早期抜本改正への闘いを確認 10・29大結集へ垣根を超えた共同態勢強化ごった返す会場 ビデオ放映も 九月三十日午後、参議院議員会館第二・三会議室は、部屋に入りきれないほどの労働者、市民、さらに国会議員、議員秘書、報道陣でごった返した。標記の院内集会だ。誰もが実感する運動前進の手応えを映し、会場の空気は明るく和やか、そして開会前から熱気が満ちてゆく。なお集会参加人数は最終的に百七十人以上と発表された。 開会に先立って、首都圏青年ユニオンなどを中心に六月に行われた「自動車会社の社長さんに会いたい」という、ユニークなバスツアー行動のビデオが上映された。日本に君臨する自動車会社本社を非正規労働者が次々と直撃「訪問」する。タレントの松元ヒロさんがマイクを手に同行、土屋トカチさんが監督した。派遣労働がいかに無責任かつ卑劣な心根の下に利用されたのかを無言の内に映し出し、同時に、そこここにちりばめられたユーモアで大資本の薄っぺらな真実をある種笑いのめす。大資本と労働者、精神性はどちらが上かが自ずから明らかになるなかなかよくできたビデオ、派遣法抜本改正運動の今を象徴しているように思えた。 参加者全体に 闘いの手応え 気合いが一段と入ったところで、午後一時三十分、全国ユニオン鴨桃代会長の進行で集会は始まった。 先ず、主催の「派遣法抜本改正を求める共同行動」(以下共同行動)を代表し、棗一郎弁護士が基調を提起。草の根からの運動がもう一押しというところまで道を切り開いてきたという闘いの成果を確認した上で、連立政権政策合意の雇用対策の筆頭に派遣法抜本改正が掲げられていることを指摘、今こそこれを何としても実現させる闘いの時だと呼びかけた。そして、失業が増える、雇用が失われる、などとデマ宣伝に乗り出している規制反対派に対し、机をたたかんばかりの怒りを満身に表し反撃を加えた。既に規制以前に何の責任もとらずに首を切り、大失業を作り出しているではないか、自由な雇用調整を担保したいなどと何という虫の良さか、と。 この熱の入った提起に次いで立った国会議員も次々と力の入った発言で応えた。出席した議員は、民主党五人、共産党五人、社民党四人、公明党一人の計十五人、内十人が発言した。各発言については紙面の都合で割愛するが、前政権与党、公明党の谷合正明衆院議員の発言だけは紹介しておきたい。彼は、雇用の安定は必要であり、簡単に切るようなことには反対、しかし製造業派遣と登録型の禁止、そして専門業種の範囲にはもう少し議論が必要と態度表明した。国会での実際の対応がどうなるか注目だ。 この日の特徴として出席議員の顔ぶれには以前と相当様変わりがあった。常連の内、共産党の小池晃参院議員を除いて、民主党の菅直人衆院議員、国民新党の亀井亜紀子副幹事長の顔がなかった。福島みずほ社民党党首は、参加した労働者市民が手にした入館証に、紹介議員としてだけ辛うじて姿を見せていた。各々新政権と与党の中枢、ここまで足を運ぶ余裕はなかったようだ。民主党も相原久美子参院議員を除き圧倒的に新人議員。政権交代はここにも如実に顔を出していた。ただ亀井議員と民主党の高山智司衆院議員からは会場にメッセージが届いた。 専門26業種の 規制は外せない この日の集会のハイライトは四人の当事者からの発言。各々考えさせる重要な問題提起があった。 三菱ふそうの鈴木さんは、会社から都合のよいように使われることが日常的だったと、具体的事例を挙げて説明した。その上で、それに慣らされ派遣切りされたときはそんなものかと思わされた、しかし組合に入って少しずつは変わるかもと思い始めている、それでも経験がないためまだ確信がもてず元気のいい発言はできない、と申し訳なさそうに話した。正直な発言だと思われる。そのような思いでいる労働者はおそらく圧倒的多数派のはずだ。逆に言えばだからこそこの闘いは勝利しなければならない。鈴木さんは参加者にそれを強く訴えていた。 いすゞから派遣切りされた山本さんは、職業訓練は倍率が高く受けたくても受けられない、雇用保険もまもなく切れる、しかしハローワークに何回通っても正規の仕事がない、生きるためには永遠に派遣で働くしか道がないように仕向けられていると、失業者の生活保障を底抜け状態にしている今の社会のおかしさを切実に訴えた。 パナソニックの佐藤さんは、専門二十六業種の詐欺的実態を怒りを込めて暴き出し、この問題を見過ごしてはならないと強調した。この二十六業種には、専門という名目で派遣制限期間がない。したがって、「事務機器操作」専門業種の名目で派遣され実際はショールームでの接客業務に十八年間も従事してきた佐藤さんの場合、法的にはきわめて壁が厚い法廷闘争だという。しかもその「専門」たるや実情はまったくいいかげん。そこには「など」という接尾語がつくごまかしがあり、彼女の所属する宮城合同労組と厚労省との交渉においては、その「など」の中に、まったくかけ離れたさまざまな業務がはめ込まれることも「あり得る」と回答された。この専門性は誰が認定しているのか、この抜け道だらけの「専門業種」派遣労働に派遣労働者の最大多数を占める女性が雇用の安定への道を閉ざされたまま縛り付けられている、女性の非正規化を法が認めている、この専門指定を認めたままでは女性がそこに追いやられる、このように佐藤さんは、舌鋒鋭く告発し、26業種を含む登録型派遣の禁止を強く訴えた。ともすれば製造業派遣の問題だけに注目が集中しがちな現状において、派遣法抜本改正がどのようなものでなければならないのかを改めて問いかける、きわめて重要な問題提起だった。 最後に発言に立った阪急トラベルサポートの塩田さんも、専門二十六業種の問題を別の角度から告発した。「旅行添乗員」の専門性は高い、しかしそれでも容易に使い捨てされ待遇は低下の一途、このような派遣添乗員の実情を塩田さんは明らかにした。そこには、昨年の院内集会で告発された国際電話サポート業務(通訳など)派遣労働の実情とまさに瓜二つのものがあった(KDDIエボルバーユニオンの報告)。専門性が高いから派遣でも問題は起きない、などという口実には何の根拠もなかった。それはまさに机上の空論の見本だ。派遣という間接雇用形態こそが問題の根源であり、直接雇用を何としても実現しなければならない、塩田さんもこのように強調した。 連立合意の中にも、「専門的業務を除き」とする派遣禁止除外規定がある。ここに見てきた発言は、この規定に重大な問題を投げかけている。規制にどう実効性をもたせるか、運動が手をゆるめてはいけない課題が浮き彫りにされた。 抜本改正必らず 次は10・29だ! これらの発言を受け、さらに二人から、派遣法抜本改正実現の重大な意義を強調する訴えがあった。 最初は、日比谷年越し派遣村の村長を務めた湯浅誠さん。彼は具体的数字を挙げながら、日本がもはや世界有数の、アメリカをもはるかに上回るほどのワーキングプア大国であることを指摘、仕事はあるはずという神話はもうないという自画像の認識が必要だとした。そして、失業が増えるという規制反対派の論理と貧困ビジネスの使う論理が瓜二つだとえぐり出し、「構造改革」の転換が政権交代の最大の公約だとすれば派遣法問題にはその象徴としての意味があり、それが実現することで先が次々と開ける、と訴えた。 次は日本労働弁護団の小島周一幹事長。彼も、二〇〇〇年以降で大企業は利益二倍、株主配当は二・五倍という数字を挙げ、規制反対派の失業キャンペーンを怒りを込めて糾弾。そして派遣法抜本改正運動は自分たちでこぎ続けなければ動かない自転車の運動だと指摘し、実現の日まで手をゆるめず闘い続けようと檄を飛ばした。 その後棗弁護士が再度発言に立ち、松下プラズマディスプレイ(松下PDP)の吉岡さんに対する大阪高裁判決を最高裁が見直そうとしていることに対して、反撃の署名を呼びかけた。大阪高裁判決はみなし雇用を認めた重要な判決であり、その後全国で六十件以上の雇用確認訴訟が提訴されているという。この動きに釘を刺そうとする最高裁の動きを予防的にたたこう、棗さんの訴えはあくまで攻勢的だ。 集会は「労働者派遣法の早期抜本解決を求める9・30院内集会アピール」を満場の拍手で採択した後、最後に、阿部誠全国ユニオン事務局長から、抜本改正の早期実現と10・29日比谷集会への大結集を呼びかける行動提起を受けた。参加者はこの提起に日比谷集会成功を共に担う決意を込めた拍手で応え、運動への確信と共に、さらなる闘いへの意欲を胸に散会した。 なおこの日は集会終了後、同会場で、10・29集会のための全国相談会が開かれ、九州から東北まで広範囲の代表が参加する下で、全力を挙げた組織化が確認された。その一環として、共同行動作成の『派遣法改正で雇用を守ろう!―規制強化で失業は増えるのか?―』とのパンフレットを全国に無料配布し世論喚起すること、及び松下PDP訴訟への公正判決要請署名(別掲)を全国で取り組むことも確認された。(神谷) |