指摘されている。
Aさんと同じ工場で働くBさんによると、実はこのショット機の爆発事故は二回目だ。「事故の数日前に『安全対策に不備があるから、また爆発事故が起こる可能性がある』とAさんに話していた」ところだった。
一回目の爆発事故は〇七年九月ごろに発生した。今回と同じ粉塵爆発による事故で、負傷者も出たという。「もともと危険性が高い設備なのに、会社は詳しい原因を調べなかった。掃除をこまめにすれば事故にならない、と結論づけた」。扉が簡単に開かないように加工するなどの措置もとらないまま、作業は継続。結果的に今回の事故につながった。
これ以外にも「爆発事故や火災が頻繁に起こっている」とBさんは証言する。同じ春日井工場で、一回目の事故と同時期の〇七年九月ごろに真空炉の爆発事故が起こったほか、たびたび火災も発生。これらについては「労働基準監督署や消防署にも報告していない」と隠蔽している疑いさえあるという。
「安全で働きやすく活力に溢れた職場を確保します」「法令の遵守はもちろん、倫理規範に則した誠実で責任ある行動をとります」。ファインシンターが掲げる行動憲章にはこうした記述がある。
しかし、Bさんは「コンプライアンス(法令遵守)も何もあったものではない」「利益を出すために安全に最低限のお金しか使わない」と会社の姿勢を批判する。
Bさんは、労基署の対応にも不満を抱いている。一回目の事故の後、名古屋市東北部や春日井市などを管轄する名古屋北労基署へBさん自ら申告し、指導を要請していた。二回目の事故が起こり、五月二〇日にあらためて訪れたが、満足いく回答は得られなかった。
「労基署は(一回目の事故について)話を聞きながら十分な指導を怠り、(結果として)今回の事故が起こった」と、労基署の監督責任もあるのではないかと指摘する。
会社側は五月一三日、春日井工場の全従業員を集め、安全対策の不備を認めるなど、反省の意を表した。また、筆者の取材に対し「これまでの安全管理が甘かったと言われれば、そうかもしれない。(水野)社長をトップにした安全衛生委員会で毎回議題に挙げて、対策は講じている」と説明した。
今回の事故の被害者Aさんは七月一日にようやく職場に復帰した。Bさんによると、まだ顔面にしびれが残っている状態という。
最近はレクサスのリコールがあったが、その報告遅れも指摘されている。メーカーとしての真摯な姿勢があらためて問われている。
(記者ネット名古屋)
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