二千五百人以上 の労働者市民 十月二十九日夜、真向かいにこうこうと明かりを灯しそびえ立つ厚労省に向け、日比谷野外音楽堂から、二千五百人以上(主催者発表)の労働者市民による、労働者派遣法抜本改正を「公約通り」「実現しよう!」「実現しよう!」とのときの声がとどろき渡る。標記の集会だ。各界の有識者、弁護士、そして労働組合がナショナルセンターの垣根を越えて自主的に結集した「労働者派遣法の抜本改正をめざす共同行動」が主催した。 会場内にはユニオンや労働組合の旗がそこら中に立ち並び、さまざまな横断幕や一文字プラカードが結集した労働者市民の要求をくっきりと指し示す。派遣切りはもういやだ、登録型派遣をなくせ、などなど。ステージ前には、非正規労働者の闘いを包み込んで全国からかけつけたユニオン、合同・一般労組、中小労組の組合員がぎっしりと陣取った。その後方に広がる広大な空間は当初まばら。しかしその空隙も時間の進行と共に、ひたひたといつの間にか埋まってゆく。これも、昨年の十二月四日から始まった労働者派遣法の抜本改正を求める集会では一つの特徴とも言える光景。音もなく潮が満ちるように、薄明かりの中で労働者市民が席を埋める様からは、大労組の頂点からの号令がつくる集会とはひと味違う迫力がにじみ出る。 当日は加えて、これまでと比べてもう一つの特徴が見られた。特に会場後方に次第に立ち並べられる労働組合の旗がぐんと数を増したのだ。それは、この共同した闘いへの結集の幅がさらに広がりつつあることを無言の内に語っていた。 今集会の目的は、集会名が端的に示すように、労働者派遣法の抜本改正を必ず実現させる闘いの宣言。当日結集した労働者市民がその目的をはっきり自覚していたことは明らかだった。派遣法抜本改正への逆流など許さないとの決意に支えられた共同の厚みの下に、集会は集中を高め、各発言者には真剣なまなざしが注がれた。そして生き生きとした反応が飛び交った。 保身と利己主義 の抵抗に反撃 この集会の位置はまさに重大となっていた。 同共同行動は昨年十二月四日、この同じ会場で初めての大衆的集会を実現し、派遣法抜本改正への闘いに決然と足を踏み入れた。権利を抑圧されつつも闘いに立ち上がった非正規雇用の労働者を先頭に、その場に結集した二千人以上の労働者市民は、底冷えする寒さを吹き飛ばし、吹き荒れる派遣切りへの怒りをほとばしらせ、その非道に何の役にも立たないどころか一層の非道に道を開く毒を忍ばせた時の政権が用意したまやかし「改正案」国会提出に、求めるものは抜本改正だ、との声を真っ向からたたきつけた。この集会の成功と団結を礎として、全国民に衝撃とさらに共感の渦を巻き起こした日比谷派遣村の闘いが実現した。まさにこの一連の闘いこそが政治をギリギリと締め付け、多くの非正規労働者に闘いの手掛かりを知らせ実際にも闘いへとつなげ、そして時の政権の人を見下した小細工を粉みじんに吹き飛ばした。以降に重ねられた多くの闘いを加えて、十二月四日の決起からの流れが、抜本改正へと政治を大きく揺さぶり、派遣労働者の要求を核とした官僚のお仕着せではない具体的な抜本改正案の三野党(当時)合意にまで事態を押しあげた。草の根からの運動の積み上げが政治を強いて方向転換に向かわせたのであり、その力学は、今年の八月三十日ついに実現した歴史的な「政権交代」の底に潜む力学を、最も明瞭に代表していた。 十月二十九日の会場にいた労働者市民はその事実をもはっきり自覚していた。新政権をつくったのはわれわれであり、新政権の任務はわれわれの要求、派遣法の抜本改正を遅滞なく実現することだ、と。今集会はそれを知らしめ、改めて突き付けるための決起だ、と。したがってまた、政党からの発言者も、各界の発言者もすべて、その経過と、従ってそれが否応なく課している今の課題を、はっきりと確認した。 しかしこの転換に必死で抵抗を試みる者たちがいる。何よりも大資本とそれに連なるメディア内の新自由主義固執勢力。彼らは今、「国際競争力」という相も変わらないお題目の下に、国民を脅しつけるキャンペーンに躍起だ。しかしそのキャンペーンが意味するものは、多くの労働者民衆の生活も中小企業や地場産業も際限なくやせ細らせ、その犠牲の下に多国籍大資本それだけを救出するものでしかない。そのことは、結果として歴然と示されたこの四半世紀の事実で多くの民衆の目にくっきりと焼き付けられている。今回の政権交代の底深くにあるものは、間違いなく、そのキャンペーンに対するぬぐえない不信だ。一層進むしかないその効力の薄れに、彼らはどれほど気づいているのだろうか。 一方その上に、この間もう一つの動きが明瞭となった。厚労省労政審公益委員の抵抗だ。前政権が指名し、先に触れた毒入りまやかし「改正案」を答申した面々が今、実に見苦しい行動に出ている。新政権の諮問によって始まった現下の労政審審議の中で、彼らは、八月三十日に国民がこれ以上ないほどにはっきりと示した意志など眼中にないことをあらわにしている。例えば、同審議会労働力需給制度部会座長の清家篤慶応大学塾長は、同部会第一回審議(10月15日)冒頭で、彼らによる前回答申の趣旨を尊重すべきなどと発言、以降の論議に枠をはめる意志を公然と明らかにした。まさにこの発言の下に、製造業派遣の禁止は職業選択の自由を奪う、などという道理のかけらもない公益委員発言が飛び出した。 彼らにとっては、悲惨きわまりない現実よりも、彼らのケチな面子の方がよほど重大らしい。もちろんこのような姿勢の中には間違いなく、それによって大資本の意に応え、民主党や連合内の抵抗派を力づけ、抵抗勢力全体の立て直しに道を開くという狙いも隠されているはずだ。 今集会は期せずして、このような反民衆的な保身と利己主義丸出しの抵抗に対する、労働者民衆の真っ向からの反撃を鮮烈に突き出す位置を占めていた。 次期国会で必ず 抜本改正法案を 定刻通り午後六時三十分始まった今集会は、鴨桃代全国ユニオン会長と須田光照東京東部労組書記次長司会の下に、先の位置にまさにふさわしく進んだ。 鴨さんが先ず開会挨拶。労政審の現状を怒りを込めて厳しく糾弾、政治的判断による抜本改正案提出という選択も可能性として訴えた。 次いで共同行動を代表して、棗一郎弁護士が基調・経過報告。前述した闘いの到達点を運動が自ら作り出した成果として共に確認することを訴えた上で、その成果をてこに後ろ向きの労政審を労働者民衆の力で包囲し、民衆の手で抜本改正につなげようと力強く呼びかけた。 次は政党あいさつ。壇上には、民主党、共産党、社民党、国民新党から十人の国会議員が並んだ。 その中から先ず民主党の吉川さおり参院議員が発言。不安定な雇用からの決別が必要、望めば誰でも誇りある働き方ができる社会をつくるべきであり、そのために抜本改正法案を次期国会へ、と意思表明した。 二番手は社民党の福島みずほ党首。労働の規制緩和を何としても逆転させたいと切り出し、運動の高揚を背景に派遣法の抜本改正が前国会時点の改正案通りに三党合意となったことを指摘した上で、決め手は運動、後退させずに実現するために大きな運動を共に作り上げようと、まさに声を振り絞って呼びかけた。 三番手は国民新党の亀井亜紀子副幹事長。彼女は先ず労政審の現状に対し、今こそ政治主導で前に進める必要があると主張した。そして、安心して長く働けること、直接雇用が必要と、労働力の「価格破壊」に重点を置いた一年前の立場から力点の前進を示した上で、三党合意実現への決意を表明した。最後は共産党の小池晃参院議員。みなさんが政治を変えた、と口火を切り、抜本改正を必ず実現しようと呼びかけた。その上で、逆流を図る動きへの反撃と抜け道づくりを許さない闘い、有期規制、雇用保険改正を次の課題として訴えた。 新政権の任務、 若者に夢と希望を これらの発言を受け各界からの訴えに移ったが、この時点で司会から、結集が二千五百人を超えたと発表され会場から大きな拍手がわいた。そして、日本労働弁護団代表の宮里邦雄弁護士、ルポライターの鎌田慧さん、「もやい」の湯浅誠さん、講談師の神田香織さんが、次々と発言に立った。 宮里弁護士は、派遣労働の本質が誰の目にも明らかになり、ILOが基準とするディーセントワークに反する実態と指摘、労政審はこの現実に立つべきと強調した。 鎌田さんはまさに熱弁をふるった。自ら立ち上がり積み上げた闘いが今を切り開いたと強調、その上で、今こそここから天下分け目の闘いに向かおう、と全体を鼓舞した。そしてさらに進んで、新政権の任務は若者に夢と希望を保障することであり、それを強制するこの闘いをもって、労働者運動の再生につなげようと結んだ。 湯浅さんもまた、年収二百万円以下の勤労人口が千六十七万人に達したという事実を挙げながら、人が生きられるようになる社会に優先順位を置くことが政権交代の意味だと指摘し、そこに進むためには運動以外にウルトラCなどない、広く連携しようと呼びかけた。 神田さんは、なぜここに講談師がとけげんにお思いでしょうが、と会場をわかせながら登場し、国鉄被解雇者千四十七名の闘いの現在に続く意議を特に強調、非正規で働く被解雇者の子どもも闘いに立ち上がり改めて親の闘いに思いをはせるという、彼女のもちネタのさわり三分を演じた。 これらの発言が節々で会場と熱い交歓の中にあったことは言うまでもない。 なおここで、遅れてかけつけた公明党の谷合正明衆院議員が紹介され、彼は一言、意味は今ひとつ不明だったが「がんばろう」と発言した。 現行派遣法の 不当性を告発 満場の拍手の激励を受け発言の最後を引き受けたのは、現場で今闘っている三人の非正規労働者。 阪急トラベルサービスの派遣添乗員は、一万二千人にのぼる派遣添乗員が強いられている劣悪な状況、さらに仕事を与えないというやり方で組合委員長を「合法的」に弾圧できている実態から、現行派遣法の不当性を厳しく告発、専門職規定の見直しの必要を特に訴えた。 資生堂の鎌倉工場で立ち上がった全労連全国一般神奈川アンフィニの女性労働者は、女性副社長の下に女性の働きやすい職場を宣伝してきた資生堂が、二百億円以上の株主配当を行いつつ、偽装請負派遣の労働者をいとも簡単に派遣切りしたことを痛烈に批判。そしてその非道に断固闘うと決意表明した。 しんがりは、昨年の十二月四日の集会でも壇上で発言した青年労働者。グッドウィルで日雇い派遣で働いてきたが、現在はフルキャストで同じく日雇い派遣を受けているという。しかし時給も労働日も減少の一方であり、このような働かせ方をこれ以上認めてはいけないと強く訴えた。そして、来年こそはもうこの壇上には立ちたくありませんと結んだ。会場からは即座に、連帯と共に、抜本改正の実現で彼の願いに応えるとする決意を込めた万雷の拍手が送られた。 これら全発言を集約するものとして、全国一般なんぶの中島由美子さんが「すべての労働者、家族、市民と連帯して、労働者派遣法の抜本改正実現を成し遂げるまで全力を尽くす決意である」と結んだ集会アピールを読み上げ提案、アピールは満場の拍手で採択された。そしてこのアピールを凝縮する形で、会場全体が拳を振り上げ、冒頭で紹介した章句を含むシュプレヒコール&パフォーマンスに力を込めて唱和した。 集会は最後に全労連の井上久事務局次長から、敵の必死の抵抗を闘いの力で打ち砕き抜本改正を実現しようとの閉会挨拶を受け、彼の音頭の下に団結ガンバロウを三唱、直ちに国会請願デモへと移った。 今集会は、労働のあり方の逆転をかけた、文字通り天下分け目の闘いへ共同の力で突入することを共に確認し合う場となった。その闘いは、新政権を労働者民衆の眼前で厳しく試練にかけるものとなるだろう。この闘いの前進の源にある不動の大義を基礎に共同をさらに強め広げ、抵抗を完全に封じ込め、何としても派遣法抜本改正を手にしよう。 (神谷)
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