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郵政公社「資産売却」の闇 民営化ビジネスの虚実(佐々木 実)
http://www.asyura2.com/09/senkyo71/msg/580.html
投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 9 月 19 日 21:42:27: mY9T/8MdR98ug
 

http://www.iwanami.co.jp/sekai/2009/10/directory.html

佐々木 実
ささき・みのる 一九六六年生まれ。ジャーナリスト。日本経済新聞社を経てフリー。


 民主党の城島光力氏に話を問いたのは総選挙の準備に忙しい七月のことだった。「いま思い出しても腹が立ってきますよ」落選中の身の城島氏はそう言うと、六年前の出来事を昨日のことのように話しはじめた。
 きっかけは○三年五月の衆議院厚生労働委員会での質疑だった。民主党の「次の内閣・雇用担当大臣」でもあった城島氏は労働分野の規制緩和に強い懸念をもっていた。
 「派遣期間を一年から三年に延長し解雇もしやすくする法案でした。オリックスの宮内義彦さんが議長の総合規制改革会議から出てきた流れだ。それでこの会議のメンバーについて調べてみようと思ったわけです」

「最高権力者」

 調べてみると、人材派遣に関わる経営者が委員のなかに二人いることに気づいた。ザ・アール社長の奥谷禮子氏とリクルート社長の河野栄子氏。ザ・アールのウェブサイトをみてみると、第二位株主がオリックスで、主要取引先はリクルートと記されていた。総合規制改革会議は首相の諮問機関。小泉総理が提言を尊重するので政策への影響力は大きい。ビジネスでつながりをもつ三人がそろって委員というのは問題ではないか。城島氏は厚生労働大臣に質した。
 城島氏は国会の外でおもわぬ反撃に遭う。奥谷氏自らが議員会館の部屋を訪ね、激しく抗議してきた。抗議は執拗で、面談のあとも、衆議院厚生労働委員長あてに内容証明郵便を送付し、「不適切な部分を速記録から削除」すること、城島議員を「悪質な場合は処分」することを求めてきた。
 だがこれで終わりではなかった。追い討ちをかけるように、総合規制改革会議議長の宮内氏も抗議文を送りつけてきた。「貴職の見解を問いたい」「総合規制改革会議に対しての大変な侮辱である」「到底承服できるものではない」……まるで目下の者を叱責しているかのような文章だった。
 憲法第五一条は国会議員に国会での発言の責任を問われないという免責特権を与えている。抗議を逆手にとって問題にしようと城島氏が考えていた矢先、自民党ののちに大臣にもなる有力議員が声をひそめるように忠告してきた。
 「城島さん、あなたのいうことはそのとおりだよ。でもね、宮内義彦はいま日本の最高権力者だ。戦ってもいいことはなにもない」

郵政民営化ビジネス

 「政官業の癒着よりひどいじゃないかと指摘して、ぼくは宮内さんや奥谷さんの猛烈な怒りを買った。ずばり本質をつかれたから彼らはあんなに激しく怒ったんだと思いますよ」
 過剰反応の背後に利権の存在があるのではないか。城島氏は郵政民営化の利権について調べる決意を固めていたが、頓挫した。○五年九月の「郵政選挙」で落選してしまったからだ。
 奥谷氏はいま日本郵政株式会社の社外取締役に就任している。郵政審議会委員を務めるなど郵政事業とは縁が深いが、奥谷氏が経営する人材派遣会社ザ・アールが日本郵政公社からマナー研修など総額七億円近い仕事を受注していたことが明らかになっている。オリックス不動産が「かんぽの宿一括譲渡」を落札したことに端を発したかんぽの宿騒動で、宮内氏が渦中の人になったことは記憶に新しいところだ。郵政事業にからんで両氏が仲良く登場してきたのは偶然だろうか。
 かんぽの宿一括売却はまさに郵政資産の民間市場への放出だが、郵政資産の売却には前史がある。日本郵政公社(郵政公社)時代の不動産の大量売却だ。
 郵政公社は二〇〇三年四月に発足した。政府が全額出資する国営企業で、郵政事業庁から郵便、郵便貯金、簡易保険を引き継いだものの、四年前の「郵政選挙」で小泉政権が大勝したことで短命に終わる。郵政事業は株式会社にゆだねられることになったからだ。
 日本郵政株式会社にとって替わられる形で郵政公社は○七年九月に解散した。活動期問はわずか四年半だったが、この問、保有する不動産を大量に売りさばいていた。売却した不動産は優に六〇〇件を超える。北は北海道から南は沖縄まで、土地や建物を短期問に大量に売れたのは、「バルクセール」という売却手法に依るところが大きい。たくさんの不動産をひとまとめにして売る方法だ。
 もともと不良資産を大量に抱えた銀行が不良資産の処理を迅速に進めるために用いた方法で、買い手のつきにくい不良物件と資産価値の高い物件を抱き合わせて売りに出す。アメリカでも日本でも、不良債権問題が深刻化した時期、不良資産を金融機関から早く切り離すための資産流動化策が打ち出され、バルクセールなどの取引がしやすくなるよう制度的な環境が整えられた。
 もっとも、郵政公社がバルクセールで売却した不動産は全国各地の社宅や郵便局舎建て替え用地などで、東京や大阪あるいは地方都市の一等地もたくさん含まれる。不良資裡の処分と同じ方法を逃んだのはなぜか、じつはその経緯はいまひとつはっきりしない。
 二〇〇四年一〇月、郵政公社は唐突に「不動産売却促進委員会」なるものをたち上げている。郵政公社の高橋俊裕福総裁が委員長、執行役貝七人が委員という構成だ。初会合の議事録には、委員の奇妙な発言が記されている。
 「この委員会で何を決めるのか。バルク売却することを決定するのか。なぜバルク売却するのか」
 こうした発言が出たのは、初会合でいきなり「バルクセールの必要性」を説く資料が委員に配られたからだ。資料を作成した事務局は不動産売却を批当する施設部門。「売れ残しをなくすために行う。資料の売れ筋欄にあるようになかなか売れない物件もある。これを売れやすい物件と併せて売却する予定」と説明。しかし別の委員だちからも、「情報公開はどうするのか」「売却物件の全体額はいくらか。データとしてないのか」などの声が相次いでいる。ちなみに高橘委員長は出張で欠席している。

リクルートコスモスが三回落札

 結局、郵政公社は大型バルクセールを三回実施する。ひとまとめで売りに出した不動産は○五年三月が六〇件、○六年三月が一八六件、そして◯七年三月に一七八件。合計四二四件で売却総額は五〇〇億円近くにのぼる。驚くことに、すべて同じ企業グループが落札している。リクルートコスモス(現在「コスモス・イニシア」)を代表とするグループだ。
 郵政公社から一括購入した不動産は落札した企業グループ内で分配される。どの企業に何件渡ったかを調べると、リクルートコスモスは大きな不動産を収得してはいるものの物件数は少ない。残る多数をほかのメンバーが購人しているわけだが、転売しているケースがほとんどで、二回三回と転売が繰り返されている例も珍しくない。
 不動産の流れを追いかけると、奇妙な事実が顔をのぞかせる。郵政公礼から物件を購入したメンバー企業が購入直後に会社ごとファンドに買収されていたり、転売リレーに登場する実態のわからない会社を追跡すると有名企業が後ろに控えていたり、複雑怪奇な取引関係は民営化ビジネスの虚実を物語る。○五年三月の初めてのバルクセールからみていくことにしよう。
 入札にはリクルートコスモス、ゴールドクレスト、長谷工コーポレーションをそれぞれ代表とする三つの企業グループが参加した。売却される不動産は六〇件。リクルートコスモス・グループが一六二億円で落札した。メンバー企業と購入件数は次のとおり。
 株式会社リクルートコスモス(一件)
 株式会社リーテック(五件)
 株式会社穴吹工務店(一件)
 株式会社穴吹不動産センター(五件)
 有限会社CAM5(リクルートコスモス
          との共同購入)(二件)
 有限会社CAM6(四六件)
 グループ代表のリクルートコスモスは当時リクルートグループに屈する不動産会社。じつはこのバルクセール直後にリクルートグループから独立するのだが、詳しくはあとで述べる。リーテックはリクルートコスモス出身の社長が二〇〇〇年に設立した会社。穴吹工務店は香川県高松市が本拠で、全国でマンションの建設・販売や不動産売買などをしている。穴吹不動産センターはグループ会社だ。
 残る二つの有限会社、CAM5とCAM6はリクルートコスモスが出資した特別目的会社(SPC、特定の不動産取引のために設立された会社)。
 リクルートコスモスは大型物件を獲得してはいるものの、購人物件数は少ない。物件数でいえば、主役は全体の七七%にあたる四六件を単独で手に入れたCAM6だ。
 CAM6について、リクルートコスモスは「弊社が設立したSPCに相違ない」という関係証明書を郵政公社に提出している。ところが郵政公社から不動産を購入した直後に、ケネディクスという企業に出資持分の五〇%を取得されている。ケネディクスの関連会社になったわけだが、まもなくケネディクスはCAM6を「スティルウォーター・インベストメント」と改称し、郵政不動産を次々と転売していく。
 ケネディクスは米国の大手不動産会社ケネディ・ウィルソン・インクの日本の拠点として九五年に設立された。不動産や不良債権への投資を行っている。
 CAM6はバルクセール前に設立されたが、設立時から取締役(代表者)はケネディクスの中堅幹部社員で、郵政公社のバルクセールにケネディクスが投資することはあらかじめ決まっていたとみていい。
 CAM6の取締役にはあとから米国穀物メジャー・力−ギルの関係者も就任しているので、カーギル側からも出資を受けている可能性がある。

資金源はオリックス

 CAM6が購入した不動産を調べてみて、意外なことがわかった。購入した不動産四六件のうち二二件がオリックスの担保に入っていたのである。
 福岡香椎用地(郵政公社の評価額約二七億円)、神奈川県葉山用地(同約一八億円)、北海道函館用地(同約九億円)はいずれも極度額二八億八〇〇〇万円の根抵当権を売買日に仮登記。小さな物件はまとめて共同担保にしている。
 CAM6が郵政公社の不動産を大量に買い付けることができたのは、オリックスが資金を提供していたからだった。
 落札した企業グループにオリックスは入っていないけれども、全体のスキームのなかにあらかじめ参加していたとみなしていいだろう。表には顔を見せない資金提供者だ。いずれにしても、かんぽの宿問題の四年も前から、オリックスは郵政資産ビジネスと関わりをもっていたことになる。
 リクルートコスモスは郵政公社の初めてのバルクセールを落札した二ヵ月後、リクルートグループからの独立を発表する。ユニゾン・キャピタルが運営する三つのファンドが九〇億円を出資、ユニゾンはリクルートコスモスの六〇%強の株を保有して筆頭株主になり、経営権を掌握する。
 ユニゾン・キャピタルの創業者で代表の江原仲好氏はゴールドマン・サックスで活躍した経歴をもち、同社勤務峙代に日本人として初めてパートナーに選ばれている。
 ところで、オリックスがリクルートコスモスと資本関係をもつのもリクルートグループから独立したときからで、優先株を引き受けて二〇億円を出資している。
 ユニゾン・キャピタルのほうとも接点がある。ちょうどリクルートコスモスの経営権を握るころ、ユニゾン・キャピタルは経営への助言機関「エグゼクティブ・カウンシル」を社内に設け、メンバーのひとりとして宮内義彦氏を迎え入れた。
 リクルートコスモスはリクルートグループから独立したあとも、郵政公社のバルクセールを立て続けに落札していく。
 参議院で郵政関連法案が否決された後、「郵政民営化の是非を問う」と訴える小泉総理が衆議院を解散、○五年九月の総選挙で大勝した。郵政関連法案の作成を一手に取り仕切った竹中平蔵郵政民営化担当大臣は総務大臣を兼任することになり、郵政公社を所管する総務省に乗り込む。大臣は郵政公社の資産売却に関する権限も持っていて、二億円以上の資産を売却する場合、郵政公社は総務大臣の認可を受けなければならない。
 完璧な郵政民営化体制が敷かれるなかで実施された○六年三月の郵政公社のバルクセールは、最大規模のものとなった。一括売却された不動産は一回目の三倍を上回る一八六件。当時郵政公社で資産売却を担当していた関係者は、売却リストにたくさんの社宅が入っているのを発見して驚いたという。
 「どうしてこんなに社宅を売るのかと同僚に聞いたら、社宅売却計画があるとかで、その初年度なんだといってました。いつそんな計画ができたのかはわかりません」
 郵政公社の当時の内部資料を見ると、二回目のバルクセールの核となる目玉物件が記されている。たとえば東京では「国分寺泉町社宅用地」「旧赤坂一号社宅」「旧中目黒三丁目社宅」などが挙げられているが、いずれも地価がきわめて高い。入札前から問い合わせが殺到したといい、実際、入札には一一社が参加した。住友不動産、野村不動産、丸紅などのほか、オリックス・リアルエステート(現オリックス不動産)なども参加している。結果は、リクルートコスモスのグループが再び落札。落札額は二一二億円だった。
 株式会社リクルートコスモス(三件)
 有限会社CAM7(一三七件)
 株式会社穴吹工務店(一件)
 株式会社穴吹不動産センター(七件)
 有限会社G7−1二〇件)
 有限会社G7− 2(リクルートコスモス
          と共同膨人)(二八件)

郵政資産転がし

 CAM7はリクルートコスモスが出資するSPC、G7−1とG7−2は一回目のメンバーだったリーテックが出資するSPC。全体を見渡してみると、CAM7が大量購入していることがわかる。ところがCAM7はこの後、会社ごと買収される。リサ・パートナーズという投資ファンドが全出資持分を買い取り、会社を丸ごと買い取ることで一三七件の不動産を手に入れた。
 そして、リサ・パートナーズは一三七件のうち一件だけを個人に売却したあと、一三六件を別の会社に一括売却している。購入してからわずか三ヵ月のちに再びバルクセールで転売しているわけだ。
 リサ・パートナーズが一括売却した先は有限会社ティー・ジー・ファンド。聞きなれない名前の会社だが、有限会社ティー・ジー・ファンドはさらに法人や個人に転売し、ほぼ全物件を売り抜けている。まるで「郵政資産転がし」といってもいいような見事な転売リレーが成立している。
 リサ・パートナーズは旧日本長期信用銀行出身の井無田敦氏が九八年に設立した投資ファンドで、取引直前の○五年一二月に東証一部に上場している。○六年一二月期の中間決算書をみると、不動産の主要販売先として有限会社ティー・ジー・ファンドが特記されていて、販売額は一三億七八〇〇万円とある。

謎の有限会社

 リサ・パートナーズは、CAM7を会社ごと買収し、手に入れた郵政物件一三六件を有限会社ティー・ジー・ファンドに一三億七八〇〇万円で転売した。この売却額は、郵政公社の評価額を基準にすれば、破格の安さだ。
 郵政公社の評価では一三六件の合計は約二三億円。有限会社ティー・ジー・ファンドは四割引きで購人した計算になる。転売でかなり儲けたのだろうか。そもそもこの有限会社は何者なのか。連絡をとろうにも、会社のウェブサイトもなくNTTの電話帳にも記載はない。

ゴールドマン・サックスのファンド

 そこで、同社から不動産を購人した人をあたってたずねてみることにした。東海地方の郵便局用地を買った個人宅に電話をすると。
 「じつは、こんな田舎の不動産を東京の名前を聞いたこともない会社が本当に所有しているのか不安になりましてね。うちの主人が束京に出張したおり会社をこっそり見にいったんです。きちんと表札が掲げてあったのでうその話ではないんだなと」
 東北地方の不動産会社の担当者は、「値段は妥当だけど、郵政公社が売った土地の転売ですよね。会社が匿名を希望しているみたいなへんな名前だし、なにか事情があるのかなとは思いました」
 話を聞いてみてわかったのは、東急リバブルが仲介したケースが多いこと、不動産を買った当人も売り主ティー・ジー・ファンドについての情報はほとんどもちあわせていないということ。あらためてティー・ジー・ファンドの代表者を調べた結果、ゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパンの社員であることがわかった。
 有限会社ティー・ジー・ファンドは米国の大手投資銀行ゴールドマン・サックスの会社だった。正確にいえば、投資のための資金はゴールドマン・サックス・グループの不動産投資ファンド「ホワイトホール」から出ている。有限会社ティー・ジー・ファンドは不動産投資する際の受け皿にすぎないので、資本金三〇〇万円で専属の社員はいない。
 なぜゴールドマン・サックスが郵政資産の転売リレーなどに参加したのだろう。問い合わせてみたが、個別取引については答えられないとのこと。事情に詳しい金融関係者は郵政資産の転売では大きな利益はあげていないともいうが、正確なところはわからない。
 よくわからないのはリサ・パートナーズ経由で購入していることだ。ファンド関係者に意見を求めると。
 「ゴールドマン・サックスは何か事情があって表に名前を出したくなかったんでしょうね。リサはゴールドマンへの転売を前提に買っているはず。この世界はみんなお友達みたいなもので、貸し借りはありますから」
 ティー・ジー・ファンドから不動産を買った人で売買時に「ゴールドマン・サックス」の名前を耳にした人はいない。ライブドア事件の余波でファンドや外資への風あたりが強かったからだろうか。それにしても、不動産を売る相手にさえ正体を明かさないのだから不思議としかいいようがない。
 オリックスについてもふれておかなければならない。不動産の分配状況をみると、G7−1とG7−2が目玉物件を多数手に入れていることが目を引く。郵政公社は内部資料でバルクセールの核となる優良物件一四件を特記しているが、そのうちG7−1が四件、G7−2が六件を購入している。リーテックの子会社二社が一四件の優良物件のうち一〇件までを押さえ気いるわけだ。 不動産登記を調べてみると、ここでもオリックスが顔を出す。じつは、G7−1とG7−2は郵政公社から不動産を購入してからおよそ半年後の一〇月一日、リーテックに吸収合併されている。
 オリックスは合併直前に、G7−1が郵政公社から買い入れた優良不動産を担保にして、リーテックに融資している。オリックスが共同担保の形で担保にとったのは「旧赤坂一号社宅」「旧中目黒三丁目社宅」「旧沼部三号社宅」など。優良物件リストの不動産ばかりだ。
 リーテックに吸収される前、G7−1の保有物件には三井住友銀行や東京スター銀行が担保権を設定していた。融資を肩代わりする形でオリックスが入ってきて、優良物件を担保にとっている。

赤坂六丁目プロジェクト

 オリックスとリーテックはこのあと関係を深めていく。オリックスが資金を提供しリーテックが土地を購入するという共同作業で進めたのが赤坂六丁目のプロジェクトだ。郵政公社から手に入れた旧赤坂一号社宅周辺の土地買い集めに動いたのである。
 旧赤坂一号社宅は日本銀行氷川寮に隣接する都心の一等地。「(オリックスはリーテックに)赤坂だけで五〇億円以上出してくれている」(リーテック)というから、相当力を入れたプロジェクトだったのだろう。
 ○七年九月に企業が所有する三七六uの土地、○八年三月には独立行政法人水資源機構が所有していた二四五uの土地といった具合に、リーテックはオリックスから資金提供を受けながら次々と近隣の土地を買い進めた。
 リーテックによると、赤坂六丁目のこれらの土地は不動産市況が冷え込む前は一〇〇億円以上の鑑定評価が出ていたという。旧赤坂一号社宅の郵政公社の評価額は五億円あまりだから二〇倍以上の金額だ。
 現場を訪れてみると、リーテックとオリックスが組んで進めてきたプロジェクトがどこの土地かはすぐにわかった。郵政公社が売った旧赤坂一号社宅はすでに建物はなく原っぱのような空き地。水資源機構からリーテックが購入した土地には寮のような建物は建っているが、人の出入りはない。
 旧赤坂一号社宅前で近所の住人に聞いてみると、
 「リクルートが買ったんですよ」
 リクルートコスモスと思い違いしているようだが、リーテックとオリックスについてはまったく知らないようで名前を聞いてもきょとんとしていた。

民営化ビジネスの虚実

 関係図(五二ページ)を見ながらあらためて考えてみると、影の部分、ゴールドマンーサックスやリサ・パートナーズやオリックスが取引している領域はまるで見えない領域ででもあるかのようだ。
 ティー・ジー・ファンドから不動産を買った人はゴールドマン・サックスが見えていないし、赤坂六丁目プロジェクトの隣に住む人はオリックスもリーテックも知らない。
 郵政公社が一八六件の不動産を引き渡し、六社グループが二一二億円を支払う。二本の矢印であらわされた動きだけを「官から民へ」と捉えると、全体像は見えない。ビジネスの領域は影の部分まで広がっているからである。
 「郵政利権」が醸成されるのなら、不可視の領域にこそ目をこらさなければならない。

高橋副総裁の懸念

 じつをいうと、二回目のバルクセールが終わった直後に、郵政公社幹部が懸念の声をもらしている。三月二〇日に開かれた「不動産処分検討委員会」の席上だ。委員長を務める郵政公社の高橋福総裁は。
 「昨年のバルクでは、リクルートは転売して相当儲けたと闘いている。クルーピンクの方法やもっと高く売れる方法を考える必要がある」
 と発言している。「昨年のバルク」とは一回目、「リクルート」はリクルートコスモスのグループのことだ。どのような意図で発言をしたのか、高橘氏に直接たずねてみると。
 「郵政公社の内部では『バルクセールはうまくいった』という話になっていたんですよ。しかし外部の不動産関係者に聞いてみたところ、彼ら(落札企業グループ)は損なんかしてませんよ、といわれた。『高く売った』といっているけど本当なのか、もっとやり方を考える必要があるんじゃないかということでああいう発言をしたわけです」
 外部の不動産関係者が「転売で儲けている」ことを知っていたのだから、業界の一部で噂になっていたのかもしれない。
 不思議なことに、高橋副総裁がかなり踏み込んで疑問を呈したのにもかかわらず、特段の改善策も講じられないまま三回目のバルクセールが実施され、やはりコスモスイニシア(旧リクルートコスモス)のグループが落札している。売却された不動産は一七八件、売却額は一一五億円だった。
 ◯七年二月のバルクセールに関わった関係者が解説した。
 「バルクセールが成立するのかどうか心配でした。優良物件が少なかったし、不動産業界も二回目のときのようなイケイケドンドンの雰囲気はまったくなかった。どこのマンションに売れ残りがでたとかいう話が聞こえてきたりして」
 小泉政権を引き継いだばかりの安倍政権下で三回目のバルクセールは実施されたが、投資ファンドの影は消えた。一方で、三度も連続して同一企業グループが落札した気のゆるみからなのか、おかしなことが頻出している。
 たとえば、入札に参加した企業の顔ぶれ。コスモスイニシア(旧リクルートコスモス)グループと、有限会社駿河ホールディングスと合同会社CKRF4の二社グループの二グループのみの入札だったが、CKRF4の代表は一回目でリクルートコスモスのグループに入っていたCAM6の代表と同じ人物。前にも述べたようにケネディクスの社員だ。駿河ホールディングスの代表にいたっては、読売新聞の収材に「名義貸しだけなので、入札についてはわからない」と、名前を貸しただけであることを認める発言をしている。
 おかしなことはほかにもある。バルクセールの仲介をしていた中央三井信託銀行は入札前に、落札企業が転売する相手先を探して購入希望価格まで聞きだしていた。
 鳥取県の岩井簡易保険保養センターについて、東京都内のある不動産業者は中央三井信託銀行の担当者から「いくらか」と聞かれ、「三〇〇〇万円」と答えた。買い付け証明まで提出したが、入札前に再び「六〇〇〇万円にならないか」と打診された。のちに、リーテックの子会社の有限会社レッドスロープがたったの一万円で郵政公社から購入し、地元の福祉施設に六〇〇〇万円で転売していたことを知ったという。

ファンドの時代の終焉

 オリックスとリーテックが二人三脚で進めた赤坂六丁目プロジェクトの後日談になる。もともと郵政資産「旧赤坂一号社宅」をリーテック子会礼のG7−1が手に入れたところからスタートした郵政ビジネス。オリックスから軍資金を得てリーテックが周辺地を買い進めたことはすでにのべた。
 土地の所有権はリーテックにあるのだが、登記を確認すると、すべての不動産にオリックスが「代物弁済予約」を○八年九月末に設定している。リーマン・ブラザーズが破綻した直後だ。
 カネが返せなくなれば土地はもらうというわけだが、リーマン・ショックを境に、プロジェクトに黄信号が点っていることを物語っている。そもそもオリックス自身、一時株価が急落し、いまも厳しい状況におかれている。
 郵政公社のバルクセールをすべて落札したコスモスイニシア(旧リクルートコスモス)は多額の債務超過に陥って今年四月、私的整理の新手法である事業再生ADRを申請した。
 郵政公社のバルクセールを振り返ると、小泉政権下で実施された一回目、二回目は投資ファンドが触手を伸ばしてきたのに、安倍政権下の三回目になるとファンドの影は消えていた。それはひとつの予兆であり、不良債権ビジネスの手法を延長して民営化事業を推し進めることが難しくなっていることを示していた。そしてリーマン・ショックがとどめを刺す。投資ファンド時代の終焉である。
 かんぽの宿問題では、一括譲渡を落札したオリックスに鳩山邦夫総務大臣が待ったをかけた。郵政民営化劇の監督兼脚本家、竹中平蔵慶大教授は強く反発し、「かんぽの宿は不良債権」と言い切った。郵政民営化事業の根底に横たわる発想が口をついて出てきたのだろう。
 結果、鳩山大臣は更迭され、西川善文氏は日本郵政株式会社の社長の椅子にとどまった。小泉構造改革推進派がところを替えてすさまじい抵抗勢力となり、西川社長を守りきったのである。
 政局の次元では彼らは巻き返しに成功したけれども、しかし金融資本の流れにまかせ、すべてを洗い流してもらおうという金融資本による改革の時代はたしかに終焉した。はしなくも郵政民営化ビジネスの現状が証明している。


雑誌「世界」 10月号より

 

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