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漢方薬と事業仕分け(おおやにき)
http://www.asyura2.com/09/senkyo75/msg/375.html
投稿者 忍 日時 2009 年 11 月 29 日 12:39:01: wSkXaMWcMRZGI
 

(回答先: 【ツムラ・芳井社長】漢方薬の“保険外し”に反発‐「事業仕分け」の結論を一蹴 投稿者 忍 日時 2009 年 11 月 29 日 12:36:34)

例の「事業仕分け」で漢方薬が保険適用から除外される方針になったという話が出て(「医療用漢方薬が保険適用外 価格が3倍以上治療に支障?」J-CASTニュース)、日本東洋医学会を中心に4万人の反対署名提出とか、騒ぎになっているようである(「漢方薬保険外に4万人以上の反対署名 厚労省に提出へ」MSN産経ニュース)。なんかしかし横から見ていて議論が的を外しているような気がするので、少し書く。ただし、


本当にそういう方針になったかどうかについては知らない。あくまで、「本当にそうだったとしたら問題は何か」の話をする。

漢方薬が効くとか効かないとか証拠がどうのとかは知らない。お医者さんでもないのでそのあたりはよくわからない(個人的にはほとんど西洋医学にしか頼らない)。あくまで、私が少しはわかる医療システムの話をする。


さて。


まず問題範囲の限定。これは公的医療保険に関する議論なので、この結果がどうなろうと現在ドラッグストアなどですでに市販されている漢方薬に直接的な関係があるわけではない。より強い効果を持つ現在の処方薬が市販されることによって競争が生じ、現在の市販薬程度の薬剤の価格が下がるかもしれない(あるいは同程度の価格でより効果のある薬剤が買えるようになるかもしれない)。あるいは、ツムラが倒産してそもそも製品自体が存在しなくなってしまうかもしれない。いずれにせよそれらはかなり間接的な影響なので、予測も難しい。とりあえず、「私は風邪を引いたら葛根湯が飲みたいんだ」という人には、直接には影響しない話だということを押さえておく必要があろう。

また、医療保険なので当然ながら自由診療の世界にも関係がない。保険証を持ってそのへんの病院や診療所で受診して3割(まあたいていな)払う保険診療に関する問題だ、ということになる。で、そこにおいて保険適用が外されるというのはどういうことかというと、J-CASTニュースがそういう書き方をしてしまっているが、価格が3倍以上になるということではない。「医師からの処方箋もいらず自由」ということでもない。そもそも保険診療と無関係になるということである。

この点、実はMSN産経ニュースでは一応ちゃんと書かれているが、混合診療の禁止に関する問題である。受診・診察・治療・投薬というひとつながりの医療行為において、健康保険が適用される部分とされない部分が混在することは許されていない。たとえば診察料や一部の薬剤を保険請求して患者さんに3割負担してもらい、保険適用の認められていない薬剤の分だけは10割もらうということはできない。一部でも保険でカバーされない部分があれば、一連の医療行為すべてについて保険請求が認められず、自由診療扱いにしなくてはならないのである。従って、仮に(制度変更のあと)お医者さんに漢方薬を処方してもらいたいとすれば、薬代だけでなく治療費まで含めて全額自己負担ということになる。

さらに。では治療費・薬代まとめて約3倍かというとそれはわからないというのが次の話。なぜなら、「保険診療が3割負担」というのはあくまで保険診療の場合の基準額の3割ということであって、その基準が自由診療にも適用されるという保障はまったくない(なにしろ自由なのである)。私は一度、健康保険証を忘れたまま医療機関に診てもらったことがある。後日保険証を持ってくれば差額は返してくれるとのことだったが、とりあえず自由診療基準で請求された額は普段の約7倍であった。その病院では、保険診療の場合1点10円で計算するところ、自由診療であれば20円請求しているとのことであり、まあこれがどの程度一般的な例かはわからないが少なくとも十分あり得ることだと、そういうことになる。ところで漢方薬を処方されている患者さんのなかには末期癌の人などもいるわけであるが、そういう人が使う抗がん剤というのはたいていえらいこと高いお薬であって、保険薬価でも1本20万円とかいう数字である(まあこれは最高水準らしいのだが)。こんなもん自由診療で払えと言われたらどうなるか、というのが実質的に処方できなくなるということの意味。なお「高額療養費」制度も健康保険の一環なので、自由診療には適用されないことに注意。

さて。とはいえ実際の医療現場で保険適用の認められていないお薬がまったく使われていないかというと、少なくともそれなりに使っている。というのは、保険診療で使えるかどうかというのは薬剤単位ではなく薬剤ごとに病名との組み合わせで認められているのだが、たとえば特定のタイプの癌に対して認められた新しい薬で、似たタイプの癌にも効くという証拠は十分にあるのだがまだ適応が認められていないとか、ごく稀な病気でそもそも治療薬が一切承認されていないとか、そういうケースがあるからである。というか、たとえば大学病院にはそういう普通に認められた薬で普通の治療をしたのではうまくいかない人が紹介されてくるわけで、正直それなりにある。で、保険で使える薬がないからといって治療を断念してさようならというわけにはなかなかいかないので(という態度なので治療費を払う気のないモンスター・ペイシェントとかが大学病院に集まってきてえらいことになるわけだが、その話は措く)、やむを得ず保険適応外のお薬を使うことを検討すると、そういうことになる。

その場合の対応だが、少なくとも名大附属病院の場合、次のようになる。第一に、保険適応外の薬剤を使うことについて、院内の臨床受託研究審査委員会の許可を受けなくてはならない。これは、保険診療で認められるという形で一応の使用の根拠が確立しているお薬以外のものを使うのであるから、他の選択肢がないかとか、きちんとした治療実績や安全性が確立されているかとか、患者さんの権利を守るという観点からそういったことを審査すべきだという趣旨であり、まあそこに私が動員されているからこんなことも知ってるわけだが、月一回の委員会で厳密に審査されるのでそう気軽にやれるというものでない。どのくらい厳密かというにここ最近は毎回3〜4時間かかって審査してる方の私が目まいで倒れそうになるくらいの勢いであり、なんで自分の健康を犠牲にして人の健康に配慮しなくてはならんのかと思わなくもないのだが、病院で働いている医療関係者の方々のご苦労を思えばそんな贅沢も言っておられんのである。しかししんどい。

話を戻す。第二に、しかし院内で委員会の許可を受けたところでさきほどの混合診療の禁止原則があり、使った適応外のお薬の費用だけを患者さんからもらうということはできない。他方、すべて自由診療というのも現実的な負担の面で極めて難しいのでどうするかというと、正直に言うが、大学が負担していた。原資としては病院の運営費だったりお医者さん(大学の教員でもある)の基盤研究費だったり獲得してきた研究助成だったりしたわけだが、要するに患者さんからお金をもらわずに大学病院の持ち出しでやる分には自由診療ではないので、保険診療と一緒にしても混合診療にならないという理屈である。これもだから正直に書くとこの持ち出し額が肥大して病院経営・大学経営の観点から問題になってきており、いやもう本当に日本の医療というのは(さきほどのモンスター・ペイシェント問題などもそうなのだが)真面目に頑張るほど損をするようにできているのだなと、嘆息するわけである。

さて漢方薬の話だが、そういうわけで保険適用の認められていないお薬を病院などで使うことには手続の面・経費の面双方でかなりの問題があり、あくまで例外であればある程度は処理可能だが、広い範囲で行なうことは不可能に近いと思われる。というわけで、現行制度を前提とする限りやはり医療機関から処方することは実質的に不可能になるということになろう。

というわけで病院が処方できない、「医師からの処方箋がいらない」のではなく「医師が処方箋を出せない」ことになる。従って、我々がドラッグストアに行き、症状に合わせて自己判断で風邪薬を選ぶように、自分で選んで買うことしかできないことになろう。その場合の問題は、もちろんどのくらい適切に症状を判断することが可能かということになるだろうが、もう一つ、誰が使用情報を把握しているのかも問題になろう。

というのは、漢方薬も薬であり、特に処方されるクラスの薬剤になると副作用や他の薬剤との飲み合わせによる効果が出てくる可能性が十分にある。たとえば小柴胡湯というのは風邪にも用いられるわりと一般的な漢方薬のようだがインターフェロンとの併用で間質性肺炎という重大な副作用を起こす可能性があることが知られており、治験関係の書類などでも「併用禁止薬」として名前を見たりするわけである。現在はお医者さんが処方するのだから他の薬との相互作用を意識する(だろう)し、たとえば別々の診療科から処方されたような場合でも薬剤師さんが気付く可能性がある。各自が自己の判断で購入するということにした場合、このような弊害に関するチェックをどこで誰がするのか、それがなくなった場合に大きな健康被害が発生する危険がないかということが気にかかるわけである。


***

補足しておくが、最後の問題は現在でもたとえば小柴胡湯製剤が市販薬として買えるので、起きないというわけではない。現在の処方薬水準のものが購入できるようになると問題の質・量が悪化するだろうなあとは思うが、逆に言うと結局はどの程度の製剤が市販に切り替えられる(保険適用から除外される)のかに依存する話だとも言える。

もう一つ、実質的に処方できなくなるというのも現在の混合診療禁止原則に依存した問題なので、そこも変えるのであれば問題はなくなるかもしれない(その代わり他のところで問題が出てくるかもしれない)。いずれにせよ具体的な制度設計がまとまらないと実際の影響は予測できないのだが(だからこそいまのうちに影響を抑えるように動くべきだという人もいるだろうが)、しかし問題の射程としてはこういう話なのだということを理解して議論した方が良かろうと思うので、ちょっとだけ知っていることを書いた。

http://www.axis-cafe.net/weblog/t-ohya/archives/000671.html


 

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