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「竹中プラン」の実験台、日本振興銀行を揺るがす 巨額な二重債権譲渡問題(1)
[東京レポート]
2009年07月10日 12:43 更新
小泉構造改革は、「郵政民営化」だけでなく「金融改革」でもほころびをみせはじめた。金融庁は6月16日、日本振興銀行(東京都千代田区、木村剛会長)への立ち入り検査を実施した。破綻した商工ローン大手のSFCGから購入した大量の貸し出し債権に、他行との二重譲渡が含まれている問題を調べるためだ。譲り受けた債権は1,000億円強とあまりにも巨額。竹中平蔵・金融相(当時)の肝煎りで誕生した振興銀は、竹中氏の“盟友”木村剛会長がオーナーを務め「木村銀行」の異名で呼ばれる。小泉構造改革が生み落とした銀行がやったことは、初志に反して債権買い取りビジネスだった。
債権の二重譲渡
「債権二重譲渡問題」が火を吹いたのは、商工ローン大手のSFCG(旧商工ファンド)が2月23日に民事再生法を申請したこと。オーナーの大島健伸元社長は、破綻前に資産隠しを行なっていた。簿価にして2,670億円の資産を親族会社に流出させたほか、大島元社長の役員報酬を月2,000万円から9,700万円に増額して私腹を肥やしていた。あまりの乱脈ぶりに東京地裁は3月24日再生手続きを廃止、破産手続きに移行した。
だが、SFCGの腐敗は、その程度で収まらなかった。その後、明らかになったのは、信じられないような事態だったからだ。SFCGが資金調達のために、ローン債権を重複譲渡していた。債権の二重譲渡は700億円程度に達する巨額なものだ。
商工ローン債権の譲渡先として登場したのが日本振興銀行だ。振興銀はSFCGから譲り受けた債権が1,024億7,000万円にのぼることを明らかにした。債権の二重譲渡は、正当な譲受け人がどこなのかを裁判でシロクロをつけなければならない。裁判の結果によっては、巨額な損失が生じることもありうる。
法令違反が続出
債権二重譲渡問題は、金融エリートの木村会長が海千山千の大島元社長にババをつかまされた格好だ。しかし、振興銀が善良な被害者というわけではない。日本共産党の大門実紀史議員は6月16日の参院財政金融委員会で、振興銀がSFCGから譲り受けた債権回収と称して、詐欺まがいの架空請求をしていると告発した。
大門議員が取り上げたのは、千葉県在住のAさんのケース。SFCGに高金利を返済していたAさんは利息制限法で計算し直すと、700万円近い過払いになっていた。本来なら700万円を返してもらわなければならない。ところが、SFCGから約700万円の債権譲渡を受けた振興銀は、逆に700万円を請求してきた。これは銀行による架空請求詐欺だとして、金融庁に見解を求めた。
サービサー(債権回収業)の認可を受けていない振興銀が債権を回収したことについて、法務省の法政部長は「(振興銀は)刑事処分の対象になる」と言明。与謝野馨金融相は「(金融庁は)徹底した検査を行なう」と答弁している。
法令違反はそれだけではない。振興銀はSFCGの株式をすべて売却したと関東財務局に届け出たのは6月29日。売却は3月4までに完了しており、3カ月以上遅れての報告。上場株の大量売買を5営業日以内に届けるよう義務付けた金融商品取引法違反に当たる。振興銀は法令違反が満載だ。
〜つづく〜
【日下 淳】
http://www.data-max.co.jp/2009/07/_1_36.html
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「竹中プラン」の実験台、日本振興銀行を揺るがす 巨額な二重債権譲渡問題(2)
[東京レポート]
2009年07月11日 09:00 更新
竹中プランのモデル銀行
振興銀は小泉構造改革の1つ「竹中プラン」の実験台に供されたモデル銀行だった。竹中平蔵・金融相のブレーンとして「金融再生プログラム」いわゆる竹中プランのエンジン役を担ったのが木村剛氏である。日本銀行を辞めて経営コンサルタント会社、KPMGフィナンシャルサービスコンサルティング(現フィナンシャル)を設立した木村氏は、竹中プラン作成に主導的な役割を果たした。
竹中プランでは、中小企業に対するセーフティネットを前面に打ち出した。不良債権処理を進めれば、中小企業への貸し渋りや貸し剥がしが広がるため、中小企業の貸出に応える新しい銀行が誕生できるように規制を緩和した。銀行免許を取れやすくして複数の銀行を誕生させ、健全な競争を喚起させようというわけである。竹中金融庁は、異例なまでのスピードで振興銀に銀行免許を与えた。
竹中=木村コンビ演出の振興銀は2004年に開業したが、半年もたたないうちに混乱状態に陥った。設立発起人で新社長に就任した落合伸治氏の解任など、経営体制をめぐってトラブルが噴出。落合氏は、担保や保証をつけて融資するというノンバンクの手法を取り入れようとしたが、木村氏は無担保・無保証で融資するという、いままでになかった銀行をつくることに固執した。
振興銀の大株主は、木村剛会長が7.87%、GMOインターネットの熊谷正寿会長兼社長が7.16%、木村氏が経営するコンサルタント会社のフィナンシャルが4.92%(08年9月末現在)。木村氏がオーナーの「木村銀行」と呼ばれる所以だ。
債権買い取りビジネスへの転換
新銀行の初心は無担保・無保証の融資。だが、不良債権を用心すれば融資は増えないし、融資を拡大すれば不良債権が増える。どちらにしても業績は伸びない。そのため07年ごろから方針を転換した。
商工ローン、消費者金融ローンの貸付債権をノンバンクやサラ金から買い取る。振興銀はその債権を、金利を引き下げた新たな貸し出しに置き換える。ノンバンクやサラ金が保証人となる条件をつけた。振興銀は、ノンバンクやサラ金が貸付債権を現金化するファクタリング手法を取り入れて、ハイリスク・ハイリターンの債権買い取りビジネスに転じたのである。
振興銀は、SFCG、ロプロ、NISグループ、旧アプレック(現中小企業信用機構)、旧三和ファイナンス(現SFコーポレーション)といったノンバンクやサラ金からローン債権を買い取った。振興銀はローン債権を買い取る際、大量の上場株式を担保に取り、担保権を行使して主要株主となった。これら親密企業を中心に「中小企業振興ネットワーク」を昨年7月に発足。振興銀は融資先となる中小企業グループを組織した。
その結果、09年3月期決算では、融資高3,134億円を達成。経常収益は前期比3.5倍増の262億円を計上、最終損益は13億円の黒字だ。債権買い取りビジネスの効果である。
だが、融資高3,000億円規模の振興銀にとって、SFCGから買い取った債権1,024億円はあまりにも巨額で、リスクもまた大きい。金融庁が検査で、どんな結論を出すかに注目が集まっている。
〜了〜
【日下 淳】
http://www.data-max.co.jp/2009/07/_2_31.html
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