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http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090928dde012010006000c.html
特集ワイド:’09大政変 宇宙物理学者・池内了さん
<この国はどこへ行こうとしているのか>
◇「環境圧」は改革力
窓の向こうに青々とした山が見えた。神奈川県葉山町。研修施設や大学が集まる湘南国際村に池内了さん(64)が教壇に立つ総合研究大学院大学のキャンパスはある。のどかな風景は、深遠なる宇宙の神秘とは程遠い気すらする。
「宇宙を研究テーマにしたことは、実はあんまり威張れることではないんです」。池内さんは照れ笑いを見せた。「湯川秀樹にあこがれて京大に入って、素粒子物理学に進もうと思っていたんですが、湯川研究室には優秀な学生がたくさん集まる。とてもかなわないと思って、当時はまだあんまり人気がなかった宇宙物理学を選んだんです」
この日、自らを宇宙人と称する鳩山由紀夫首相が誕生した。宇宙物理学者は宇宙人・鳩山政権に何を思うのか。
「自民党政権が代わったということにおいては、期待を持っています。政権も50年以上続けば、にっちもさっちもいかないこともある。過大に期待しているわけではないが、鳩山政権は自民党とは違うスタイルでやろうとしている。変わる可能性が高い。少なくともきっかけにはなる」
控えめに池内さんは期待を口にした。大半の国民も同じ思いなのだろう。毎日新聞が行った全国世論調査では、鳩山内閣の支持率は77%。内閣発足時としては、01年の小泉内閣に次いで高い数字だ。一方で、危うさも感じる。
「民主党に期待しすぎて、すぐに結果が出ないと、何もやってくれない、何も変わらないと、また揺り戻しが起こるかもしれない。僕がもっと心配しているのはファシズム。強権的に、強引にやろうという勢力が出てきたりするのが、一番怖いですね」
長きにわたった自民党政治。善かれあしかれ、築かれたものはある。
「変えようとしても、簡単には変えられないわけです。今、人間が感じる時間はどんどん加速されている。あらゆるものが便利になって、何でも早く結果を得たいという気持ちがどんどん強くなっているんですね。こらえ性がない。世の中には、ゆっくりとしか進まないこともたくさんあるということを忘れてしまっている。それでは政治も経済も何も変わりません」
「人間というのはバカなもので、何か外力が働かないと変わらないんです」
著書「私のエネルギー論」で「“環境圧”が生活スタイルの転換を強いる」と説いた。「地球温暖化による作物の不作や天候異変など、悪化した環境が人間の生活の圧力としてかかってくる。これが環境圧です。我々は産業革命以来ずっと、大量生産・大量消費・大量廃棄というシステムを続けてきた。それはそろそろ限界に達しつつあり、今、環境圧という外力を受けているわけです」
鳩山首相は、20年までに温室効果ガスの削減目標を1990年比25%減とする方針を打ち出し、国連気候変動サミットで「国際公約」として表明した。
「日本の産業構造を変えていくきっかけにするという意味では、重要だと思いますね。問題は、人間が少しずつ変わっていくその速さと、環境圧の大きさのつり合いです。つり合っていないと、悲惨なことになりかねない」
今のまま変わらなければ、人類は滅亡の道をひた歩むのか。ふと恐ろしくなった。
「いや、僕は人類は滅亡しないと思いますよ。しかし、今いる65億人のうちの半分は死ぬかもしれません。生き残るのは、食糧を確保できる金持ちだけということになりかねない。悔しいじゃないですか。金持ちだけが生き残るのは。みんなが同じように生きられる社会じゃないといけない。そのためには、エネルギーをばんばん使ってたくさん物をつくっては捨てる、なんてことはやめるべきです。資源を大事に使い、ほどほどに物をつくって長持ちさせる。そういうふうに人間は変わっていかんといけない」
有言実行。省エネルギー生活を実践しようと10年前、太陽光発電パネルを備えた家を建てた。
「雑誌や新聞などに、ああすべきだこうすべきだと書いている本人が守らないとまずいと。やっぱり圧力からですね。環境圧じゃなくて『観衆圧』かもしれないけど」。そう言って楽しそうに笑った。
「10年もたつと、すっかり節電も身に着いた」と言う。待機電力を減らすために、電化製品はすべて使用後にコンセントを抜く。習慣になるまで1年かかった。1カ月の電力使用量や、日々の発電量も克明にノートに記録した。そのかいあって、2年目から使用量は減り始め、今では以前の3割減を保っている。
「環境にいいことをやるのに、初めから全部やろうと思ったら失敗する。牛乳パックのリサイクルとか、買い物袋の使用とか、今年は『これ』
と一つ決めて実践する。習慣になったら、次のことをやる。積み重ねが大事。今は新聞の折り込み広告で裏が白いものを集めている。生後5カ月の孫が絵を描けるようになったら、お絵かき用の紙にしようと思って」。ふっとおじいちゃんの顔がのぞいた。
国際宇宙ステーションに日本人が滞在し、日本が造ったロケットが物資を運ぶ時代。しかし、池内さんは日本の科学の未来は決して明るくはないという。大学や美術館、博物館は法人化し、独立採算制となった。「役に立つ研究」ばかりが称賛され、「役に立たない研究」は見向きもされなくなってきた。唱え続けている「文化としての科学」の側面が失われつつあることに、危惧(きぐ)を感じている。
「日本という国の科学、科学を通じての技術は衰えていく可能性が高い。でも、僕は一度はその道を経てもいいんじゃないかと思う。それで反省して、出直す必要があるんじゃないか」
決して絶望しているわけではない。むしろ楽観的に構えている。「科学の世界には新しい資源を開発する楽しみがある。鳩山首相の25%削減目標も、新しい技術が伸びるような施策になるなら、いいじゃないですか。国が投資しないと、新しい技術なんて絶対開けない。25%削減は高い壁かもしれない。でもこれができたら5%削減できた、あれができればまた3%削減できるというふうに、積み上げていけば25%もクリアできるかもしれない。3%分、5%分を何で削減するか、そこに新しい知恵が働いていくとおもしろくなっていく。今は転換期。先を見据えて手を打っていけば、正しい世界がつくられていくと思いますよ」
宇宙から見れば、人間の営みなんて本当にちっぽけなものだろう。「そうそう。ちっちゃいし、ほんの瞬間です。でも、その瞬間に大事な命が、生がある。その中で精いっぱい生きればいいんです」
研究室の窓から見える空には夏の名残が漂っていた。この澄んだ青空を未来に残すため、鳩山首相は世界に約束した。拙速でなくていい。確実に成果を出すことが求められている。【小松やしほ】
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■人物略歴
◇いけうち・さとる
1944年兵庫県生まれ。総合研究大学院大学理事・葉山高等研究センター長。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。専門は宇宙物理学。名古屋大、早稲田大教授などを経て現職。「科学の考え方・学び方」で講談社出版文化賞。著書に「私のエネルギー論」「時間とは何か」「ノーベル賞で語る現代物理学」など。
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