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http://news.goo.ne.jp/article/ft/politics/ft-20090904-01.html
前より賢くなった日本が、何の幻想ももたずに投票した
2009年9月4日(金)12:34
(フィナンシャル・タイムズ 2009年9月2日初出 翻訳gooニュース) FTアジア編集長デビッド・ピリング(前東京支局長)
8月30日の夜、日本中のテレビ画面に、どことなく朧気な鳩山由紀夫氏の姿が映し出された。政党の名前が書かれた地味なパネルを背景に、鳩山氏は静かに、しかも厳しい表情で、「おごることなく」「国民の皆様に大変な感謝を申し上げたい」と語った。日本人をよく知らない人なら、この人は敗北の弁を語っているのかと勘違いしたはずだ。
全く勝ち誇ることのない鳩山氏。それは、全く誰も外で祝ったり喜んだりしていない(車のクラクションを喜んで鳴らす人もいないし、喜んで噴水に飛び込む人も全くいなかった)日本の雰囲気と、よくマッチしていた。テンプル大学日本校のジェフ・キングストン教授に言わせると、日本人は「さほど大好きというわけでもない指導者と、信じられない変化(change they don't believe in)」に投票したのだ(訳注・オバマ大統領の選挙スローガン「change we can believe in (信じられる変化)」のもじり)。
つまり日本人にとって今回の選挙は、さかんに繰り返されているように(お行儀のいい日本ではこういう物言いは妙にしっくりこないのだが)ダメな連中をおっぽり出すことが最大の目的だった。
日本人はおめでたい脳天気から鳩山氏の民主党を支持したのではなく、計算高い賭に打って出て鳩山民主に投票したのだ。こう言う経済学教授の浜矩子氏は、日本人の判断を高く評価している。そして鳩山氏の「勝利宣言」はそれにふさわしく実に控えめなもので、有権者のことをフランス革命のように「市民」と呼んでいたと浜氏は指摘。というのも日本では「市民」という言葉はほとんど使われず、「国民」(国に所属している人)や「社員(浜教授いわく会社に所属し会社のものとなっている人)」という呼び方の方が一般的なのだが、鳩山氏は「市民」という言葉を選んだ。「国に従う国民や会社に従うサラリーマンの中から、市民社会が生まれつつある」と浜氏は言う。
日本の社会は確かに変わってきた。1980年代のバブル時代、日本は高成長を確信して浮かれていたが、その後は、国は必ずしも頼りにならないという認識が芽生え、より内省的な国になった。自分の面倒は自分で見るという認識(あるいは国に見放されたという意識)は、労働人口の大部分が非正規化したことで、さらに厳しいものとなった。日本では今や労働人口の3分の1近くがパートタイムか短期の派遣契約で働いている。ほとんどの人が仕事の不安など感じていなかった1980年代と比べると隔世の感がある。非正規労働者は、賃金が安いだけではなく、立場が弱い。今年初めには、キヤノンやトヨタ自動車といった企業が、こうした非正規雇用をひどく冷淡に切り捨てたと見なされ、社会に怒りが噴出したものだ。
正規と非正規の二重構造に分かれたこの雇用システムのせいもあって、日本では社会格差が広がっている。自分を中流だと思っている日本人の割合は、バブル経済がはじける前の75%から、約40%にまで縮小した。NHKが2007年に実施した世論調査では、日本人の9割が、格差は拡大していると回答した。「working poor」という言葉はそのまま「ワーキング・プア」と(外国語を日本語化する際に使われる)カタカナになり、日本語の一部となった。
日本では高齢化も進んでいる。人口1億2700万人のうち、30日の衆院選で投票権をもっていたのは実に1億400万人に達していた(そして記録的な約70%が投票したのだ)。東京や大阪、名古屋の大都市圏の外には、ほとんど高齢者しかいないという町村がたくさん存在している。典型的なひとつが九州北東部にある犬飼町で、ここでは70代の住民が、90代の父母を介護するために介護教室に通っている。公的な支援が不十分なので、ほとんど全員が「ボランティア」なのだ。住民の中には、何年も病気がちで長生きするよりも、さっさと死ぬ方が金がかからなくていいと、ブラックなユーモアを口にする人もいる。
こうした暗い雰囲気をさらに悪化させたのは、小泉純一郎元首相だ。かつて異様に人気の高かった元首相は今では、社会格差拡大の元凶だと責められることが多い。小泉氏はたとえば公共事業を削減した。そして公共事業こそ、農家がこぞって鋤(すき)と鍬(くわ)をハンマーにもちかえた地方に、金を注ぎ込むための仕組みだったのだ。さらに小泉改革では、地方分権の名の下に税金の地方交付分は減らされ、緊縮財政の名の下に医療費や年金も削られた。そして小泉氏の郵政改革のせいで、一人暮らしのお年寄りなど社会から孤立していたり社会的に弱い立場にある人たちを、郵便局員が仕事の一部として定期的に訪問して、大丈夫かどうかを確認するという、日本で最も広く浸透していた社会保障の仕組みが、壊れてしまったのだ。
5000万件もの年金記録を紛失しておきながら、本当に悪いと思っている様子を自民党はちゃんと見せなかった。この数年前のことが転換点だったのではないかと、テンプル大学のキングストン教授はそう見ている。この行政ミスに直面して日本人は、政府は人の名前を正しく書くこともできない、ましてや自分たちの老後の面倒など見られるわけがないと愕然とした(失われた記録の多くは、名前の表記間違えなどずさんな記録管理が原因だった)。政府への信頼が大きく揺らいだのだ。そして今年初めに東京のおしゃれな公園に、ホームレスの人たちが一時的に避難して暮らし始めた時、自民党議員が「本当にまじめに働こうとしている人たちが集まっているのか」と発言し、世論を憤慨させた。これは自民党閣僚が女性を「産む機械」と呼んだせいで、憤慨した女性たちが「民主党に投票する機械」に転じた数年前と、同じような現象だった。
鳩山氏の民主党は、国民感情の変化にもっと上手に対応してきた。農家には直接の支援を約束し、困窮する家庭には経済支援を約束。子供手当を増額し、労働者を支援すると約束してきた。民主党のこうした提案は全てが支持されているわけではない。日本のように巨額の財政赤字を抱えている国で、こんなにも支出増を必要とする公約ばかりするのはどうなのかという、国民の疑いの目もある。労働市場をこれ以上規制してしまって、日本は国際競争に打ち勝つことができるのだろうかという議論も活発に行われている。民主党が約束している変化は、必ずしも常に信じることの出来る変化ではないかもしれない。しかし民主党は、ただ国民の声にじっと耳を傾けたというそれだけで、大いに評価され、そして大量の票を獲得したのだった。
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