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「所得格差」が「教育格差」を生む冷酷な現実(日経BP)
http://www.asyura2.com/09/social7/msg/496.html
投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 10 月 14 日 19:53:16: mY9T/8MdR98ug
 

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091013/188159/

(金子元久=東京大学大学院教授)

 私がセンター長を務める東京大学大学院教育学研究科・大学経営・政策研究センターで行った「高校生の進路についての調査」で、親の年収によって大学進学率に大きな格差があることが明らかになった。

 子どもの受ける教育や進学率が、親の所得差によって影響され、「教育格差」につながっているとして社会問題化している。調査はこうした実態を探るためで、05年度に全国の高校3年生約4000人を抽出して3年間追跡した。保護者から聞き取った年収を200万円以下から1200万円超まで7つに区分し、進路との関係を見た。

 それによると、年収200万円以下の家庭では、4年制大学進学率は28.2%、200万〜400万円以下でも33.0%にとどまるのに対し、1000万円を超える家庭では62.1%、1200万円超では62.8%に達していた。(図表1)

裕福な家庭の子弟は、ほぼ希望通りの進路を歩んでいる

 また、両親に「経済的にゆとりがあればさせてあげたいこと」を聞くと、年収が低いほど「就職より進学」が高率となり、年収200万円以下では 27.4%だった。逆に「現在の希望から変更なし」は高所得者ほど高く、1200万円超の家庭では75.9%(図表2)。所得に余裕のある家庭では、ほとんどが希望通りの道を歩ませていることを示している。

 一方、進学先を見ると、国公立大は年収600万円未満はどの層も10%強、1200万円超でも12%強と大きな差はない。他方、私大進学の差は顕著で、 200万円以下は17.6%、600万円〜800万円以下は36.8%、1200万円超は50.5%で、200万円以下の2.9倍になった。低所得層にとって、私立大学進学は相当に高いハードルであることがうかがえる。

所得が高い親は、子どもへの確かな動機付けができる

「保護者の収入が多くなるほど右肩上がりに大学進学率が高くなる」「特にこの傾向は私立大への進学で顕著になる」というほぼ事前の予測どおりの結果となった。

 この調査は多くのことを示唆している。ひとつには、所得が高い家庭のほうが子どもの成績がよいという傾向があることだ。これは、塾に行かせたり家庭教師を雇ったりという補助的な教育の差よりも、高所得の親は子どもの将来のキャリアに対する確かな見通しを持っている点が大きい。小さいうちから子どもをしつけ、動機づけをしていくことが、家庭で比較的できているということだ。逆に言えば、所得が低い家庭では、こうした子どもへの動機付けが欠けているということになる。

 また、そうした傾向とは別に、成績が優秀なのに経済的理由で進学できない層が確実に存在するということだ。例えば親が病気になって収入が途絶えた、離婚などによって母子家庭となり、収入が少ないなどの家庭である。特に最近の離婚率の上昇やリストラによる失業でこうしたケースは顕著に増えている。

 そうした家庭のために奨学金があるのではという意見もあるだろうが、それらはすべて「ローン」であって返済義務がある。そのため、所得が低い層の人たちは奨学金を借りたがらない。特に最近は、大学を卒業しさえすれば就職ができ、奨学金を返済するのに十分な収入が得られるという保証がなくなったことも大きい。

 救済措置として以下のようなことが考えられる。卒業後の所得を確実に捕捉して、所得が低い人には返済免除をする一方で、返す能力のある人からはきっちりと取り立てることが必要となるだろう。また、入学前に親の所得を調べ、必要な層には授業料免除などの措置をとることも考えられる。

格差は小学校時代から始まっている

 親の所得格差で子どもに与えられる将来展望や説得力に大きな差が出ている点を既に指摘したが、そうだとすると、こうした格差は既に小学校時代から始まっていることになる。それは、文科省の全国学力テストの分析からも裏付けられる。所得の高い家庭ほど子どもに対する指導、しつけが行き届いて、結果的に子どもの学力に大きなプラスとなるのである。

 だから、表面的な「所得格差」を追うのではなしに、大都市を中心として子どもの教育に無関心な家庭がじわじわと広がり、結果的に基礎学力が低い層が固定しつつあることに注目する必要がある。そういった家庭の子どもは展望を持てず、将来何をしたらよいかよく分からない。しかも、メディアの学校の抑圧に対するキャンペーンが行き過ぎた結果か、親の権利意識ばかりが強くなり、学校でも子どもを押さえつけられなくなっている。将来に展望を持てず、一方学校からの強制もなくなれば、子どもが勉強しなくなるのも当たり前と言える。

 小中学校の頃から勉強についていけず、親も子どもも大学進学などあきらめている層が次第に広がっている。しかも、この問題は小学校から始まって累積的に拡大し、高校時代にピークアウトする。高校3年生では、1日3時間以上勉強する生徒が半分くらいいる一方、約3分の1はほとんど勉強をせず、宿題もせず、そもそも教科書を自宅に持って帰らない。こうした層は将来に向けた努力を、はなから放棄してしまっているのだ。学校に行っているだけでも意義はあるのかもしれないが、「学習」というものは、教えられる部分と自分で学ぶものとで構成される。後者が欠けているとすると、教育の効果は期待できない。

「底辺層」が固定化してしまう危険

 要は、多くの家庭や学校が子どもに学習のためのモチベーションを次第に与えられなくなってきたのが、日本の最大の危機なのである。従来は受験勉強がその役割を果たしていたが、大学全入時代を迎え、その仕掛けは破たんしてしまっている。また、大学を経ずに高卒で社会に出る道は、ますます細くなっている。従来大きな就職先であった製造業の正社員職が中国などに移転されてしまった結果、高卒での就職先はコンビニエンスストアなどのサービス産業の非正規社員しかなくなっている。進学するにせよ、就職するにせよ、ますます若者は目標を見出せなくなっている。

 所得格差問題が投げかけているのは、中堅・底辺層が固定してしまい、基礎学力が低いまま放置され、将来展望も描けずにいることだ。グローバリゼーションの時代にこうした傾向が広がったのでは、日本の競争力は低下し、国全体が衰退してしまう。

 だから、「大学進学」の量的拡大だけを論じるのでは不十分だ。4年制大学の進学率はここ数年で上昇しているが、長期不況の影響で高卒者の安定した就職口が激減し、仕方なく進学する人たちが多くなってきているのが原因だからだ。また、少子化によって無試験同然で入学させる大学も増えてきた。その結果として、大学での勉強時間も米国の半分程度にとどまっている。

 結果として、彼らの多くは在学中からやる気を失ったり、就職試験で連戦連敗し、そのままニートやフリーターになってしまいやすい。また、仮に正社員として就職できたとしても、3年以内に3割が辞めてしまうのである。

大学は学生の「動機付け」を支援すべき

 所得格差がそのままモチベーション格差として定着しやすいこと、モチベーションの低い層が拡大しつつあること…こうした傾向に対して何か手は打てるのだろうか。

 一つには大学がこうした現実を前提に大きく変貌することが求められている。これまでの大学では、学生は一人前であると勝手に想定して、講義はするけれど後は自分で勉強してくださいという態度をあからさまに取ってきた。これを改め、大学は学生にある程度の強制力を持って勉強させることが重要だ。自分で勉強するプロセスは大事だが、それにしても基礎的な手ほどきや学習スキルを身に付けさせるように大学の授業が機能する必要がある。

 また、将来の展望、目標をどう持たせるかも重要だ。「キャリア教育」とか「インターンシップ」の重要性が叫ばれているが、ちょっと企業人の話を聞いたくらいで将来の方向性が見つかるというものではないだろう。また、インターンシップにしても、一つの職場で経験したことが普遍的に役立つというものでもない。

 日本の学生は、最近ではサークルには参加せず、アルバイトに時間を割く傾向がある。経済的な問題もあるだろうが、それよりも現実社会に対する接触を求めているのだろう。いろいろな人と出会い、いろいろな経験をするということを、大学はカリキュラムの中に取り入れていくことが必要なのではないだろうか。たとえば地域の問題をとりあげて、チームでそれを解決するとか、短期留学制度を広め、異なるバックグラウンドの学生たちと交流させるといった具合だ。こうした経験の幅を広げることがモチベーションを促進させるのだと思う。

 大学に入る前に職業への展望を持ち、その結果として学部を選択するというのが理想的だが、多くの学生がそういう道を選択するというのは現実的ではない。あまり明確な展望を持っていない学生に、どうやって大学生活の中で経験の幅を広げ、自分で考えるプロセスを与えるかが、大学に求められている。

 ここでいう「経験」とは必ずしも実務のことを指していない。一つの実務を覚えても、それが他で役立つとは限らない。それよりも異なる人たちとの接触、社会(地域、職場、国際社会など)との接触を通じ、ある程度自分の頭の中を整理する回路をつくることが重要なのだ。

社会に出てからの「格差」問題の芽が、ここにある

 将来展望やモチベーションの問題は、社会に出てからの「格差」問題(例えば正社員対派遣社員)にも大いにつながっていると思う。現在大卒の3割が普通の就職ができていないし、就職しても3年以内にやめる確率は3割だ。そういう人たちが「まともな給料を払える正社員職」という限られたパイからはじき出され、そのまま固定化してしまう。そういう人たちの最大の問題は、自分に対する確信を持ったり、将来への展望を持ったりすることができないという点だ。

 こうした問題は、小学校時代からの積み重ねだと思う。学力とモチベーションは表裏一体の関係であり、問題にすべきは表面的な学力よりも自己確信の強さだと思う。競争社会とはそういう面の格差が強く働く社会なのだ。こうした傾向は先進国共通の問題である。社会が富裕化するにしたがって、何に向かって努力するのか目標が設定しにくくなる。その中で所得が高い家庭では目標を保つためのリソースを豊富に持っている一方で、所得が低い層はますます努力の対象を見つけられない危険にさらされる。

 問題の解決に向けて、高等教育機関である大学だけでなく、小学校、中学校、高校ともできることは多いはずだ。(談)


金子 元久(かねこ・もとひさ)
 1950年生まれ。シカゴ大学修了(Ph.D.)。教育学者(高等教育、開発教育)。東京大学教育学部長を経て、現在東京大学大学院教育学研究科・大学経営・政策研究センター長。高等教育研究の第一人者として、その業績は日本のみならず、国際的にも高い評価を得ている。著書に『教育・経済・社会』『教育の政治経済学』(放送大学教材)、『近未来の大学像』(玉川大学出版部、編著)、『大学の教育力――何を教え、学ぶか』(ちくま新書)などがある。

 

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