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http://www.magazine9.jp/karin/091118/
二人の話に戻ろう。 A君は、生まれは九州、育ちは東京。 高校を中退してからは、様々な仕事をしてきたという。私が最初に会った今年4月の時点では「ネットカフェ難民」状態だったわけだが、それは日払いの仕事が週払いになったことをきっかけにやめ(週払いだと生活できないため)、住み込みの仕事を見つけるものの、様々な手違いからそれまで住んでいたゲストハウスを追い出されてしまい、同時に携帯も止まったことから新しく決まっていた仕事先には「逃げた」と思われてしまう・・・というもろもろのトラブルが重なったことがきっかけだった。そしてこの手のトラブルは、貯蓄もなく、ギリギリの状態で暮らす人々(若者には限らない)にはよく起こることである。私は彼を迎えに行った日に派遣村相談会のチラシを渡して相談に行くように伝え、若干のお金をカンパしたのだが、運良く次の日には知り合いのツテで他県での仕事が決まったのだった。カンパしたお金は、その時の交通費として役に立ったという。ここまでが、私が知っていた話。それにしてもあれから半年間、よくもったなぁ・・・。それが私の率直な感想だった。彼は相当、頑張ったはずである。以降はこの日、初めて知った彼のその後だ。 すぐに某県に向かった彼は、そこで住み込みで農業を始める。日給は4000円。が、家賃もタダで食事も出る上、お金を使うこともない生活なのでお金に困ることはなかったようだ。そこでの仕事が5月に「期間満了」のような形で終わる。よく「仕事がない若者は農業をやれ」などと説教する人がいるが、こうやって農業をやっても「期間満了」で一ヵ月くらいで終わってしまうこともあるという現実・・・。どういう事情かはわからないが、考えてみれば農業も繁忙期にのみ沢山の人を必要とする職種である。 そうして5月末、彼は東京に戻ってきた。仕事のあてはあったという。SNSで知り合った男性がちょうど新しく仕事を立ち上げるということで、「手伝ってくれないか」と声がかかったのだ。A君はその話に乗り、仕事を手伝うことになる。同時に関東近郊某県のシェアハウスに入居した。家賃は2万5000円。 そこのシェアハウスでA君が出会ったのがB子ちゃんだ。 「21歳で出てきて、住まいも仕事もなかったので思い切って風俗の世界に入ってずっとやってきたんです。それであちこち転々として」 その間には、お店で「店泊」したり、ネットカフェで寝たりという日々もあったという。 「店は立ち上げたばっかりでコンパニオンさんが全然いなくて、オーナーが彼女に『うちの店で働きなよ』ってものすごく誘って、それで彼女も働くことになったんです。オーナーからしたら彼女は経験者だし、自分の手元にいて稼ぎ頭としてすごくいいように扱える。それで、朝起きてから夜中遅くまで働かされるようになって」 この頃のB子ちゃんは、「朝起きると仕事入ってますよって状態」だったという。午前10時頃には仕事が始まり、終わるのは午前2時を回ることもあった。彼女が働き始めてすぐ、その月のお店の収益は過去最高となる。オーナーは「稼ぎ頭」である彼女に「週6日出勤」などを要求するようになってくる。店のボーイとして働くA君にも、到底無理なノルマをふっかけるようにもなってきた。 「例えばティッシュ、ラップ、アルミホイル、キッチンペーパーとか生活用品のありとあらゆるものを自分で用意しなくちゃいけなくて。で、それまでお米と調味料は使っていいって話だったんですけど、それも一切ナシになって」 そうしてこまごまとした生活用品を一気に自分たちで用意しなくてはならなくなり、出費がかさむ。A君の風俗店時代の収入では到底貯金もなく、始めたばかりのコールセンターの給料はおそらくまだ出ていない頃だ。 「それで出費がかさんで、自分が仕事に行くにも交通費がなくて行けないくらいのお金しか残らなくて」 「安定層」からすると、それは「些細」な出費かもしれない。しかし、場合によってはこんな「些細」なことが「仕事に行く交通費がない」ほどの事態になってしまうのだ。そしてそんなケースを、私は多く見聞きしてきた。 (以下、次号) |