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以前私は自分が発行するメールマガジンで姉歯事件を取り上げた際、建設省(現国交省)のキャリア官僚と喧嘩して仕事を失ったいきさつを書きましたが、そのときの仕事、実は八ッ場ダムに関連する仕事でした。
ダムで水没することになる、観光業を営む住民の移転先として候補に上がっていたスキー場が、生活を支えるのに足る観光的ポテンシャルを持っているかどうかの調査だったのです。
国交省の仕事であるにもかかわらず候補地が国有林の中にあったので、今いろいろ物議をかもしている林野庁傘下の特殊法人を経由して私の友人の元に仕事が来ました。
つまりその仕事は国交省から特殊法人に出され、そこから友人の会社に丸投げされたわけです。
友人を含んだ我々(実働は5人)は視察ということで日本全国のスキー場でスキーをし、温泉に入り、おいしい食事を楽しみ、それなりの報告書を作成して常識を上回る報酬(元請段階で数千万円)を手にしました。
一言で言えば、文字通りおいしい仕事だったわけです。
その仕事で調査をしている最中には、来年度は海外のスキー場の視察を申請しよう、という話で盛り上がり、特殊法人の幹部職員達はその際には俺達も一緒に行くと宣言していました。観光地の視察だからラスベガスも入れよう、などとまで話していたのです。
もちろん特殊法人の面々は調査の仕事には一切かかわりません。
翌年の仕事は前述の私の不始末で消えてしまったのですが、テーマが何であれしかるべきスジを介して申請すればそのまま通り、請求どおりの巨額な調査費が入る、という雰囲気でした。
無駄をなくせば財源は出ると民主党が言うと、麻生元首相は「自民党も削れるところはとことんまで削った。無駄などない」と語っていましたが、それを聞くたびに笑っていました。これを無駄と言わずに何が無駄なのでしょう。
国交省とすれば、ダム建設反対の住民運動などは痛くも痒くもありません。運動が盛り上がれば盛り上がるほど多くの住民対策費が入るのですから。
ダムを完成させることより、国の金をより多く使うことを使命とする官僚にとって、57年という長きに渡って多額の予算を国の財布から引っぱり出し続けた八ッ場ダムはまさに金の卵を産むガチョウだったことでしょう。
さて、移転先の可能性調査などというローカルな仕事(我々は移転先として問題はないと言う結論を出しましたが、立ち消えになりました。最初からその土地への移転希望者などなく、調査のためだけの調査だった可能性さえあります)に多額の予算を使った国交省が、さまざまな理由で直接であれ間接であれ住民に配った額がどれほどになるかは普通の感覚を持った人なら容易に類推ができます。
それこそ折につけては手厚く扱ってきたことでしょう。その最後の厚遇がダムの竣工まで続くはずでした。
一方、ダム建設中止に反対している住民の言いたいこと、今ひとつピンと来ないと思っているのは私だけでしょうか。先祖の墓まで移設したなどと語っていますが、それと完成させて欲しいという主張とはどうつながるのでしょう。道路も完成し、新しい家も作ることが出来て、しかもふるさとの自然が残るのならご先祖様も納得すると思うのですが。
何度も足を運んだ吾妻渓谷はすばらしい景観を持っています。ふるさとではなくても残したいと思います。ましてそれがふるさとである人たちが、ダムの底に沈めてもらいたいなどと思うでしょうか。
前原国交大臣の視察に際し、中止ありきの視察なら会う必要がない、と言って住民側は話し合いの場への出席を拒否しました。
ダムの建設反対で使い続けてきた戦術でしょう。話し合いを拒否するたびに何らかの成果を勝ち取ってきた歴史があるのかもしれません。
しかしそれは建設反対と言う立場で初めて意味を持ちます。建設中止に反対の立場で話し合いを拒否しても、話はぴたりと止まってしまい、何の進展も望めません。まして話し合いを拒否することによって建設が始まるはずがありません。
止める立場で有効だった戦術が推進する立場では自らの首を絞めることになるのです。
建設中止の立場にある住民が今やるべきことは、建設中止が前提であろうとなかろうと大臣を話し合いの場に引っ張り出し自分の主張をぶつけることではないでしょうか。
そんな当たり前のことも分からなくなるくらい、これまで厚遇されてきたのではないか、と私は思ってしまいます。
もちろん住民の方々を悪く言う気はありません。明らかに被害者だからです。
先祖から受け継いできた土地で営んできた観光が、ダムの建設問題で揺れ動き、振り回されて観光どころではなくなり、気がつけば建設省の援助がなければ暮らしさえもおぼつかなくなるところまで追い込まれた結果が、ダム建設中止反対なのです。
逆側から見れば、住民を脅し、賺(すか)し、追い詰めて生活そのものを破壊した後に援助の手を差し伸べ、援助なしでは生きて行けなくしたうえで掌中に抱き込もうとするのが彼らの手です。
悪いのは反対運動でさえ予算獲得の材料にし、住民をもてあそんだ国交省の官僚とかつての長期政権です。
友人に頼まれ軽い気持ちで手伝ってしまいましたが、八ッ場ダムの報道を見るにつけ、複雑な気持ちになります。
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