「自民崩壊」のなだれ現象 七月十二日に投開票が行われた東京都議会議員選挙で民主党が圧勝、自民党は前回の四十八議席から三十八議席に減らし、惨敗を喫した。前回三十五議席の民主党は五十四議席を獲得し、自民党に代わって都議会第一党となった。国政与党であるとともに石原都政与党でもある自公は過半数を割り込んだ。名古屋、さいたま、千葉の政令指定都市市長選挙、静岡県知事選挙で吹いた「民主党への風」は、都議会議員選挙ではいっそうの「嵐」となって自民党を直撃した。 「東京から政権交代」と打ち出し、衆議院選挙と意識的に直結させて攻勢に出た民主党は注目となった七つの一人区で島部を除き六議席を獲得した(うち1つは無所属の推薦候補)。公示のわずか三日前に駆け込み立候補を決めた民主党新人候補さえ当選した。自民党の「金城湯池」だった一人区の千代田区でも、都連幹事長の有力者が二十六歳の民主党候補に敗北した。民主党は定数六の練馬区で三議席を獲得するなど、複数候補を擁立した多くの選挙区でも激戦を制した。 グローバルな資本主義経済の危機の中で出口の見えない生活危機と貧困にあえぐ住民の蓄積された不満と怒りは、「チェンジ」の意思を民主党に託した。「民主党への風」は野党・共産党をも吹き飛ばしてしまった。共産党は、石原都政による「オリンピック招致」や新銀行・東京へのムダ遣い、都立病院の統合・廃止などの福祉切り捨てを厳しく批判し、民主党が事実上の都政与党として石原都政の提出した条例案の「九九・三%」に賛成していた事実を暴露した。この批判は正しいものだった。しかし共産党の自公与党と民主党への批判は、「政権交代のために、まずは民主党へ」という有権者の動向を変えることはできなかった。共産党は議席を十三から八へと大きく減らした。 こうした中で、無所属の一人会派(自治市民93)でありながら、新銀行・東京、オリンピック、医療切り捨てなどを真っ向から批判し、極右石原都政と対決する市民運動とともに闘ってきた福士敬子さんは、激戦を勝ち抜き杉並区(定数6)の貴重な一議席を確保した。自公与党のみならず、民主党や「生活者ネット」に対しても批判の立場を堅持して勝利した福士さんの勝利は、東京の労働者・市民運動にとってきわめて貴重な成果である。 労働者・市民の自覚的挑戦へ 自民党の敗北と民主党の「一人勝ち」は、小泉・竹中の新自由主義的「構造改革」路線の破綻と、自公政権の完全な行き詰まりの中で、有権者の批判が、新自由主義路線のもう一つの体現者である民主党への雪崩をうった投票となったことを意味している。したがってそれは既成政治への不満と閉塞感の突破を、「改革者」として現れた小泉元首相に託した「郵政選挙」の「裏返し」という構造を持っている。しかし民主党への投票は、熱にうかされたような「小泉劇場」への擬似的な「参加」意識よりも、もう少し「醒めた」有権者の感覚を表現しているのではないだろうか。 それはまさに生活の苦しさ、厳しさを少しでも変えようとする多くの人びとの「現実感覚」を示したものであり、したがってきわめて根深いものがある。言うまでもなくそのことは、現実に進行する資本主義の危機に対する抵抗が、いまだ労働者・市民自身の主体的な参加に基づく大衆的運動としては形成されていないことの表れでもある。こうした現状は自民・民主の「二大ブルジョワ政党」の議会レベルでの対立に集約される政治のあり方にくさびを打ち込み、オルタナティブな左派勢力をめざす政治潮流のための闘いを、着実かつ意識的にすすめていくための努力をわれわれにつきつけるものである。 もちろんそうした挑戦は、失業・派遣切りなどに対して「生存」のための抵抗を開始した運動の社会的拡大や、改憲・戦争国家化を阻み、排外主義の台頭、民主主義の剥奪に反撃する運動をさらに大きく築きあげるための努力を基礎にしたものでなければならないし、環境破壊・気候変動などに取り組む運動とのつながりを自覚的にすすめ、そうした社会運動の結合・合流のためのイニシアチブ・グループを集団的かつ複数主義的に形成していくことが必要である。 そうした挑戦は、議会・選挙の分野でも具体的選択肢を提示する反資本主義的オルタナティブ潮流の形成を避けることのできない課題とするだろう。 八月総選挙と主体形成 都議選で示された「政権交代の風」は、近々に行われる総選挙においてもいっそうその勢いを増すことは確実である。麻生首相は、七月二十一日解散、八月三十日投票というスケジュールを、七月十三日に決定した。民主党主導政権の誕生は目前の現実である。自民党の内部抗争は「分裂」含みで激化しており、新たな政界再編も予想される。共産党、社民党の既成左派政党もまたこの嵐の中で重大な困難にぶつからざるをえない。 われわれは総選挙において自公政権打倒のために闘う。具体的には、反民主主義的制限に満ちた選挙制度とわれわれの弱さのために、自身の候補、あるいは共同候補が擁立できない中で、われわれは共産党、社民党、そして新自由主義と改憲・戦争国家作りに反対する候補への投票を呼び掛ける。 同時に、総選挙での「政権交代」、すなわち自公政権の退陣と民主党主導政権の成立という情勢において、新政権への「期待と幻想」と訣別し、労働者・市民の要求を実現する運動をダイナミックに展開するための陣形を準備しなければならない。民主党主導政権の成立は、ただちに新しい激突の始まりでもある。この政治的・社会的激突の中で労働者・市民の先頭に立つ活動家は、自らの要求を勝ち取るための主導的役割を果たさなければならない。 このプロセスは、大きく立ち遅れた反資本主義左翼の主体形成にとっての決定的な正念場である。この困難な課題を引き受ける勢力を多くの人びととともに作り出そう。 (7月13日 平井純一)
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