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http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20091023ddm004070158000c.html
記者の目:JCO東海事業所・臨界事故から10年=八田浩輔(水戸支局)
◇八田浩輔(はった・こうすけ)
◇住民参加の「安全」論議を 新政権らしい規制組織で
茨城県東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所」で、作業員2人が死亡、660人以上が被ばくした臨界事故から10年。村では原子力について推進か反対かの「二元論」ではなく、国・事業者との対話を通じて原子力の安全を考えようとする機運が高まりつつある。だが、肝心の国の安全体制は原子力を推進する立場の経済産業省の傘下に安全規制を担当する原子力安全・保安院が置かれ、公平性や信頼性に疑問符がついたままだ。歴史的な政権交代を機に、市民参加型の新たな規制組織をつくるなど、既成概念にとらわれない安全論議を深める時が来たと考える。
臨界事故から丸10年の9月30日、東海村の村上達也村長は記者会見で「原子力の安全を担保するため、推進と規制の組織分離をすべきだ」と訴えた。現在の国の安全体制は、事故をきっかけとする原子力行政への不信感を背景に01年の省庁再編で生まれた。経産省は「内閣府にある原子力安全委員会(有識者5人で構成)と保安院がダブルチェックをしている」として、分離しなくても安全規制上の問題はないとの立場だ。
だが、事故以降も、02年に発覚した東京電力のトラブル隠しや、04年に作業員5人が死亡した関西電力美浜原発の高温蒸気噴出事故など、事故隠しやデータ改ざんは後を絶たない。これでは安全論議は深まらない。まず事業者と住民が立場を超え、施設の潜在的なリスクを幅広く議論する土壌づくりが必要だ。
私がこう考えるヒントの一つが、臨界事故を契機に茨城大で00年から熊沢紀之准教授(生物物理化学)が続ける「原子力施設と地域社会」をテーマにした講義だ。原子力への不信感の背景に事業者と市民の「情報格差」があるとの認識が、熊沢准教授の出発点だという。
2月、100人以上の学生に交じって聴講し、原子力広報についての議論が最も印象に残った。村内にある日本原子力研究開発機構の核燃料サイクル計画のPR施設で使われているプルトニウムをイメージした愛らしいキャラクター「プルト君」の是非が論じられた時のことだ。ある男子学生が「イメージアップのため重要だ」と主張した。プルトニウムの危険性について、どれだけの情報を持っているのか。熊沢准教授は「では、青酸カリに『にこちゃんマーク』をつけますか?」と危険性を十分知らせないままの情報の非中立性を説いた。「施設5キロ圏内の住民に補償をして立ち退かせて安全を確保すべきだ」などバランスを欠く主張もあったが、率直に不安や疑問を投げかけられる場があることは新鮮だった。
学生と行政当局者や原子力事業者が安全対策についての対話を積み重ねる中で信頼が生まれ、説明者側も相手に分かる言葉で答えようとするなど相乗効果も生まれているという。「既得権益や利害関係を超えて議論することで、それぞれの立場に固執しがちな市民、行政、事業者が胸襟を開くことができる」。熊沢准教授の言葉に、エネルギー需給や地域振興など原子力を巡る広範な分野で、市民が参加する機会を広げる必要性を改めて感じた。
57年に日本で最初に「原子の火」がともった東海村。ここで9月13日、村長選があった。臨界事故当時1期目だった村上村長と、新人、坪井章次氏の一騎打ちとなり、原子力政策が最大の争点となった。村上村長は中性子を用いた大型実験施設誘致などの実績を掲げ、原子力との共存に向けた未来像を提示。坪井氏は地域振興策としての原発誘致を公約とした。原子力機関関係者は、その違いを「角度にすれば20度くらいの差」と評した。原子力との共存を前提にした推進派同士の論戦ということだが、3人に1人が原子力産業に携わるとされる村の事情を踏まえた事故後の新たな流れといえる。踏み込んだ論争の末、村上氏が4選した選挙の経過は、唯一の反対派村議も一定の評価をしており、「推進か反対か」という従来の理念対立が変わりつつあることを実感させた。
事故から10年という節目の年の政権交代で、連立政権内に原子力利用に積極的な民主党と脱原発の社民党が共存することになった。保安院の位置付けについて、社民党党首の福島瑞穂消費者・少子化担当相が見直しに言及したのに対し、民主党の直嶋正行経産相は否定的な見解を示す。今後、政権内の政策論争を「閣内不一致」と批判する声もあがるだろう。しかし、これは既成概念にとらわれず、新しい安全規制の在り方を探るチャンスでもある。
高みに立って押しつけるような姿勢ではなく、胸襟を開いて住民の疑問や不安に応える原点に立ち返る。それが国や事業者への信頼を築くための近道ではないだろうか。
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毎日新聞 2009年10月23日 東京朝刊