鳩山政権が発足して一カ月半。臨時国会が始まり、今週は予算委員会も開催された。しかしここに来て閣内の不協和音が聞こえる。米軍普天間飛行場移設をめぐる問題だ。 始まりは就任したばかりの北澤俊美防衛相が九月二五日に沖縄を訪問したことだ。北澤防衛相は普天間飛行場や移転先とされる名護市のキャンプ・シュワブ沿岸を視察し、 「一刻も早く移さなければならないと実感した」「県外や国外へ移設するということになると、かなり時間がかかると思う」「新しい道を模索するのは厳しい状況だ」 と、自民党政権が米国と合意した現行案に賛成せざるをえないことを表明したのだ。 宜野湾市の中心部を占める普天間飛行場の用地は敗戦時に米軍に強制占領され、かねてから返還が求められていた。その声がいっそう大きくなったのは、一九九五年九月の米兵による少女暴行事件だ。この事件をきっかけに日米政府はSACO(沖縄施設・区域特別行動委員会)を設置。九六年一二月の最終報告で全面返還が発表されたが、代替施設の問題が残っていた。 閣僚の「暴走」と 優柔不断な鳩山首相
そこで二〇〇六年に日米両政府はキャンプ・シュワブ沿岸部を代替地として合意。だが当時野党だった民主党はこれに真っ向から反対した。〇八年七月に作成した「沖縄ビジョン2008」では、日米地位協定の改定と普天間飛行場の県外・国外移転を打ち出す。そして今年の衆院選の政権公約である「マニフェスト2009」で、「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」と明記している。 北澤防衛相は就任会見時ではこれらに従い、 「県外、国外が沖縄県民の負担を減らすにはよい」 と述べていた。しかし沖縄と地縁がなく元は自民党出身の北澤氏にとって、現行案の方が理解しやすかったのである。 一方、岡田克也外相も党の方針と異なる自説を発表している。一〇月二三日に行なわれた記者会見の席で、「県外というのは事実上選択肢として考えられない状況だと思う」と、嘉手納基地との統合案を打ち出したのだ。 そしてその理由として、県外移設なら候補地選定に時間がかかること、〇六年に日米政府が合意したキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)への移設は環境の負荷が大きすぎることを挙げた。 すでに岡田外相は二〇日に来日していたロバート・ゲイツ米国防長官にその旨を伝えたが、ゲイツ氏は沖縄県が主張する微調整には応じる意思を見せたものの、あくまで現行案であるキャンプ・シュワブ沿岸以外への移設は認めないと通告。一一月のオバマ米国大統領の来日までに問題を決着させることを求めた。 だが岡田外相は二三日にジョン・ルース駐日米国大使と制服組のトップであるマイク・マレン統合参謀本部議長と相次いで会談した時も自説を展開し、三〇日に連立を組む社民党の山内徳信参院議員が主張した硫黄島移転説に対して「米軍の要請に応じられるだけの地理的位置にあるか」 と切って捨てるなど、現在まで翻意する様子はない。 こうした閣僚の独自の動きに対して、鳩山由紀夫首相は一〇月二四日に東アジアサミットが開催されたタイのフアヒンで、 「政治主導だから閣僚がいろんな思いを述べるのはいい」 と余裕を示しつつ、 「最後に決めるのは私だ」 と、首相のリーダーシップを誇示して見せてもいる。 だがそもそも北澤防衛相や岡田外相の「暴走」を許したのは、鳩山首相の優柔不断さにあるといえる。 事実、鳩山首相は一〇月七日に官邸での記者会見で民主党のマニフェストの中の米軍再編の部分を、「時間という要素によって変化する可能性を否定しない」と述べたのだ。 もっとも翌日、「容認とは一言も言っていない」と弁明したが、不用意な発言であることは明らかで、こうした緩みが閣僚の暴走を許す結果になっているとはいえまいか。 また鳩山首相は常々、 「沖縄県民の皆さんの気持ちが一番大事」 と述べているが、だからといって本心は県外移設を希望しつつも早期返還実現のためにはキャンプ・シュワブ沿岸部移設がやむなしとする仲井眞弘多沖縄県知事や島袋吉和名護市長の意見を尊重するつもりはない。ましてやゲイツ米国防長官が強く念を押したように、オバマ大統領の来日までに決定しなければという気持ちも全くない。あくまで普天間問題についてはゆっくり考えるのが鳩山流で、その実は来年一月の名護市長選、一〇月の沖縄県知事選まで待つつもりだろう。選挙になれば県内移設反対派が勝つ公算が高い。事実、三一日に民主党は県外移転派の稲嶺進前市教育長を推薦した。
地元自治体の 思惑は……
こうした政府の態度に、地元自治体は三行半を突きつけようとしている。 まず岡田外相が普天間飛行場を統合しようとした嘉手納基地を擁する嘉手納町議会は、一〇月二八日に統合案の撤回を求める意見書を全会一致で採択した。名護市もかつて決めた普天間移設受け入れを撤回する方向と報じられた(一一月一日付『読売』)。だが、名護市関係者はこの報道には批判的だ。 「島袋市長はじめ市幹部、後援会は沖合建設案でなんら変わっていませんよ。しかも普天間移設反対で出馬することになった比嘉靖氏の選対本部長が比嘉鉄也元市長というのも怪しい。なにせ比嘉鉄也氏は島袋市長の後援会最高顧問をしていた名護市の実力者。三つ巴により稲嶺氏の革新票を奪って島袋氏を有利にする狙いなのでしょう」 一方、一一月一二日に大統領が訪日する米国も慎重な構えだ。 一〇月三〇日には国家安全保障会議で特別に対日政策についての省庁横断の高官レベルで討議された。オバマ大統領が訪日しても、インド洋の給油活動が中止され、さらに普天間移設撤回を通告されれば、米国の面目はズタズタになる。よって米国政府内では「訪日を中止すべし」との声も出ており、日米関係に暗い影を落とすことになりかねない。 さらに鳩山首相が二九日の衆院本会議で思いやり予算を見直す旨を発言したことも、米国の不信感を強めている。 これについては早速翌日に岡田外相が、「外務省は根っこから(思いやり予算を)見直す作業に入っていない」と真っ向から反対。もはや鳩山政権では閣内不一致は異例な状態ではないのだ。 原因はひとえに鳩山首相のリーダーシップの欠如なのだが、組閣も党内人事も実際にこれを掌握している人物が別にいる事実を見れば、官邸が軽量化しているのはむしろ当たり前のことかもしれない。
天城慶・ジャーナリスト
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