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この間、オバマが提唱する「国民皆保険」にまつわる米国での意見、議論を読んでいるのだが、何か異様な感じを覚える。米国という国は、本当にカネで何でもできてしまう国だ。医者にもかかれずに死んでしまう人間がいる一方で、政府が医療保険を国民に提供すると、民間保険会社の競争の自由が失われる、という理屈がまかり通り、オバマ大統領まで「public option」の撤回を示唆している。(しかし、俺の言葉の印象だが、この「public option」という言葉自体が「公的な国民皆保険」から腰が引けており、その否定を意味している。医療が保険会社の金儲けと馴染むと考える方がどうかしている。)
この米国での幼稚な「国民皆保険」議論に入る前に、郵政民営化との関連で、2007年に書かれた稲村公望さんが書かれたこのコラムは非常に示唆に飛んでいると思えるので全文を紹介したい(事後承諾になるがご勘弁)。
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2007.9.28(金)
稲村公望(中央大学大学院客員教授)
医療の市場化、郵政民営化は亡国の改悪である
すっかり秋の風情です。が、季節の移ろいを味わう余裕はありません。あれだけ、反対の議論がある中で強行された郵政民営化が来週の月曜日から実施に移されます。明らかなサービスダウンがあり、批判が高まる中で、移動郵便車で過疎地をサービスするなどと、小手先で二番煎じのアイデアを郵政会社の西川社長が発表しています。
郵便局の4分割でできる仕切りは、新・ベルリンの壁と揶揄されていますが、範囲の経済学が無視された象徴で、国民が直に見ることになります。手数料は大幅に上がりますし、金融と非金融の分離と称する市場原理主義者の思惑は、国民生活の利便を大幅に低下させることになるでしょう。アルゼンチンやニュージーランドの郵政民営化が惨状に終わった教訓を一切聞くこともなく、一歩一歩、世界に冠たる評判の日本の郵政はいよいよ破局の道を進むことになります。残念至極です。
しかし、明らかに政治の潮流は変わりましたので、近い将来に郵政民営化の凍結あるいは見直しができる情勢に至ることをあらためて祈念するところです。
現場の郵便局の職員は本当にがんばっています。あちらこちらから悲鳴が聞こえてきます。郵便局の現場は、ロボット化するマニュアルの研修や、いたるところにすえつけられた監視カメラなど、ジョージ・オーウェルの『動物農場』や、『1984』を想像させる事態になりつつありますが、そんなことが長続きする改革であるはずがありません。
日本が繁栄するのは、いつも国民の精神が自由な時代でしたし、上意下達の統制が進むときはいつも戦争になる時代でしたから、10月1日を、郵政民営化と称する私物化と官僚支配の強化と外国資本への隷従をくいとめるための新たな出発点としなければなりません。臥薪嘗胆、国民に奉仕する精神をなんとか維持しなければなりません。
全国で、米国の劣悪な医療保険制度を批判する映画が封切されています。その紹介もかねて、月刊『日本』10月号に雑文を執筆いたしました。以下、ご紹介します。
《医療の市場化、郵政民営化は亡国の改悪だ
マイケル・ムーア監督の新作ドキュメンタリー映画『シッコ(Sicko)』が日本でも封切りになった。
「シッコ」とは、お病気という俗語だが、アメリカの医療保険制度の欠陥を追及した話題の映画だ。
アメリカでは、保険に未加入の人口が約5000万人あり、病院にも行けないで死亡する人が、毎年約1万8000人もいるという。
世界保健機構の順位では、アメリカの医療保険の充実度は、世界第37位。一昔前でも歯科治療の法外な値投は有名で、出張や留学する場合には、海外旅行保険をかけていくのが常識だった。
ニューヨークでは、盲腸炎の手術するのに200万円はかかるとの調査で(日本では33万とか)、保険がなければ、大変なことになる。
医者にかかるには、いちいち保険会社にお伺いをたてる制度で、どの病院を使えとか、保険の適用・不適用を指図する。その団体の審査医が、とにかく10%ぐらいの保険の申請は拒否しろ、そうすれば、給料が上がり、昇進する、成果主義?の医療体制になっている。
電気ノコで中指と薬指とを切断したときに、どちらの指をつなぐかを保険会社が指図する(筆者の知人がベトナムで五本の指を落とす事件があったが、合気道の名人で、あわてず騒がず指を病院に待ち込み、縫合手術に成功した。アメリカだったら、機転はきかなかったか)。
費用が払えなくなった入院患者には、タクシー券を渡して、路頭に放り出す。もちろん救急車は有料だ。アメリカの病院の周りにはホテルがあるが、これは入院費が高いので入院しないためで、退院を急ぐのは、料金が高いからである。
カナダは国民皆保険制度だから、車で国境を越えて病院に行くほうが格安で、医療費用捻出のための偽装結婚すらある。
世界貿易センターのテロの後の瓦礫の中で英雄的な仕事をした消防士に呼吸器に障害が出て、1本125ドルの薬を保険会社が認めないので治療を控えていたが、テロリスト収容所のあるキューバにまで行って、ようやくまともな治療が無料で受けられた。同じ薬が1ドルもしない。
イギリスは、租税負担の国立病院では無料診療で、病院までの交通費すら払い戻す。日本にもまだないのだが、パリには24時間の医者の往診サービスがある。さすが、国境なき医師団の発祥の地だ。子供が生まれると、週2回、ベビーシッターのサービスもある。夕食の用意もする。出生率が上がるわけだ。
フランスは、食料の自給率も100%を越えている。フランスの航空会社を、なぜ民営化しないのだと聞いたら、世界で一番おいしい機内食を出しているのに、何でそういうことを聞くのか、と逆に食ってかかられた。 『シッコ』は、日米構造協議とやらで圧力をかける側の医療制度が劣悪であることを天下に明らかにした映画である。
アメリカの業界の意見は、アメリカ人の声を代表しているわけではない。ヨーロッパの医療制度が発達したものであることを見せつける。
もちろん、タダより高いものはないような話もあった。
モスクワの暖房は無料だったが、暖房を止められると凍死するから、政治的な主張をする活動家は携帯の白金カイロをうらやましいと思うのが本音だったし、病院も格安ではあったが、注射針も使いまわしして、家畜用の麦をパンにして食べさせた共産主義国の話も多々あった。一党独裁の中国の医療は、現金前払いでなければ、医者に診てもらえない制度になってしまった。
イギリスやフランスやイタリアでは、無料だからといって医療水準が低いわけではない。アメリカのように一部の医療水準は高くても、多数の国民が医者にかかれない国は先進国といえるだろうか。
日本は、昭和36年にやっと国民皆保険の国となったが、映 画『シッコ』では日本の例は残念ながら紹介されていない。
「医療改革」と称して、自己負担の割合が増えたり、企業の保険組合が赤字になったりして、財政赤字を理由にどんどん改悪を進めて、世界の医療保険優良国の地位から外れてしまったのかもしれない。
日本の国民皆保険は、一朝一タに成り立ったわけではない。
国民の医療費の重圧から解放するために、医療の社会化を目指した、鈴木梅四郎のような人物の思想と行動が結実したものである(1928年に『医業国営論』を著し、衛生省を頂点とする医療国営を提唱している。同書は戦後原書房から再刊されている)。
郵便局の簡易保険なども、大正の時代に、国民の医療費を補うために設計された無審査の、どこでも、誰でも入れる、画期的な文字通りのユニバーサルな制度であった(現在でも危険な職業の、例えば自動車レースの運転者などが入れるのは簡易保険だけである)。
小泉・竹中劇場政治の日本では、「規制改革」を掲げる市場原理主義を追従する連中が、病院の株式会社化とか、介護の民営化とか、混合医療の解禁とか、人間の病をネタに金儲けするアメリカ保険業界の手法を、次々と強気で提案してきた。
郵政民営化でも簡易保険を廃止せよと拍迫られて、米国の保険業界のロビイストが暗躍した。
郵政民営化が10月1日に実施されれば、簡易保険は大正以来の社会政策の歴史を閉じる。郵政民営化自体が、アメリカ保険業界の陰謀が作用したことは、もはや明らかである以上、早急に凍結、見直しを図り、不要の混乱と破壊を回避しなければならない。
この映画を見れば、日本がアメリカを真似して導入した色々な分野の構造「改革」が、亡国の改悪にしか過ぎないことが容易に想像できる。
市場原理主義は、同胞・はらからの安寧と幸せを四方に念じる、日本の国体にはなじまない拝金の無思想である。
百聞は一見にしかずの映画です。ぜひ見てください。
ソースURL:http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/YU53.HTML
(転載終わり)
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