【人気アニメ『ガンダム』生みの親が語る若者論】 無残な大人たちに物言う資格なし 消費をしないニュータイプは正しい『機動戦士ガンダム』シリーズで、30年にわたって若者の支持を集めてきた富野由悠季監督。その目には、現在の若者の存在がどう映っているのか。 ――今の若者世代の問題点は? 若い人たちよりもむしろ、今40代、50代の人々のものを考える力が衰えていて、これが若い人たちに波及しているのだということを、認識するほうが先でしょうね。 一般教養や学識をきちんと束ねられなくなった大人たちが、どうして若者の問題を論じられるのかが一番の問題であって、若者の責任は2番目でしょう。 バブル景気までに、われわれの世代はそれまで培ってきた道徳律や価値論を捨ててしまったから、新しい時代に向けての新しい規範を生み出せていないのが問題なのです。 だから若い世代に「お前らはだめだ」と言う論法は、僕の中にはないですね。 自民党は何百人もの議員がいる組織なのに、あの程度のリーダーしか担ぎ出せないのは無残なものです。ほかにも、自己権益を守る官僚とか、10億円単位の年収をとる経営者とか、フィクションの世界でやっている金融ファンドを実業と思っている大人とか。でも、それを無残だと認識している大人はいないでしょ? 自衛隊内にはクーデターの芽が育っていても、大人たちはその危機感すら持っていないのだから、若者論を論じている暇なんかありません。 ――最近の若者は冒険をしない、消費をしないという傾向があります。 若者が温室の中で飢えることなく暮らしていけるシステムを作ってしまったのは、われわれなのです。そういう温室育ちの子が温室の外に出ていくわけがないでしょう? 指摘されたようなことは、マスコミの表層的なデータ論にすぎない。若者の行動よりも、若者に「温室から外に出ろ」という自覚を喚起する言葉を、僕の世代ではなく、今の中年といわれる世代が発信していないことのほうが問題だと思っています。 では、その中年世代が何をやっているかというと、技術革新だ、IT革命だと言っているけれども、要は携帯を2〜3年ごとに買い替えさせているだけでしょう。あれだけ高性能で便利な道具だったら死ぬまで使えるのに、なぜ2〜3年でモデルチェンジしなくちゃいけないのか。今のビジネスモデルの都合だけの消費活動は15年後には成立しませんよ。 もう一つは、僕は小学校の頃から広告というのがものすごくいやで、なぜ欲望を喚起しなくてはいけないのかがいまだにわからないのです。そこまで消費活動を奨励するというのは、欺瞞行為だと思っています。 その意味では、今の若い人たちはそれに気づいていて、世間に対して警鐘を鳴らしているのかもしれない。このジャケットはまだ着られるんじゃないか。あんな高層マンションを作ってどうするんだ。資源やエネルギーは有限なのに、今の経済システムでやっていけるのかということです。ひょっとしたら、今回の経済危機をきっかけに、消費を拡大しない経済システムを構築する時代に入ったのではないか。僕流に言うと、感覚的というよりも、肉体的にそれを要求しているのだと思います。 ――若い人には日頃から厳しい発言をよくされていますが。 若い人たちに厳しく言っているように聞こえるのは、それこそ温室育ちだから、ブレ幅をちょっと大きくしてあげないといけないという意味で、こういう視点もあるということを伝える努力をしているつもりです。もっとも、厳しい物言いをしても彼らはショックを受けていません。言葉に不感症なのです。しかられた経験がないので、痛みもあまり感じない。子供のご機嫌取りの大人が多いから、こうなったと思っています。国家百年の計をこの子たちが担うことを想像できる大人がどれだけいるのかという問題なのです。 才能に民主主義はありえないから、才能を見つけて、その才能にすがるしかない。こいつになら国家の計を託せるという才能を見つけるしかないのです。才能に年は関係ない。20歳の人間に国家を委ねても構わないと僕は思います。だから今、若い人を僕が厳しく仕込んでいるように見えるのは、目の前の20人、50人の中に、次の才能に気づく人がいてほしいからです。 ――若者自身が自分の才能に気がつけと。 人には、年をとらなければ化けない大器晩成型もいます。だから「もうだめだなんて思うな」というモチベーション喚起の必要性も感じています。ただ現実的には30代以上の家庭を持った大人たちは、思考回路をチェンジできません。だから自己改革するなら22歳以下しかない。20代も後半になったらほとんどだめだと思っています。 ――30〜40代では変革できない? 僕自身を振り返ると、30代、40代でそれほどチェンジできなかったので、変われるのは勉強している22歳までだと思っている。それ以後は、よほどの才能を持った人、もしくはよほどの危機感を持って自己改革を目指す人以外は、希望が持てないでしょうね。 ――中年以上の世代が若い世代にしてあげられることは? 国家百年の計とは、自分が死んでも、日本国が、この社会が維持していってほしいと思うこと。自分が死んだらおしまいではない。そういうふうに思えば、自分がやるべきことは見つかります。たとえば小中学校の通学路の補助員のようなことでもいいんですよ。それをしていくのがわれわれ世代の使命です。特に僕と同世代の人には「年金を手に入れて最低限の暮らしが保障されているのなら、その気力、体力を世間に向けて全部投げ出せ」と言いたいですね。 とみの・よしゆき●1941年生まれ。64年日本大学芸術学部映画学科卒。数多くのテレビアニメの演出を経て、79年に『機動戦士ガンダム』の原作・総監督となり、その後のガンダム・ブームを生み出した。小説家としても『リーンの翼』など著書多数。
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