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【神州の泉−高橋博彦】
2009年10月23日 (金)
田中康夫氏の「脱ダム宣言」は重要な展望の一つだ
八ツ場ダムの中止、推進問題は、戦後日本が進めてきた大型公共工事の問題点を余すところなく示している。大きな展望で眺めた場合、川の流れを堰き止めることは、生態系に悪影響を与えるどころか、河口付近の沿海系生態まで破壊的な影響をもたらす。ダム建設はマイナスの側面があまりにも大きすぎるのだ。しかも、その治水目的もダム湖自体に土石が堆積して、浚渫(しゅんせつ)に途方もない金額が恒久的に掛かる。
田中康夫氏の「脱ダム宣言」は、戦後の欧米型自然開発至上主義から脱する原点を持つ。豊葦原之瑞穂國(とよあしはらのみずほのくに)と言われた、我が国特有の自然と調和した美しい国土は、上流部の原生天然林が健康に保たれ、里山自然に人間が手を入れて、全体としてエコシステムが上手い具合に保たれてきた。江戸時代はこれを水系一貫の思想できちんと保全していたのだ。
生産効率や水利用という、産業革命以後の合理的インフラストラクチャーに特化し、自然観環境の全体的関連性や複雑系の動的バランスを無視する自然改変を行ってきたのが、明治以来の国土開発の思想だった。特に先の大戦以後の日本は、杉やヒノキの人工林を、着物を着せ替えるように原生自然林と代替し、山間部の原生自然は消滅に近い状況になっている。そのために上流山林部の保水能力、及びその水が徐々に下流に出て行く、本来の天然林が持つ理想的な潅水能力は喪失した。これが治水崩壊の第一要因だ。
そのために台風などの大雨どころか、以前は吸収できていた普通の長雨などの場合も、洪水を引き起こすようになった。このパターンが生じたために、ダムのない地域には治水目的ダムの乱立が称揚される結果となった。悪循環である。ダム問題と天然原生林復興の問題は不可分一体なのである。この思想がなかなか見えてこない。実はこの思想は、日本の食料自給率の向上とも大いに関係がある。
上流部の原生自然と、平野部と山間部の中間領域、すなわち里山(さとやま)のエコシステムは、河川を通じて海浜や沿岸部の自然環境と重要な係わり合いがある。日本全国の砂浜が急速に縮退している現実も、ダム問題と天然林伐採問題が大きな原因になっている。他に一つの目に見える歴史的事例として、秋田県沿岸のハタハタ漁獲高の減衰にそれは顕著に出ている。日本人は官民上げて、これを国策的に展望し、自然を復興する一大公共事業として取り組まなければならない。これを管理人は「神州復興プロジェクト」と名づけている。
以上の理由で、日本列島全体が脱ダム化に向かうために、政治的な強権で切り替える必要を感じるが、第一に考えるべきは、地元の住民のことだ。本来、先祖代々住んだ土地は守り抜いて、それを子孫に伝えていくことが日本人の心である。そういう人々の土地にたいする愛情や義務が、日本の美しい国土を保全していたと思う。先祖のお墓のある土地を守ることは重要である。
八ッ場ダム水没予定地の川原湯温泉は全戸移転を決定したというむごい経過がある。この小さな集落の人たちの気持ちは最大限に汲み取る必要がある。前原大臣はその辺の配慮が足りなかったと思う。住民にしてみれば、進むも地獄、立ち止まるも地獄なのである。まるで大東亜戦争の日本みたいである。そのうち詳しく語るが、ダムの水没地の人里は日本人の魂のふるさとでもある。その意味を深く考えてもらいたい。
倭(やまと)は国のまほろば たたなづく青垣 山ごもれる 倭しうるはし
熊襲(くまそ)を征討し蝦夷を平定した日本武尊(やまとたけるのみこと)は、伊勢の国に入り、能褒野(のぼの)という地で没した。息を引き取る間際、戦いに疲れた彼が、故郷の大和を偲んで詠んだ歌が上記である。この歌は日本人全体に共通する故郷の原初的心象風景と言われる。ダムに水没する土地は、すべての日本人の魂のふるさとである。これが水底(みなそこ)に消えてしまう無残さを、一体どれだけの日本人が自覚しているのだろうか。
日本人は温泉地に時々出かけるのが古来から好きである。それは温泉の効用だけを求めるのではない。山間地にあるひっそりとした山里に精神的な安らぎを求めているのだ。温泉地の山里は、ヤマトタケルノミコトが人生の最後に思い浮かべた日本人の原初的な故郷の風景に重なる。山並みに幾重にも囲まれたひっそりとした美しい場所。そういう場所を立ち退く人々の苦しみを考えるべきだ。それは日本人全体の苦しみでもある。国策に翻弄されている八ッ場ダム地元住民のことは第一に救済する必要がある。
田中康夫氏の「脱ダム宣言」は日本人として絶対に進むべき道だと思う。
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2009/10/post-0636.html