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米人記者が語る:民主党の「新アジア主義」への米国のいわれなき畏れ
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2009/10/post_394.html (全文転載)
■高野論説
ダニエル・スナイダーとリチャ−ド・カッツは私の30年以上にわたる記者仲間であり家族ぐるみの付き合いをしてきた友人である。特にスナイダーは、小沢一郎の「親友」で、『週刊現代』10月24日号には「小沢一郎という男」と題した彼のインタビューが載っている。彼と、彼のパートナーで経済ジャーナリストのカッツが米国の権威ある外交評論誌『フォリン・ポリシー』最新号に論文を寄せ、NYタイムズに代表される米メディアやオバマ政権内の鳩山および民主党政権に対する誤解と偏見に反論していてなかなか面白いので、著者たちの了解を得て(『フォリン・ポリシー』の了解は得ず、私の拙ない翻訳で)紹介する。[高野]
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日本の民主党が8月総選挙で勝利を収めて以来、米国の日本ウォッチャーたちは新政権が現状を覆して米国離れをしようとするのではないかと心配してきた。確かに民主党は新しいパラダイムを生み出そうとしている。が、それは人々が思っているようなパラダイムではない。
民主党が政権を獲る以前から、敗北を喫した自民党とその米国の同盟者は、新政権が「反資本主義」であり「反米」であるかに描き上げるメディア・キャンペーンを両国で展開し始めていた。
鳩山由紀夫首相が[『VOICE』9月号の]論文の中で、「米国主導の市場原理主義」を批判し、また中国が覇権国家たらんと企図する一方で米国が支配を維持しようと奮闘している世界の現状に言及していることについて、評論家たちがいろいろ言い立てている。半世紀に及ぶ自民党支配が失墜したことを歎くあまり、これらの悲観論者たちは、鳩山が自由市場経済を投げ捨てようとしているとか、国際経済社会における日本の重心を西側からアジアにシフトしようとしているとか、安保上のスタンスを米中「等距離」にしようとしているとか、あげつらっている。
●民主党への誤解
このような言い方は、バラク・オバマ大統領を社会主義者だとレッテル貼りするのと同工異曲である。鳩山は、この経済危機の原因が行きすぎた規制緩和にあると非難しているが、それは多くの人が言っていることである。米国離れをしようとしていると言う人がいるけれども、民主党は日米自由貿易協定の推進を支持してきた。こんなことは自民党は一度も言ったことはなかった。さらに、民主党の指導者たちは、米国を見捨てて上り坂の中国の庇護の下に走ろうというような単純な主張をしているのではない。むしろ、民主党が望んでいるのは、米国とはより対等なパートナー関係を築きながら中国・韓国はじめアジアとの関係をより重視しようという、日本の外交政策におけるパラダイム・シフトである。
これを「新アジア主義」と呼ぼう。この考え方は、今週末に北京で開かれた日韓中首脳会談ではっきりと示された。この3者サミットが開かれたのはまだ2回目に過ぎないが、前回と比べると遙かに実質的な中身のある会議で、北朝鮮への対応や経済刺激政策からEUをモデルとした「東アジア共同体」の形成にむかって一歩を踏み出すことまでが広く議題となった。
新アジア主義は、日本の日米同盟最優先の路線を揺り戻そうというものではあるが、かと言ってそれを全面的に拒否しようというものではない。これまでの自民党政権は、ワシントンの政策が間違っていると分かっている場合でも同調しなければならいないと思うのが常だった。例えば、小泉純一郎元首相は、イラクに部隊を派遣し、あるいはインド洋での給油活動に艦船を派遣したが、それは米国の政策を支持したからではなくて、中国や北朝鮮との緊張が高まった際に米国が日本を助けてくれるという約束を確かなものにするためだった。
勃興する中国を封じ込めるべきだという東京・ワシントン双方のネオコンの主張に対して、民主党は、そのような試みは失敗するに決まっているとして、はっきりと否定する。米国と中国がますます経済相互依存を深め、戦略的利益を共有しつつあることを思えば、ワシントンが反北京戦線を構築しようとすることはあり得ないと民主党ブレーンの1人は見る。また東京は、米日安保同盟にのみ頼っていたのでは中国の地域覇権の企てに対抗することは出来ないと考えている。反対に、東京がもっと恐れていることは、米国が日本を見放して米中による"G2"を形成して、日本をこの地域における二流国に降格させることである。民主党の見方では、そうさせないために日本は中国をより広い範囲で地域的問題に関与させるよう仕向ける必要がある。
●パラダイム転換の3要素
鳩山や他の民主党幹部が日本のメディアや本論の著者たちとのインタビューで明確に述べているこのパラダイム・シフトは、大きく3つの要素からなる。
第1に、9月に鳩山がオバマに語ったように、米日同盟は日本の外交政策の"要石"である。東京が、安全保障や経済の領域でワシントンと距離を置くなどというのは、まったくナンセンスで、もしそのような幻覚じみたことを言っている者がいるとすれば、それは日本人の中でもごく少数のオタクっぽい連中だけである。
実際、日本と米国はお互いに手を携えることで中国と拮抗し、貿易、環境その他の問題で中国が責任ある大国となるよう促す必要がある。加えて、日本は米国(および中国)との強力な同盟なしには北朝鮮の核に対処することが出来ない。いくつかの難しい2国間の安保上の問題は残っていて、例えば積年の沖縄米軍基地の問題がそうである。しかし、自民党よりよほど手強い交渉相手である民主党指導部は、この問題を含めてオバマの11月訪日以前に妥協策を見いだそうとしている。
この現実主義には深いルーツがある。例えば、鳩山やその他の民主党指導者たちは、彼らがまだ自民党所属だった時代から、米国との強い同盟の枠内で日本の安保役割を拡大することを主張していた。1992年には彼らは日本の海外PKO参加に道を開く先頭に立った。2001年には9・11攻撃に対応してインド洋に海上自衛隊を派遣することを支持した。そして今週、岡田克也外相はアフガニスタンとパキスタンを訪れ、東京がこの前線で支援を提供し続ける(ただし軍事援助ではなく経済援助を通じて)つもりであることを表明した。
経済の分野で、もし民主党治下の日本がアジア・ブロックに加入したとしても、それは米国との経済的絆が終わるとか弱まるとかいうことを意味しないだろう。ずばり言って、アジアの成長は米国の繁栄と密接に結びついている。今日の日本は米国よりも中国に多くを輸出しているが、翻って中国の繁栄は米国向けの輸出に頼っている。米国の不況とそれが中国にもたらした余震とがどれほど日本に打撃を与えたかを見れば、この依存関係の現実に疑いの余地はない。
●東アジア共同体の可能性
民主党の外交政策におけるパラダイム・シフトの第2の要素は、東アジアの地域的リーダーとしての役割を果たしたいという熱望である。この熱望の帰結が、EUの初期段階をモデルとした「東アジア共同体」である。
先月の国連での演説で、鳩山は、共同体が遠い将来には共通通貨ユーロのアジア版を作ることになるだろうという、いささかロマンティックな願望を口にした。彼が明言したところでは、これは長期の課題であり、「自由貿易協定、金融、通貨、エネルギー、環境、災害救助その他、協力できる分野からスタート」して、しかる後に共通通貨問題に進んでいくことになる。また彼は、アジア通貨の創設はドルや米国との強い経済的絆を傷つけることにはならないと強調している。むしろ鳩山は「開かれた地域主義の原則に基づいてお互いの経済的ダイナミズムを共有する」ことを求めている。この「開かれた」という言葉は、米国の東アジア共同体への非公式な参加への暗号である。
日本政府関係者は、東アジア共同体を構成するのはASEANの10カ国プラス中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、それにインドとなるだろうと言う。この顔ぶれは、日本の提案と米国の奨励により2005年に初めて会合した。末尾3カ国は、中国がこの会合を主導しようとするのを牽制するために、後から付け加えられた[訳者注]。
民主党ブレーンたちはこの東アジア共同体の追求が唯一最優先の地域政策だと主張するが、別の考え方もあって、それは、北朝鮮の核をめぐる6カ国協議を発展させる形で地域的安保を構想すべきだというものである。彼らはまた、日本・米国・中国の戦略的対話というアイデアも温めているが、これはワシントンと東京が手を組むことで北京を抑えることが出来るという民主党ブレーンたちの考えに基づいている。ヒラリー・クリントン国務長官とジェフリー・ベイダー国家安保会議アジア部長も日米中対話を支持している。ベイダーはブルッキングス研究所にいた当時にこの3カ国協議を主張していた。
カート・キャンベル東アジア太平洋担当国務次官補はじめオバマ政権高官は、日本が中国やアジア諸国と関係改善を図ろうとすることについて、公に歓迎の意を表明してきた。それにもかかわらず、オバマ政権高官の中には、鳩山が東アジア共同体について語る真意について個人的に不安を漏らす者がいる。彼らは、それが排他的な地域統合に行き着くのではないかと心配している。その恐れは全くないとは言えないが、これが民主党内にあってもまだ不定型なアイデアであることを理解することが重要である。
だから、オバマ政権はこの問題について民主党に関与すべきである。そのためには、同政権は、オバマが出席予定の11月のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議までに、東アジアの地域主義についての同政権自身の政策を描き上げなければならない。そうすれば、ワシントンはEUのアジア版について何を問題にすべきか、例えばAPECなどの機構と東アジア共同体の重なり具合に対してどう対処するかがはっきりする。そうすれば、米国は日本がリーダーシップを発揮しようとするのを支援することが出来るだろう。それは米国が長く待ち望んできたことなのだから。
●歴史問題への新視点
民主党の外交政策におけるパラダイム・シフトの第3の要因は、歴史問題、すなわち1930〜40年代の日本のアジア侵略を巡る近隣諸国との間で長く続いてきた緊張を解決することへの、新しい視点である。1995年に自社さ政権の村山富市首相は、戦時日本のアジアに対する侵略について謝罪した。自民党は口先ではこの謝罪を支持してきたものの、同党幹部は度々それを否定し、ソウルや北京を苛立たせてきた。
しかし鳩山は、アジア諸国の首脳とのどの会談でもこの問題を採り上げて、彼の政府が95年の謝罪を遵守することを再確約してきた。民主党は戦死者を祀った靖国神社からA級戦犯を除去するつもりであると言明してきた。また外相は、欧州諸国が第2次大戦とホロコストについてそうしてきたように、日韓中が共同で歴史教科書を作るよう提唱してきた。このような厄介な過去の遺産と向き合う作業は、中国や韓国との連携を改善するためだけではなく、将来後戻りが起きる可能性の芽を摘むためである。
このようなドラマティックな外交政策の変化、つまり新アジア主義を携えて、民主党は日本を導こうとしている。同党は、東アジアにおいてリーダーの役割を果たす用意があり、その意思があり、その能力がある。日本がより広範な地域的枠組みを通じて強力な中国との歴史的な対立関係をうまく処理していくことは、日米両国の利益である。ワシントンにとっては、今までより従順でない民主党日本というパートナーに慣れるには時間が要るだろうし、民主党が統治の現実を学ぶのにも時間が要るだろう。しかし、ワシントンも民主党も、冷戦時代の思考にしがみつくのでなく、これを今日的な新しい現実に合わせて日米同盟を再構築する好機とすべきである。▲
[訳者注]小泉内閣が提起した「東アジア首脳会議」は、当初、ASEANの東南アジア10カ国プラス東北アジアの日韓中のごく自然な枠組みとして考えられていたが、米国はこれが中国の地域覇権の道具となることを懸念して、豪、ニュージーランド、インドの"民主主義"3カ国を加えるよう日本に圧力をかけ、日本を含めた4カ国で中国を包囲する形を採らせた。それら3カ国が「東アジア」であるはずがなく、鳩山が構想する東アジア共同体では元のASEANプラス3に立ち戻り、3カ国および米国はせいぜいがオブザーバーの地位になるのではないか。また東アジア共同体が日本およびアジアの"米国離れ"を意味するのではないかという米国の被害妄想は根深いので、それと並行して日中米の世界ビッグ3による「戦略的対話」の枠組みを形成することが必要になろう。
《著者について》
ダニエル・スナイダー:米スタンフォード大学ショーレンスタイン・アジア太平洋研究センター副所長、元クリスチャン・サイエンス・モニター東京特派員、サン・ノゼ・マーキュリー外交記者。
リチャ−ド・カッツ:ジャーナリスト、オリエンタル・エコノミスト編集者。
投稿者: ニューススパイラル 日時: 2009年10月17日 10:19
(転載終わり)