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http://www.asahi.com/national/update/1130/TKY200911300263.html
政党のビラを配るためにマンションに立ち入ることは住居侵入罪にあたる――。「葛飾政党ビラ配布事件」の30日の最高裁判決は、そんな結論を導いた。被告側は、憲法が保障する「表現の自由」が狭められないかと危機感を強める。 「紋切り型の判決だ」。住居侵入罪に問われ、罰金5万円の有罪判決が確定する住職の荒川庸生被告(62)は最高裁判決の後、「言論弾圧に歯止めをかけるべき最高裁が、自らその役割を放棄した」と怒りをあらわにした。 高校生のころから共産党のビラを配り、そのために集合住宅にも何度となく入ってきた。「受け取った人に読んでもらいたい」という気持ちが強く、玄関先の集合ポストではなく、なるべくドアポストに入れてきた。それが突然、犯罪にされたことはどうしても納得いかないという。 一審の東京地裁は「マンション内に立ち入ってビラを配ることが、当然に刑罰をもって禁じられている行為であるとの社会通念は確立されていない」と判断。無罪を言い渡され、両手を挙げて喜んだ。しかし、検察側の控訴を受けた東京高裁は逆転有罪。今度は怒りでこぶしを突き上げた。 最高裁判決が弁論を開かずに判決言い渡しを決め、有罪が確定する見通しになっても「今まで犯罪と言ったのは、警察、検察と東京高裁だけだ。決して犯罪でないと確信している」と望みをかけてきた。だが自分の主張は「憲法の番人」たちに退けられた。 荒川住職は判決後の記者会見で「最高裁判決によって、ビラ配りはいつでも摘発できることになってしまう。今でも政治的であれ商業的であれ、ビラは配られている。最高裁はこの現状をどう見るのか」と指摘。「たかがビラというが、国民が持つ訴える権利や知る権利のため、ビラという形を取らざるを得ないことがある。今後もビラを配り、受け取る権利を守っていきたい」と強調した。 ◇ 《解説》最高裁判決は荒川住職のビラ配りを「私生活の平穏を侵害するものと言わざるをえない」と述べた。外部者にはマンション内に立ち入って欲しくないという住民側の意思を重視した結論だ。確かに、様々な人が出入りすれば不安を感じる人はいる。プライバシーや防犯に対する社会全体の意識の高まりもある。 だが、判決がもたらす影響を考えると、刑事罰を科すことには疑問が残る。 荒川住職の上告を棄却した同じ第二小法廷は昨年4月、東京都立川市の自衛隊官舎で自衛隊イラク派遣に反対するビラを配った3人についても、有罪を維持する判決を言い渡した。このときの判決は官舎の状況や、3人が自衛隊向けのビラを度々配り、被害届が前から警察に出されていたことなどを考慮し、「法益侵害の程度が極めて軽微だったとはいえない」と被告側の主張を退けた。 一方、荒川住職の場合は共産党の議会報告などを一般のマンションに配っていた。事件前に苦情を受けていたわけではなく、一審・東京地裁判決も指摘したように、立川の事件とは「相当に事案を異にする」のは間違いない。しかし、最高裁の判決はこの点について言及をしておらず、両事件の違いは罰金の額だけだということになる。 今回の判決に従えば、ビラを配るために集合住宅に入ることは多くの場合、犯罪と認定されるだろう。そのことで得られる「平穏」と、表現の自由という、市民の大切な権利の行使を萎縮(いしゅく)させる影響とを比較すると、判決はあまりに形式的だ。 仮に有罪とせざるを得ないとしても、自宅が強制捜査を受け、逮捕から起訴までの23日間、勾留(こうりゅう)が続くに値するほどの行為だったのか。この点についても、判決には、関与した4人の裁判官の意見がない。(中井大助) --------------------- |