★阿修羅♪ > 社会問題7 > 579.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
【2030年】第4部 都市はもちますか(3)要塞都市 ゲートが隔てる「安全」【産経】
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/091201/trd0912010800004-n1.htm
2009.12.1 08:00
セコムグループが建設した大型ゲーテッド・マンション。
金属製のゲートが内外を隔てる=東京都世田谷区(千葉倫之撮影)
鈍い光を放つ金属製の電動ゲートの中で、医師の大林隆さん(38)=仮名=一家は7軒の隣人とともに暮らしている。
東京都世田谷区の高級住宅街。
主に防犯のため住宅地の周りをフェンスやゲート、監視カメラで囲んだ「ゲーテッドコミュニティー(要塞(ようさい)都市)」と呼ばれる、わが国ではまだ珍しい形態の住まいである。
敷地への出入りは2カ所のゲートに限られ、敷地内の「プライベートアベニュー」と名づけられた石畳の共用路に2階建てが4棟ずつ向き合う。
最寄り駅から徒歩5分。価格は4LDKで1億6千万円台という。
大林さんは「最初にゲートを見たとき、すごくいいなと思った。単純に。やはり安心を買うということです。
子供は自由に遊べるし車も通らない。外から変な人も入ってこない」。
親の代からの世襲医師ではなく、都内の医院に院長として勤務し年収は千数百万円。
長女(3)の誕生を機に平成19年、分譲と同時にローンで購入し、神奈川県内のマンションから移り住んだという。
「『中の人』とはおみやげを持っていったり、おすそ分けしたりと近所付き合いをしている。
だから『中の人』ははっきり分かる。
『外の人』とは社会人として、会えばあいさつするようにはしている。
周りの人がどういう目で見ているのか、聞いたことがないので分からない。
外の地域の集まりに出たこともない」
渋谷区のゲーテッドマンション(8棟670戸)は大林さんの住宅地と同じデベロッパーなどが手がけた。
ゲートに警備員が常駐し住人以外を誰何(すいか)する。
広告にはこうあった。
《一国一城の主、などと言われますが、いま住まいに必要とされているものはいわば「城門」。》
監視カメラ120台
ゲーテッドコミュニティーは治安が悪化した米国で1980年代に増え始め、現在は約5万カ所あるといわれる。
欧州や南米、アジアへと広がり、わが国では2000年代初頭から大都市圏を中心に現れ始めた。
上智大学大学院の中野佑一さん(29)=都市社会学=の研究によれば、ゲーテッドは今年6月時点で全国に少なくとも151カ所。
一戸建てのゲーテッドは大林さん一家が暮らす世田谷の物件をはじめ、東京都武蔵野市、岐阜市、兵庫県芦屋市の計4カ所にある。
残りはすべてマンションだが、セキュリティーの強度はさまざまという。
世田谷区の公団住宅跡地に警備会社最大手のセコムグループが建設したゲーテッドマンション(9棟363戸)は、来年1月に入居が始まる。
外周のフェンスにセンサーを通し監視カメラは約120台。
分譲価格は2LDKで4千万〜7千万円台、3LDKで5千万〜1億2千万円台という。
セコムホームライフの執行役員、塩入修さん(53)は「購入者のセキュリティーへの関心は非常に高い。
われわれのコンセプトに共感してくださっている」。
購入層は40代が最も多く、共働きで子供のいない夫婦が目立つという。
塩入さんにゲーテッドの閉鎖性を問うと「ご覧の通り、周囲は目に優しい植栽で覆われ、印象として『城壁で囲っている』というのとは全く異なる」と答え、こう問いかけられた。
「考えてみてください。一戸建てでも施錠してフェンスで囲う。
ゲーテッドも考え方は同じです。
この言葉や発想を聞いた人は排他的だと受け止めてしまうとは思う。
でも自分の家のこととして考えれば、いまや安全を守るのは当たり前と思うのではないか」
排除型社会
上智大学の中野さんは、首都圏のゲーテッド51カ所を実際に見て回った経験から「米国のゲーテッドが、富裕層が貧困層を排除するためのものといわれるのに対し、日本ではむしろデベロッパーや警備会社がセキュリティーを売り物にし、それを住民が消費する面が強い」と指摘する。
ではゲーテッドは何から身を守り、何を守ろうとしているのか。
中野さんが各物件の広告の文章を分析したところ、見張りの対象は「不審者や不審な車の侵入」「犯罪」「部外者の侵入」の順に多く、見守りの対象は「子供」「家族」「高齢者」の順だった。
近年、わが国は体感治安が悪化したといわれる。
だが龍谷大学の浜井浩一教授(49)=犯罪学=によれば殺人の発生件数は減少傾向を続け、暴力犯罪の被害も先進国で最低水準にある。
浜井教授は「不安をあおることは消費につながる。
それは健康食品も防犯マンションも同じだ。
ゲーテッドもその延長線上にあり、こうした防犯活動が強まれば今後、わが国の都市は異質な者を顧みない排除型社会になる可能性がある」。
わが国の都市は2030年、富裕層と貧困層が住まいの面で最も大きく二極化しているのかもしれない。
住まいをきっかけに、社会が両端へと大きく分かれているのかもしれない。
ゲーテッドコミュニティーが静かに増殖する現状は、その兆しにも映る。
世田谷のゲートの中で暮らして2年半になる大林さんは「20年後、ゲーテッドはもっと増えていると思う。
需要はあると思う」と言う。
「昔は囲わなくてもコミュニティーがあったが今はない。
ある程度、価値観を共有できる人だけが集まると住み心地がいい。
もちろん地域全体でそういうコミュニティーをつくれたら、それに越したことはないですが」
【2030年】これまでの連載