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2009.9.17
第71回定例記者レク概要
名城大学コンプライアンス研究センター 郷原信郎
昨日、鳩山新政権が発足したということで、今日はそのことに関連してお話したいと思います。
まず今回の新政権の閣僚人事についてですが、私は政治分野の専門ではないし今回の閣僚人事全体につきコメントできる立場ではないのですが、私がかねてからお付き合いをして、いろいろ政策面でのアドバイスをしてきた民主党の議員の方々が何人か新閣僚に入っています。そういう意味で、私が知る範囲で言えば、民主党の掲げる「官僚依存からの脱却」という新政権の目的、目標を実現する上で期待できるメンバーではないかと思っています。
行政刷新会議の担当大臣の仙谷氏とは公共調達に関連する問題や消費者政策の問題等について意見交換し、私なりにアドバイスしてきました。初閣議後の会見での仙谷氏の発言の中でも、「カビ型違法行為」ということに関して私の名前を出されていましたが、今後も、ご要請があれば出来るだけ協力していきたいと思っています。
原口総務大臣とも古くからのお付き合いでしていろいろな問題について私なりにアドバイスしてきました。国会の質問でも私のコンプライアンス論を紹介されたりしたこともありました。とりわけ、衆議院の総務委員会の関係で、放送法に関する問題、メディアに関する制度の問題などについては、いろいろ議論してきましたし、放送法改正の審議でも参考人に呼んで頂いたこともありました。放送メディアの問題については、私が追及してきたTBS朝ズバの問題など、多くの問題がありますので、是非、改革にしっかり取り組んでもらいたいと思っています。
私が、何と言っても一番注目していたのは 法務大臣人事です。千葉景子参議院議員が新法務大臣に就任したということですが。私としては率直に言うと、中立的な立場の民間人というのが、鳩山献金問題の捜査、小沢氏秘書問題の公判など民主党政権と検察との間にいろいろ火種が残っているだけに、一番望ましいと思っていました。民主党が政権政党という立場になった以上、検察庁法14条但し書きによって、指揮権を行使しうる立場にあって検察の捜査・処分に重大な影響力を及ぼし得る立場にある法務大臣の人事については格別の配慮が必要だろうと思います。
9月8日の日経ネットプラスというサイトのコラムにも書きましたが、民主党が政権を目指す立場にあった野党の時代に、党首の政治資金問題が検察の捜査の対象とされ大きな影響を受けたということについての民主党の立場と、政権を獲得した後とはまったく違う問題です。それだけに、今回の法務大臣人事は微妙な問題では、できるだけ、外形的にも捜査や公判に影響を生じないような人事が望ましいというのが私の率直な意見でした。
そういう意味では中立的な第三者、民間人ではなかったんですが、この千葉景子氏を法務大臣にしたというのは ある意味では民主党議員の中では一番無色で、意図や目的みたいなものが感じられない人事ということで、比較的穏当な人事ではないかと思います。というのは、千葉景子氏は、参議院の法務委員会の委員でもあり、法務部門の議員として長く活動してこられた方で、ネキスト法務大臣にもなっておられたきたわけで、こういう立場の議員が法務大臣になるのはある意味では自然ではないかと思います。具体的な事件やその当事者を意識して、その人に近い立場の議員を法務大臣にすれば、影響力を及ぼそうという意図が窺われるということで、それ自体が法務・検察当局に影響があるということになりますが、民主党議員の中ではそういう人事色彩が一番薄い。そういう立場の議員といえるんではないかと思います。私は、この日経ネットプラスのなかでも書いてるように、民主党は政権をとった後には、人事面でも格別な配慮が必要だと思いますが、それなりの配慮は行われてきたのかな、という感じで受け取ったということです。
そこで次の問題ですが、初閣議後の会見で千葉法務大臣が指揮権に関して発言をした、私もテレビで見てました。ここで民主党が設置した政治資金問題第三者委員会の報告書で、法務大臣の指揮権につき言及していることとの関連で、記者の方から質問が出てきた際、法務大臣としてこの問題にどう対応するかと聞かれて、千葉法務大臣は「検察も行政の1つ。指揮権発動は恣意性を排除し、国民の視点で検察の暴走をチェックする」というような発言をされました。この発言自体は法務大臣の法律上の権限について、第三者委員会の報告書でも書いていること、当たり前のことをいっているだけですし、特に誤っているわけではありませんただ、さきほどから言っているように、民主党の党幹部に関連する刑事事件の捜査あるいは公判、これが現実に問題となっている時期に、政権を獲得した民主党に属する法務大臣が、この問題につき発言する際には、私は格別の配慮、慎重さが必要だと思います。そういう意味で、初閣議後会見は時間が無かったというのもあるし、全て意図が言い尽くされたかはわかりませんが、もう少し慎重な表現が必要だった、誤解を招かないようにしなければならないと思います。
6月に書いた日経ビジネスオンラインの「法務大臣の指揮権を巡る思考停止からの脱却を」の中でも、政治資金問題第三者委員会の報告書の中で指揮権問題に言及した意図について説明しています。昨日の千葉法務大臣への記者からの質問の際のこの指揮権問題への言及というのは、お配りしてる報告書の19ページの真ん中へんにあるんですけども 「法務行政のトップに立つ法務大臣は、高度の政治的配慮から指揮権を発動し、検事総長を通じて個別案件における検察官の権限行使を差し止め、あえて国民の判断に委ねるという選択肢もありえたと考えられる」と書いてるところをさしてると思うんですが、注意すべきは、これは、私が今までも散々述べてきたように、幾つかの前提のもとでこういう政治的配慮に基づく指揮権発動もありえたということです。
1つの前提は、この事件は野党の党首に関する政治資金関連問題だった、そして指揮権を行使するとすれば、与党側の法務大臣がそれを判断すべき立場にあったということです。
ですから、法務大臣の側に政治的に有利な方向での指揮権発動ではないということが第1の前提です。そしてもう1つは、報告書第一章でも詳細にのべているように、この西松建設事件、そして小沢秘書の政治資金の問題についての検察の捜査については重大な問題があったということです。違反事実がそもそも成立するか否かにも問題があり、重大性、悪質性については非常に大きな問題があった、そういう事件であるからこそ、それが、国民が政権選択をすることになると思われるこの、重要な選挙を控えた時期に、そういう捜査が行われるということに関して、与党側の法務大臣が敢えて指揮権を発動するということも、選択肢としてありえたんじゃないかということを言ってるわけです。事件の中身の問題、そして与党側の法務大臣が野党側の事件についての指揮権発動を考える余地があったのではないか、そういう意味でいっているんです。
その意味でいうと、この第三者委員会報告書で述べている「政治的配慮に基づく指揮権発動」は、今回民主党が政権をとった後に法務大臣が指揮権問題につきどう対応するかということにはトレートには適用できない、前提条件が違います。
法務大臣の発言として「検察の暴走のチェック」ということに言及する場合には、慎重な配慮が必要だと思いますし、少なくとも「基本的には検察の権限行使が適正に行われることに期待する」という原則論を述べた上で、「検察が恣意的、政治的意図でその権限を濫用しているというような例外的な場合には、国民の意思に基づいて法務大臣の職務を行う者として、指揮権という与えられた権限を行使すべき場合があることも否定できない」というような表現にしてもらいたかったところです。
また、一部の新聞によると、千葉法務大臣が、その後の会見で、西松建設事件での検察の捜査が「検察の暴走」に当たるかどうかを質問されて、「当たらない」と答えたということですが、そのような発言をされたとすれば適切ではないと思います。既に法務大臣の立場にあるわけですから、「公判係属中の具体的事件についての発言は差し控えるべきです。どのような場合が「検察の暴走」に当たるのか、それをどう適切に判断するのか、大変難しい問題なので、今後、その判断の枠組みの整備のために努力していきたい、というようなことを、第三者委員会報告書の記述を踏まえて述べてほしかったところです。
鳩山献金問題については、事件の評価は別として、少なくともこれまでの報道によるところ、そして鳩山総理自身も収支報告書に問題はあったこと、収支報告の虚偽性につき結果的には問題があったことを認めているわけで、そういうような問題で今後の捜査が予想されるわけですから、法務大臣が指揮権については出来る限り慎重な発言や態度で臨むべきだと思います。
もちろん法務大臣の指揮権というのは、検察の権限行使に対する民主的コントロールとして唯一の手段であって、それは報告書でも書かれていることです。この権限が、検察の捜査が明らかに不当であって、何らかの政治的な意図によって行われようとすることが本当にあったとしたら、そういう場面で指揮権が使われる、行使される可能性はありうると
思います。しかし、千葉法務大臣の発言の中でも国民の視点で検察の暴走をチェックするといわれていますが、この国民の視点というのはどういうことなのか、どのように反映させるのか、そして検察の暴走か否かはどう判断するのかという点が問題になります。ところが少なくとも、現段階では、そういったことについての判断を行うのは法務大臣個人ということになるわけです。少なくとも現段階では、そういう政治家の判断を、サポートできるシステムはできていないのです。
第三者委員会の報告書の中でも、「本当の意味で法務省と検察庁とが独立した官庁なのであれば、このような観点でなされる指揮権発動を法務省が組織的に支えることは可能なはずだ」と述べています。要するに、法務大臣個人の判断で、検察の暴走なのか、捜査が適切かどうかといったことを判断するのは、容易ではないのです。もし検察と独立したかたちで、法務省の組織が法務大臣の判断をバックアップできるのならそれはそれで1つのシステムですし法務大臣個人が何らかの形で適切な判断をなしうるようなサポート体制、システムができていれば別ですが、それができていないと、とりわけ政治的に、与党側に有利に働くような指揮権行使を正当化するというのはむずかしいんじゃないかと思います。そういう意味では、今先ず必要なのは、指揮権発動に関して、これを行使する可能性はあるかないかとか、検察の暴走チェックへの可能性につき言及することではなく、むしろそういう権限行使の適正にするためのシステムの整備に取り組むことなのではないかと思います。
法務大臣の指揮権は検察の正義を、不当に政治的な圧力で侵害するものだから、行使されてはならない、ということで封印するというのは間違いです。やはり法律上は権限として認められている検察の権限行使に対する唯一の民主的コントロールのための手段です。それをどうやって適正適切にシステム化していくかということに関して、法務省、検察の方でも、この機会に、民主党への政権交代を機会に、制度の整備を自主的に行っていく、そういう努力が必要ではないかと思います。
初閣議後の記者会見で法務大臣が指揮権について発言するということは今まで余りなかったんじゃないかと思います。今回こういう質問が初閣議後の会見でおこなわれたのは、捜査公判の対象となる具体的な事件があるからですが、私が懸念するのは、法務大臣がそういう場で踏み込んだ発言をしたことが、検察側の反発を招いて、検察の側で、政治的な力に検察の捜査権限で対抗していこうとして政治的な力と検察の正義とが対立対決するような構図となることです。そういう事態になることは今の日本の国、社会のもとでは非常に不幸なことだと、日経ネットプラスのコラムでも書いています。そういったことにならないように、法務大臣には慎重な姿勢、発言が求められますし、検察の方でもこの千葉法務大臣の発言について冷静に受け止める必要があると思います。
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