二〇〇二年九月十七日の小泉首相(当時)訪朝と小泉・金正日会談で発表された「ピョンヤン」宣言から七年が経過した。しかし「過去の清算」と「拉致問題の解決」を実現する日朝国交正常化交渉は全く進展していないばかりか、今や最悪の状況に入っている。来年の日本による韓国併合百年にあたって、こうした危機的状況を打開する方向を探るために、九月十五日、「ピョンヤン宣言7周年のつどい 過去の清算と拉致問題の解決を考える――日朝国交正常化早期実現を!」集会が、東京の文京区民センターで開催された。主催は「『韓国併合』から100年 真の和解・平和・友好を求める2010年運動」。集会には会場一杯の二百二十人が参加した。 「制裁」ではなく 対話と交渉を 主催者から日韓民衆連帯全国ネット共同代表の渡辺健樹さんが集会の趣旨を提起した後、拉致被害者の蓮池薫さんの兄で、元拉致被害者家族連絡会(家族会)事務局長の蓮池透さんが講演した。蓮池透さんは「マスコミは北朝鮮に対する強硬論以外は報道しない。核・ミサイル・拉致問題に対して語られるのは制裁の強化の一点張りだ。しかし制裁は効果的なのか。制裁によって核がなくなり拉致被害者が帰ってくるというのならば効果的といえようが、全くそうではない。拉致と核とミサイル問題の『包括的解決』という主張は逃げ口上だ。核の問題と拉致の問題はきっちり区別して対処することが必要だ」と切り出した。 「経済制裁は平和的解決と戦争の中間であり、制裁でうまくいかなければ次には戦争しかない。政府のやっている経済制裁は、北朝鮮が憎いという感情に背中を押されて、『救う会』や『家族会』が制裁というからやっているだけだ。そこには一体どういうシナリオで拉致された被害者が帰ってくるか、ということがない。国内的なパフォーマンスだ。制裁とだけ言っていれば楽だが、北朝鮮と交渉しないと事態は進まない」。 「私たちは知恵を絞る必要がある。北朝鮮がなぜ怒っているのか、日本を相手にしないのか、相手の視点をよく研究する必要がある。制裁だけをエスカレートさせて思考停止に陥ってはならず、拉致問題を利用して北朝鮮を打倒、成敗せよというのは間違いだ」。 蓮池透さんは、九・一七の日朝首脳会談で拉致被害者の「五人生存、八人死亡」で決着しようとした日本政府の態度は被害者の人権を蚊帳の外に置いたものであった、と批判した。その後も日本政府は北朝鮮政府との約束をつごう四回も破り、北朝鮮側の不信を決定的に生み出してしまった。今そのこの壊れた関係をどう修復するかが日本政府のやるべきことだと蓮池さんは主張する。 「帰ってきた五人は、つねに北朝鮮に残された被害者のことを考えている。政府は拉致問題の進展・解決とは何かを示す必要がある。ピョンヤン宣言で確認した『過去の清算』とは何かをはっきりさせ、ただちにそれを実行すべきだ。鳩山政権は大きく方針転換すべきだ。核と拉致は別の話であり、拉致は日朝間の問題だ。自国民の生命・財産を守るのが国家の任務ではないか。必要なのは制裁ではなく対話と交渉であり、交渉なくして和解はない。そして対話のためには過去の問題の速やかな処理が必要だ」。 蓮池さんはこのように訴えた。 「和解」はいかに して可能となるか 「ノレの会」の合唱の後、VAWW│NETジャパン共同代表の西野瑠美子さんが講演した。 西野さんは「和解」という言葉への違和感を表明した。「被害者を置き去りにした『和解』はありえない。過去の清算という時、加害責任を飛び越えたところで真の『和解』はない。一九九四年以後、南アのマンデラ政権の下で設置された『真実和解委員会』は、すべての人種が共存する社会のために人権侵害の真相を解明し、何が過ちだったかを明らかにし、加害者を特定した。それが復讐になってしまうのではないかという危惧もあった。しかし全人種共存のための和解をめざして加害者が真実を告白することで免責するという措置をとった」。 「河野談話は歴代政府も踏襲しているが、実質はないがしろにされている。二〇〇七年に米下院で軍隊慰安婦への謝罪を日本政府に求める決議が行われたが、日本政府はこの決議を阻止するためにロビー活動を米国の企業に委託し、『日本は何回も謝罪した。決議は不利益をもたらす』と議員工作を行った。それが日本政府の信頼を失墜させたことを北朝鮮も見抜いている」。 「外相となる民主党の岡田克也氏は、核問題と拉致問題の解決なくして国交正常化はないとして制裁論に固執している」と批判した西野さんは、鳩山政権の政策転換を促した。 集会は、新しい反安保行動をつくる実行委員会、許すな!憲法改悪・市民連絡会、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック、「韓国併合」100年市民ネット、在日韓国民主統一連合からのアピールを受けた後、「鳩山新連立政権に対朝鮮政策の転換を求めます」とする集会アピールを採択した。 なお蓮池さんの主張については蓮池透『拉致 左右の垣根を超えた闘いへ』(かもがわ出版 1000円+税)、ならびに蓮池透/太田昌国『「拉致」対論』(太田出版 1600円+税)をぜひ読んでください。 (K)
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