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http://www.the-journal.jp/contents/jimbo/2009/08/post_20.html
裁判員法廷の傍聴席はメディアに独占されていた
ビデオニュース・ドットコム
2009年8月7日
神保哲生・宮台真司のニュース・コメンタリー
裁判員法廷の傍聴席はメディアに独占されていた
裁判員裁判が8月3日から4日間にわたって開かれ、メディア各社もこれを大きく報じた。東京地裁前には日本の司法史上初の裁判員裁判を傍聴するために、傍聴希望者たちが長蛇の列を作った。しかし、50席あまりの一般傍聴券を抽選で勝ち取るために並んだ2000人からの傍聴希望者の中に、報道機関が傍聴券を得るために派遣会社を通じて雇ったアルバイトが多数含まれていることが、ビデオニュース・ドットコムの取材でわかった。
それによると、現場では派遣会社のスタッフと見られる男性が、集まったアルバイトたちを整列させた上で、傍聴券の抽選の列に並ばせ、抽選券を取得後、それを回収するシーンが見られた。
アルバイトの若い男性は、自分は裁判を傍聴する予定はないと言い、別の男性はアルバイト料は抽選のあたりはずれにかかわらず、1日1500円であることを明かした。
神保哲生・宮台真司両キャスターは、メディアのこうした行為によって、本来は一般市民に開かれているはずの傍聴席が、大手報道機関によって事実上独占されてしまった可能性があるとして、市民の司法参加という裁判員制度の趣旨を歪める行為と批判した。
神保(ジャーナリスト): 結局、一般の市民が裁判員裁判そのものを見ることは、ほとんど不可能だったことになる。
私が問題だと思ったことは、傍聴券のためにバイトを並ばせているメディアは、大手のテレビ局や新聞が多い。しかし、テレビや新聞は司法クラブに入っているので、もともと各社それぞれ傍聴席を一席ずつもらっている。法廷の傍聴席には、白いカバーがついた席があり、それは記者クラブ用の席なのだ。その残りの席を何とか一般市民のために開放しているのに、それをまた派遣会社やバイトまで動員して傍聴券を手に入れようとしているのだから、あの日の法廷はほぼメディア関係者のみで埋め尽くされていた可能性が大きい。記者クラブで一席もらっていながら、バイトを使って更に何席も獲得している社もあった。
個人で並んで当たった人は、とても強運な人だ。なんと言っても50人に一人しか当たらないのだ。しかも、下手をするとその大半はメディア関係者だ。
傍聴にはいろいろな意味があるだろうが、裁判自体を法律の専門家や法律を勉強中の人に見てもらったり、いつ自分が裁判員になるかもしれない一般市民に見てもらうことも、重要なことだ。それが、某ニュース番組のMCの「今日裁判員裁判が開かれ、私も傍聴してきました」という一言だけのためにメディアによって傍聴席が独占さられてしまっているというのは、ちょっとどうかと思う。事件も取材していない、司法制度に通じているわけでもない某MCに裁判を傍聴してもらっても、一般市民には何の価値もない。
宮台(社会学者): 新しいシステムを導入させればいい。要するに、傍聴券が当たった人に特殊な塗料を手につけ、その当たった人以外は絶対に法廷に入れないなどだ。代理ではくじを引けないようにすればいいわけだ。
神保: 要するに、代理があるからそれができてしまうと。
宮台: 代理を防ぐシステムは簡単に作れる。
神保: メディアがこうやって裁判を私物化することは、単に普通に並んでいる一般傍聴希望者に対してアンフェアであるという問題もあるが、もう一つ深刻な問題がある。それは、これが傍聴という制度の目的を完全に歪めていることだ。裁判員制度の開始をお祭り騒ぎにして商売のネタにしているメディアの人間しか裁判そのものを見ていないとなると、本当にきちんと市民監視が行き届いているかという点で不安になる。要するに裁判員裁判の法廷で何が起きていたかを、つぶさにみているのはメディアだけということになる。みなさんはそこまでメディアを信用して大丈夫ですか、ということだ。
記者会見なども、かつては多くの人がメディアを信用して記事を読んでいたが、インターネットが登場し、ビデオニュース・ドットコムのような新しいメディアが、記者会見そのものをノーカットで流すようになると、これまでのメディア報道がいかにいい加減なものだったかが明らかになった。裁判にもそういう面が無いとも限らない。
日本の裁判はアメリカのようにテレビカメラが入らないので、傍聴者しか直接監視はしていない。そこに、裁判をネタとしてしか見ていない人たちしか入っていないような状態で本当に大丈夫なのか。
もう少し傍聴席を広げるなど様々な手があるとは思う。賛否はあると思うが、傍聴をこういう形で歪めるのであれば、法廷にテレビカメラを入れることも、検討すべきかもしれない。
メディアが傍若無人に振る舞い、いろいろな問題を起こすたびに、本来は機能するように作られている制度が無力化され、新しい規制が導入されるようなことが繰り返されている。
【出演者プロフィール】
神保 哲生(じんぼう・てつお)
ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。15歳で渡米、コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て93年に独立。テレビ朝日『ニュースステーション』などに所属した後、99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。著書に『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるのか?』、『ツバル−温暖化に沈む国』、『地雷リポート』など。専門は地球環境、開発経済、メディア倫理。
宮台 真司(みやだい・しんじ)
首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。博士論文は『権力の予期理論』。著書に『制服少女たちの選択』、『14歳からの社会学』、『日本の難点』など。
投稿者: 神保哲生 日時: 2009年08月11日 11:14 | パーマリンク
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