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公務員の「心の病」どう見るか
北九州市職員の実情
市民の首切り役で廃人になる
2009年10月9日付
生活保護を切られて餓死した男性や、「孤独死」が続出するなど猛烈な市民切り捨てによる悲劇が顕著にあらわれてきた北九州市で市職員の「心の病」増加が深刻な問題となっている。区役所などの窓口では大恐慌突入でリストラが吹き荒れるなか、税金や住宅家賃の滞納をはじめ生活上の相談・苦情が絶えないが、民主党北橋市政は市職員の大削減を進め、税徴収や差し押さえ、福祉の切り捨てなどの反市民政策をしゃにむに押し進めている。市職員のなかでは市民の生活が悪化しているなかで、首切り役人をやらされ、市民からは怒鳴られ、精神を病む関係となっている。
窓口で怒鳴られ精神病む 福祉関係深刻
市民が訪れる区役所は朝から相談に訪れた市民で溢れている。とくにリストラや倒産で働く場を失った人、体を壊して働けない人などが集中する生活保護課では怒声が飛び交うこともしばしばだ。職員の1人は「とにかく保護申請に来る人が多すぎる。だいたい昨年までの申請実績にもとづいて人が配置されるのだが、申請の増え方が尋常ではない。職員数が足りず必死で応対するが回らない。これも心の病で休む原因の1つ」と話す。現実に今年1月に265件だった新規保護申請数は3月以後300件台にのり、7月には397件に達した。生活保護を受ける実人員でみても07年度(月平均)に1万3533だったのが08年度には1万5336人となり、今年7月には1万7506人に達した。しかし職員の補充は少ない。
そして「1番の苦痛」と話されるのは「職員1人あたり○○人を担当する」と全生活保護受給者をふりわけて「自立」を促すことだ。その結果は職員評価で厳重に監視される。「自立というが、要するに生活保護をとにかく切れということ。そして切らなければ、能力のない職員と評価される。ヤクザや議員がバックについた受給者は“おかしい”と思いながら切れず、結局、ほんとうに受給する必要のある弱者が真っ先に切られる。これは市民から見れば首切り役人でしかない。みんな“仕事と思っている”が、人の命が関わる問題だし本音は違う」と苦悩が語られている。
住宅課でも、「市営住宅になぜ入れないのか」「差し押さえをどうにかしてくれ」などの電話がかかり、税務関係でも「税金が払えない」などの相談が相次ぐが、強引に徴収するのが役目となっている。水道局の営業窓口でも料金未納で水を止められた市民が「死ねというのか!」と抗議する声も飛び交う。
福祉など窓口業務に携わる市職員は「相談は増えるのに人が減って丁寧な対応もできない。しかもせっぱ詰まって相談にきた市民なのに“どう切るか”という目つきで最初から疑ってかかればトラブルになるのは当然。民間企業の評価基準は儲け一本槍だが、なかにはいい物を開発すれば喜びもある。でもいまの役所は市民を切れば切るほど評価される異常な世界。だから生真面目な職員ほど日がたつにつれて頭がおかしくなる」と指摘した。
窓口に座っても電話に出ても怒鳴られ、市民の話を丁寧に聞いて上司に疑問点をぶつけるとまたも叱られる。別の職員は「いつも心の病になると“あいつが弱いからだ”と特別能力が低くダメな職員のようにいわれるが、ほとんどの職員が悩んだ経験をもっている。市民を切り捨てて平気、末端の自治体が四苦八苦しているのに平気な顔をしている市長や国の冷たい政治の方がよっぽど問題だと思う」と憤りを込めて指摘した。
福祉以外でも戦争状態
福祉関係ではない課のトラブルも相次いでいる。市民課の職員によれば職員削減のために導入された電算化と、それに伴う個人情報保護強化で雑務が増えている。「本人確認作業でやたら市民に書類提出を求めることが多い。しかも応対する人員が減らされて、説明もないまま長時間待たせる。それで以前ならトラブルにもならない些細なことがすぐトラブルに発展する」という。
市民との接点が少ない本庁でも、議会事務や予算事務など、人員削減とコンピューター化によって職員1人の仕事量が急増している。ここでも「今までは災害や変化があっても対応できる人員数がいたがいまは最低限だ。おまけに勝手放題の議員の世話をする。だから議会前とか災害が起きたときは夜中も役所につめる。緊急事態やトラブルが起きるとすぐパニックになる状態。窓口以外の役所でも“心の病”が増えている」と話されている。
そして職員が「象徴的な部門」というのが各区役所に設置された苦情受け付け窓口である。ここには近所とのトラブル、独居老人の相談、サルやイノシシ・鳩・カラスの駆除などありとあらゆる相談がくる。だが苦情相談とは名ばかりで実態は他の課で起きるトラブルもふくめ朝から夕方まで怒鳴られるのが役目という。経験した職員の1人は「まるでサンドバックになったような状態だ。“市民の権利を侵してはいけない”といわれ、とにかく反論も指導もできない。できるのはお願いだけだということで窓口に座っていた。“この税金泥棒!”と怒鳴られるのは日常茶飯事で、だんだんと記憶力が落ちていった。毎日いつ怒鳴られても冷静に対応できるようにテンションを上げていた。市民の市や行政に対する怒りは尋常でないところまできている」といった。
増加する「心の病」 果ては自殺や失踪も
こうしたなか市職員の「心の病」が増加している。休職者(病休90日以上)に占める「心の病」は06年度=52人(休職者・80人)、07年度=63人(同105人)、08年度=76人(同117人)と増加傾向。長期病休者(病休30日以上)に占める、「心の病」も06年度=73人(長期病休者・244人)、07年度=84人(同220人)、08年度=102人(同227人)と増加している。
休職者(08年度)の特徴を見ると男性が74人で、女性が43人。年齢は50代=46人、40代=41人、30代=23人で、ベテランの40〜50代の男性職員が多い。
在職死亡者は06年が8人(ガン3人、事故1人、自殺3人)、07年は8人(ガン3人、循環器3人、消化器1人、自殺1人)だったのが、08年には10人(ガン8人、内臓疾患1人、自殺1人)と増加している。
公にされた自殺の数字をめぐっては「理由は複合的で分からない」とされているが、職員のなかでは職場の状況が無関係ではないというのが実感だ。「2年ぐらいまえにまじめな若い職員が自殺した。職場にうつ病の人がいて、新人にしわ寄せがいったらしい。失踪して1カ月後、山で首をつっていたのが発見され、持っていたお札に“こんなことになって申し訳ない”と家族あての遺書があった」「営業部門にいた若い女子職員の自殺もあった」。
「自殺まではいっていないが市役所のトイレで手首を切って自殺未遂をした女子職員がいる」など他人事ではない問題として語り合われている。ほかにも自暴自棄となって毎日朝から酒をあおり、飲んでは吐くという状態を続けた挙げ句、失踪してやめていった若い職員がいたこと、「心の病」などにならず退職まで勤め上げたが退職したとたん急死する市職員経験者が多いことなども話題にされている。
市民を切る矢面に 急上昇する給食率・小泉改革で拍車
こうしたなかで市職員の「心の病」や自殺はこの間の行政改革、とりわけ小泉構造改革によって、市民生活の切り捨てが度はずれたものになったことが明らかな原因となっている。市職員が、そういう市民切り捨て政策の矢面に立たされていること、そして市民の反発の矢面に立たされていることである。
北九州全市の職員で休職者が占める割合を出した休職率を見ると04年=0・73%(市職員数・1万59人)、05年=0・84%(同9705人)、06年=0・84%(同9548人)、07年=1・12%(同9377人)、08年=1・27%(同9158人)と推移。
06年には門司区の市営大里団地で2人の女性が遺体で発見された事件があり、マスコミが大大的に取り上げた。隣室に助けを求めた女性も衰弱して病院に搬送。消防隊員がかけつけたとき母親(78歳)の遺体は1年以上経過してミイラ化し、長女(49歳)の遺体も死後数カ月へた無惨な姿だった。病院に運ばれた女性(二女・47歳)も自力歩行できず「約2カ月間何も食べていない。みんな長い間、食事をしていなかった」と話した。この家庭は母娘の3人暮らし。母親は歩けず1996年2月に身体障害者1級の手帳を受け、市が車いすとベッドを支給。しかし寝たきりの母の介護、40代女性が直面する就職難など、数数の苦難が取り囲むなか電気もガスも止められ、水道しか使えない状態だった。
事件はまさに小泉構造改革・自己責任社会の産物だった。しかしメディアの報道はこの小泉新自由主義政治の犯罪とするのではなく、対応する市職員の問題とするものであった。市職員は、市民や上からも怒鳴られるだけではなく、メディアからも袋だたきにされる関係にある。
自民党市政による市民切り捨てへの批判世論にも乗って、元民主党代議士の北橋市長が登場した。しかし「革新市政」を標榜して実行したのは前末吉市政以上の行革だった。初年度から職員総数8000人体制へむけた市職員削減のほか、能力主義導入、市としての社会的な責任を放棄する民間委託拡大などの施策を打ち出した。もう1つの市職員の悲劇の要因は、自治労など労働組合が与党となって協力姿勢をとったことである。そのなかで「合理化」、分断、市民の切り捨てに拍車がかかった。
市職員の「能力主義・成績主義の徹底」では評定結果の開示拡大(主任や係員)、勤勉手当の差別化支給(係長)、勤務評価の拡大(課長級)など競争をあおる体制を強めた。勤務成績不良職員は「実務能力向上を目的としたプログラムを実施し、もし改善されなければ分限免職」とした。「北九州市人材育成基本方針」を策定し「効果的な人材育成にとりくむ」ことを打ち出した。
そして07年7月には小倉北区に住む独り暮らしの男性(52歳)が「おにぎりたべたい」「働けないのに働けといわれた」などのメモを残し死後約1カ月経た状態で発見された。この男性は生活保護を受けていたが4月段階でうち切られて死亡した。医療も福祉も切り捨てて市民を生かさないようにする小泉構造改革の実行者として市職員が矢面に立たされることとなった。こうした反市民政策の実行が強要されるなかで市職員の「心の病」が増加していった。
うつ対策では解決せず
市当局は「心の健康づくりの計画」と称して一般職員と管理職に、予防、早期発見、早い処置にむけた研修を実施し「ストレスがたまっていませんか」と題するパンフレットを配布。「体調不良型」「憂うつ型」「イライラ型」など「タイプ別ストレス解消法」として「バスタイムを充実させる」(体調不良型)、「自分にプレゼントをする」(憂うつ型)、「スポーツ観戦で盛り上がる」(イライラ型)などを記載している。こんなことで解決するわけがない。
市職員の「心の病」は、まるでアメリカのイラク帰還兵のようになっている。「小さな政府」と称して市民生活を切り捨てる政策の先端に立たされ、市民の首切り役をやらされる。やらなければ上から怒鳴られ、下手をするとマスコミから袋だたきされる。まともな神経ならやっておれない状態にある。
公務員はいい職業というが、いまでは廃人になるところまで来た。ここまで来たら労働組合の出番だが、労組はうつになった職員の配置転換などで済まそうとしている。自民党市政が倒れて、北橋民主党市政になって、しかも国政も民主党政府になって、労働組合は与党になっている。
多くの労働組合は長年、市民の利益を守るというのでなく、自分たちの待遇ばかりを要求する組合主義、経済主義が濃厚であった。極端には自分さえよければ市民はどうなってもよいというものであった。しかし事態は市民生活切り捨ての矢面に立たされて、廃人にまでなっている。すなわち、自治体職員の本来の労働運動は、何よりも第1にその地域の市民の利益を守ること、地方自治を守ることであり、そのために市職員の地位、待遇を守るという関係にある。市民切り捨ての小泉以来の構造改革と、その地方自治体でのあらわれを暴露し、市民と団結してそれとたたかうという方向でなければならないことを教えている。そのような運動は市民の圧倒的多数の支持を受けることは疑いない。