反戦・反核・平和の対抗軸を強化しよう 総選挙で自公政権が打倒されてから一カ月、鳩山民主党主導政権は、自民党との差異をイメージさせる政策を打ち出している。労働者・市民は鳩山政権の下でどのような闘いを作り出すべきか。今号からシリーズとして鳩山政権の政策を検証する企画を行っていく。読者の皆さんのご意見をぜひ寄せてください。(編集部) 外交デビューで 問われたもの 九月十六日に三党連立内閣を組閣した鳩山由紀夫首相は、九月二十一日からニューヨークを訪問し、新首相としての外交デビューを行った。 九月二十一日、最初の首脳会談の相手として中国の胡錦濤国家主席と会談した鳩山は、「東シナ海をいさかいの海から友愛の海に」と語り、一九九五年の「村山談話」を踏襲することを明らかにした。そして日中両国の信頼関係を軸に「東アジア共同体」の構想を披歴した。翌二十二日国連気候変動サミットで二〇二〇年までに温暖化ガス排出の「九〇年比二五%削減」を訴えた鳩山首相は、さらに二十三日にはオバマ米大統領と初の会談に臨んだ。 小沢一郎・前民主党代表が打ち出した「対等な日米同盟」「米軍再編・日米地位協定見直し」「インド洋給油作戦の打ち切り」などの政策については、米政権からの「反米的」というジャブが出されていた。鳩山は「辺野古新基地建設」などの個々の論点にはふれず、「日米同盟がこれからも安全保障の基軸」として自民党政権からの継承を確認し、「対米自立」志向という印象をオバマ政権に対してやわらげ、十一月のオバマ来日までに「民主党マニフェスト」「連立政権政策合意」と日米同盟の枠組み堅持路線との間でありうる「溝」をうずめる作業を進めることとなった。 「友愛」と「架け 橋」の裏側では 鳩山は、九月二十四日に国連安保理首脳会合と国連総会で続けて演説した。安保理首脳会合の演説では「唯一の被爆国としての道義的責任」として「非核三原則」の堅持を強調すると共に、「核兵器のない世界」をめざすというオバマ米大統領の四月プラハ演説を高く持ち上げ、核保有国の核軍縮、不拡散を訴えた。その一方で北朝鮮とイランの核開発を非難し、北朝鮮に対しては今年六月の国連安保理決議1847に基づく「制裁」を実効的なものとする措置を確認した。これにより通常国会では廃案になった「北朝鮮船舶検査法案」の再上程と成立がもくろまれるだろう。 国連総会演説では、一九五六年十二月の日本の国連加盟承認時における重光外相の演説を引いて「友愛精神に基づき、東洋と西洋の間、先進国と途上国の間、多様な文明の間等で世界の『架け橋』となる」とぶちあげた。そしてアフガニスタンへの「警察支援を含む治安能力の強化やインフラの整備」の上にいっそうの「積極的支援」を確約した。この「友愛」や「架け橋」という言葉の背後から、日米同盟を土台にした米国のグローバル軍事戦略への追随が依然として続いていることにも警戒を怠ってはならないのだ。 またFTA(自由貿易協定)や金融、通貨、エネルギー、環境などでの協力を通じた「東アジア共同体」についても強調したが、それは鳩山の「東アジア共同体」が、金融資本の投機や多国籍資本が主導する「自由貿易」体制の規制ではなく、労働者民衆への搾取を強化し、生活を破壊する新自由主義的秩序の再構築をめざす大資本のための「共同体」であることを明らかにするものでもあった。 米国を舞台にした鳩山の一連の首脳会談や演説は、確かに日本の政権交代を印象づけるものとなった。しかし鳩山の外交デビューの一定の成功にもかかわらず、オバマにならった「チェンジ」が、実際にどれほどのものであるのかを、労働者・市民は自らの闘いによって批判的に検証していかなければならない。 新政権に鋭く 迫る沖縄の闘い 民主党・社民党・国民新党の三党による「政権合意」は、確かに自公政権との違いを際だたせようとしている。たとえば「沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地の在り方についても見直しの方向で臨む」とした「政権合意」を軸に、いま沖縄県民は具体的に辺野古・高江の新基地建設阻止へ具体的な前進を切り開くための攻防を開始している。今回の衆院選で、自公両党はついに沖縄選出・出身議員のすべてを失った。沖縄選出の衆院議員はすべて辺野古新基地建設に反対の立場を明らかにしている。沖縄県議会でも、議会の多数は保守・仲井真県政への野党である。 しかし、この「政権合意」を実質上名目的なものにとどめようとする力学が、鳩山政権の中で働いている。北沢俊美防衛相は、記者会見で「(普天間代替施設の)県外移設は困難」との見解を表明した。北沢は九月二十五日に沖縄を訪問した際には「最も大切にしないといけないのは沖縄県民の心だ」と仲井真知事に語り、「辺野古新基地建設容認」をぼかしたが、岡田外相をふくめて米国との関係では「米軍再編の決定経過についての再検討」ということにとどまっており、新基地容認への逃げ道を確保することに躍起となっている。この攻防の成否が、「本土」の労働者・市民の沖縄の闘いを孤立させない「米軍再編」白紙撤回への強い意思にかかっていることは言うまでもない。グアム移転協定の廃止、グアム移転関連予算の差し止めは当然の要求である。 鳩山政権は、「核密約」「沖縄密約」の解明を打ち出している。われわれは「密約文書」の公開を求めるとともに、嘘をつき通してきた歴代政権、外務省の責任を追及し謝罪を求めなければならない。そして「非核三原則」の法制化、「沖縄密約」を原点とした「思いやり予算」の廃止を求めよう。「日米地位協定」の抜本改正をただちに実現させよう。 「防衛計画大綱」 でテストされる 先述したように鳩山首相は核保有国の責任をふくむ「核軍縮」を国連総会演説で前面に押し出した。それを言葉だけのものに終わらせないためには、米国の「核の傘」という「拡大抑止戦略」に依拠してきた日本の政策の全面的転換を必要とする。日本政府は、現在水上艦船や原潜から撤去され陸上保管され、二〇一三年には退役・廃棄されることになっている米国の核トマホークの退役に強い抵抗を示し、それが米政権内の核兵器維持派に口実を与えている、と報じられている。 また現在オバマ政権は、核の先制不使用を新たな「核態勢見直し報告書」に盛り込む予定とされている。しかし日本の外務省は「現状の拡大抑止を弱める核の先制不使用は、日本の求めるところではない」とオバマ政権を牽制しているとされる。(杉原浩司「『北東アジア非核・非ミサイル地域』へ踏み出す時」(『ピープルズ・プラン』47号参照)。 岡田外相は、「核の先制不使用」を否定する核保有国には「核軍縮」を語る資格はない、と言い切った。それを言葉だけにしないためにも日本政府は米国の「核の傘」からの離脱を宣言し、核先制攻撃戦略の一環であるPAC3の配備を中止しなければならない。そして民主党のマニフェストに書かれているような「北東アジア地域の非核化をめざす」ことを実施に移していかなければならない。「北朝鮮による核兵器やミサイルの開発をやめさせ」る(連立政権合意)ことは、北東アジアの非核地帯化とセットなのである。そしてそれと並行する形で北朝鮮の「拉致」犯罪問題の解決と、公正な日朝国交回復の実現をめざす必要があるだろう。 こうした立場は、今年末に予定されている新しい「防衛計画の大綱」の根本的な見直しにつながらざるをえない。八月四日に麻生政権に提出された「安全保障と防衛力に関する懇談会」(安保防衛懇:座長・勝俣恒久東京電力会長)報告書は、「多層協力的安全保障戦略」というキャッチフレーズで「集団的自衛権行使」を違憲とした政府見解の見直し、「敵基地攻撃能力」整備のための「適切な装備体系、運用方法、費用対効果の検討」「武器輸出三原則」のいっそうの緩和、「専守防衛原則」への疑問提示、派兵恒久法の早期制定を求める内容となっている(本紙8月24日号参照)。ここには米政権と日本の軍事産業を先頭とする財界の強い圧力が反映されている。この報告書は、米国のグローバル戦争戦略に追随した自衛隊の実戦部隊としての恒久的派兵と軍拡、武器輸出への制約の解除を求めるものであり、事実上の憲法明文改悪を意味する。 自公政権のままだったなら、この「報告書」の骨子は年末の新「防衛計画大綱」に反映され、大規模な反転軍拡につながることになっただろう。 鳩山政権は「集団的自衛権」行使にかかわる政府見解の見直しを行いことを明言し、「安保防衛懇」報告についても、麻生政権の下で設置されて懇談会がまとめたものでそれには拘束されないと語っている。よろしい。そうだとするなら、二〇一〇年度予算においてもその姿勢が貫かれ、軍事予算の大幅削減、「中国、韓国をはじめ、アジア・太平洋地域の信頼関係と協力体制を確立し、東アジア共同体(仮称)の構築を目指す」(三党政権合意)のための率先した「軍縮」プログラムの提示が求められるのだ。 あらゆる派兵 に反対しよう 「三党連立政権合意」は、「緊密で対等な日米同盟関係」「日米協力」を前提とした安保・外交政策を訴えている。初の日米首脳会談で「日米同盟関係がこれからも安全保障政策の基軸」であることを鳩山とオバマは再確認した。しかし「日米同盟」とはもはや一九六〇年に改定された日米安保とは全く異なるものになっている。 それは米国と日本とがグローバルな戦略を共有し、自衛隊が事実上米軍の一部隊として米軍の指揮下で米国の策定した実戦任務に従事するものとなっている。「米軍再編」とはそうしたあり方を確認するものであった。民主党マニフェストに言う「わが国の主体的判断と民主的統制の下、国連の平和維持活動に参加して平和の構築に向けた役割を果たす」という主張、三党政権合意での「国連平和維持活動」での「主体的役割を果たす」ことなどはいずれも「日米同盟を基軸とした安全保障」の中に位置づけられている。民主党マニフェストの「海上輸送と安全確保と国際貢献のため、適正な手続きで海賊対処のための活動を実施する」という項目もまた、米国の「対テロ戦略」を基礎としたものであることは言うまでもない。 鳩山政権は、インド洋での海自による給油活動を来年一月の期限切れももって打ち切るという姿勢を明らかにしている。だが民主党の防衛族である長島昭久防衛政務官は「国会承認」を付けた上での「給油継続」を主張するなど、アメリカの圧力と事態の推移によっては、いまだ流動的な要素を含んでいる。三党政権合意は「テロの温床を除去するために、アフガニスタンの実態を踏まえた支援策を検討し、『貧困の根絶』と『国家の再建』に主体的役割を果たす」としている。しかし周知のように、総選挙の実施という体裁をとったにもかかわらずアフガニスタンで米軍が陥った泥沼はいっそう絶望的なものとなっており、米国でもNATO諸国でも軍撤退の世論が急速に高まっている。この中で、日本政府が「アフガン支援策」の隘路に直面し、「海上給油の継続」に逃げ込む可能性も排除できない。 われわれはインド洋の「海上給油活動」の中止、アフガニスタン占領の終結、ソマリア「海賊」派兵からの撤退の要求をあらためて求める運動を広げてゆくだろう。 「日米同盟基軸の安全保障」と「主体的な外交戦略」や「対等」な日米関係が根本的に対立するものであることはますます明らかになっていくだろう。労働者・市民はあらためて沖縄の新基地建設阻止と一切の海外派兵に反対する「対抗線」を堅持して、大衆的な結集と反撃を作り出していこう。 (平井純一) |