止まらぬ自民 党の崩壊現象 東京都議選での自民党大敗北と民主党の圧勝は、総選挙で民主党主導政権が成立し「政権交代」が実現する流れをほぼ確定した。都議選敗北翌日に麻生首相が党内の「麻生降ろし」の動きを封じるために決定した「七月二十一日解散、八月三十日投票」方針の発表は自民党内の混乱・分裂状況をさらに加速した。野党の内閣不信任案(衆院)、問責決議案(参院)に自民党の全議員が一致して反対して以後も、党内の混乱は収まらなかった。参院で野党提出の麻生首相問責決議案が可決されたことにより参院の審議はストップし、北朝鮮関連に出入港する船舶を臨検する「貨物検査特措法案」や十一月十二日の「天皇即位二十年奉祝」式典当日を休日とする「祝日法改正案」は審議未了・廃案となった。 「麻生では選挙を闘えない」として「人心一新」をめざす「両院議員総会」開催要求は、与謝野財務相、石破農水相ら閣僚をも巻き込んで解散以前にも麻生政権の崩壊状況を印象づけることになった。麻生周辺の必死の切り崩しにより、両院議員総会は非公開で議決権のない「議院懇談会」に格下げされ、そのまま総選挙になだれ込むことになったが、自民党の内部崩壊はもはや押しとどめることができない勢いで進行している。 都議選前の東国原・宮崎県知事擁立騒動、都議選後の「麻生降ろし」のドタバタ劇は、世論調査でも自民党からの離反を加速させることになった。朝日新聞の世論調査(7月20日)によれば自民党の支持率は、現在の調査方法になった二〇〇一年四月以降で最低の二〇%に落ち込んだのに対し民主党の支持率は三一%、衆院比例区での投票先は自民党一九%に対し民主党は四二%と、都議選での投票傾向がさらに明確な形で示されている(同日の毎日新聞に掲載された調査では自民党の支持率18%に対し民主党支持は36%、衆院比例区の投票先は自民党18%に対し民主党はなんと46%と「朝日」よりも自民党にいっそう不利な結果が現れている)。 自民党は総選挙の「司令塔」であるはずの古賀選対委員長が都議選敗北の翌々日に辞任を表明し、七月十九日には党内第二派閥・津島派(旧橋本派)の会長である津島雄二自民党税制調査会長が、派閥会長後継を指名しないまま引退・衆院選不出馬を表明するなど、完全に敗戦ムードが蔓延する自壊現象に陥ってしまった。 資本主義の危機 に立ち向かう 二〇〇五年九月の「郵政解散」で圧勝した小泉首相が二〇〇六年九月に辞任した後、二〇〇七年七月の参院選敗北を経て、自公政権は坂道を転げ落ちるように崩壊への道を突き進んでいった。その背景にあったものは小泉内閣が推し進めた新自由主義的構造改革路線による貧困・格差社会の深刻化であり、また小泉政権がひたすら追随した米国ブッシュ政権の「対テロ」グローバル戦争の完全な敗北だった。 二〇〇八年秋に爆発した米国発の金融恐慌は、戦後最悪の経済恐慌へとまたたく間に波及し、倒産・失業の波が全世界を覆い尽くした。それは環境・食糧・エネルギー危機とも一体となったグローバル資本主義システムそのものの危機であった。 「冷戦」構造の終わりとソ連・東欧のスターリニスト官僚独裁体制の崩壊後、米国の軍事的覇権・金融覇権に支えられた資本の新自由主義的グローバル化の世界秩序は決定的な危機の局面に突入した。資本主義の世界恐慌は、日本においてもあらゆる社会的保護を剥奪された派遣社員、期間社員などの非正規労働者を皮切りに、多くの労働者が住む家も食も奪われて寒風の下に投げ出される現実をさらけ出した。 年収二百万円以下の貧困線以下で生活する労働者が千万人を超える一方で、トヨタに代表される大企業は毎年数兆円もの空前の利潤をためこんできた。そしてひとたび経済危機が訪れるや、一方的に無慈悲な解雇・雇い止めが強制されるこの階級社会の現実が白日の下にさらされている。 財政危機を口実にした福祉支出の年間二千二百億円の抑制が進められた。女性、高齢者、青年たちは生存そのものの危機に見舞われている。自殺者は一九九八年以後十一年連続で三万人を突破した。この数は十万人単位で見た場合、米国の二倍、イギリスの三倍である。大資本が国際競争に勝ち抜くために進められた「官から民へ」「規制緩和」という構造改革路線がもたらした結果が、「底辺への競争」に多くの労働者・民衆を駆り立て、絶望に直面させる社会的荒廃をもたらした。 自民党の伝統的集票基盤であった地域団体、業界も相次いで自民党から離反している。今や、自民党の政治家たちも「小泉―竹中改革のひずみ」の是正を表明し、企業の救済や公共事業に大規模なバラまきを行い、これ以上の景気悪化に歯止めをかけるためになりふりかまわぬ対策を行っている。 しかし、彼らは絶対に今日の危機をもたらした政策、すなわち新自由主義的「改革」路線をひたすら突っ走ってきた自公政権の政治的責任を総括することはない。彼らは、ひたすら大企業のための景気対策を行えば、いずれ再び「成長」に転じ、労働者・市民もそのおこぼれにあずかれるという根拠のない幻想をまきちらすだけだ。そしてそのバラマキ支出のツケは、消費税の二ケタへの増税としてわれわれにまわされることになる。 八月総選挙は、労働者・市民の生活と権利を破壊した自公政権の責任を厳しく問い、打倒する闘いの場である。 平和をつくり 出すたたかい 他方、ブッシュ前大統領のアフガニスタンとイラクへの侵略戦争に追随して、自衛隊をインド洋、イラクに派兵した自公政権は、米国のグローバル戦略に実戦部隊として自衛隊を組み込む「日米同盟」の道をひた走っている。二〇〇六年五月の「ロードマップ」で最終的に確定した「米軍再編」がそれである。「米軍再編」とは決して在日米軍基地の再編のみを意味するのではない。それは米軍と「目標と戦略を共有」した自衛隊が、世界のどこにでも米軍の指揮下で戦争に参加する態勢を意味する。そうした米軍の作戦展開を支えるためにこそ沖縄の新基地建設、厚木の艦載機の岩国移転、座間への米軍指令部の設置、横田への航空自衛隊航空総隊司令部の移転が行われるのである。 この「米軍再編」の構想=日米同盟のグローバルな強化は、安倍政権の退陣後もインド洋への派兵継続、「海賊対処」派兵法の成立とソマリア沖派兵、さらには派兵恒久法の準備と改憲プロセスの再起動として着々と進められている。ブッシュ戦略の破綻とオバマ米新政権の登場にもかかわらず、「日米同盟」に基づく改憲――戦争国家体制づくりのプログラムが具体化されている。 八月総選挙は、自公政権がひた走ってきた改憲―戦争国家化の道を押し戻し、あらゆる排外主義的ナショナリズムに反対して、東アジア民衆とともに平和を実現するための闘いの場である。 総選挙と労働 者市民の課題 われわれは八月総選挙で自公政権を打倒するために全力をあげる。自公政権打倒の闘いとは、労働者・市民の生存権、生きるための希望そのものを奪うほど、貧困・格差・不正を生み出した資本主義社会のシステムを根本的に変革していくための新しい出発点である。 われわれは新政権の圧倒的中核を形成するであろう民主党に労働者・市民の未来を委ねることはできないし、彼らへの幻想を持つことはできない。民主党もまた新自由主義的「構造改革」路線を礼賛し、「日米同盟」を対外政策の中心に据え、憲法九条改悪を基本方針として自衛隊の海外派兵に積極的な態度を示す、もう一つのブルジョワ政党だからである。 実際、民主党の鳩山由紀夫代表は、「政権交代」によって民主党主導政権ができた場合でも、テロ特措法による海上自衛隊のインド洋での洋上給油活動を継続し、廃案となった北朝鮮「貨物検査特措法」を早急に成立させると明言している。それだけではなく鳩山は、歴代の自民党政権が否定してきた「核兵器持ち込み密約」が暴露されてきたことを逆手に取り、「米軍の核持ち込みへの現実的対応」すら口にしている。これは「非核三原則」の放棄宣言にほかならない。また、安倍政権の「国民投票法」強行によって崩れた自民―民主の改憲蜜月が「憲法審査会」の再起動を通じて復活する可能性についても十分な注意を払う必要がある。 しかし同時に、民主党は「政権交代」の実を有権者にアピールするためにも、自公政権との違いを印象づけなければならない。民主党はすでに野党共同提案として国会に提出した派遣法改正案をはじめ障がい者自立支援法の凍結、中学生以下の子どもへの「子ども手当」などを打ち出している。また日米安保にかかわる「密約」の情報公開や、普天間基地「代替施設」の「県外移設」なども主張している。昨年七月、民主党は沖縄県議会で「辺野古新基地建設」に反対する決議に野党として賛成投票している。岡田克也幹事長は『世界』7月号のインタビューでアメリカの「核先制不使用宣言」、「東北アジア非核地帯構想」についても言及している。 労働者・市民は、こうした自公政権との「違い」を打ち出した民主党の選挙公約の「言質」を忘れず、その履行を迫る運動を展開していかなければならない。そのことは民主党への「幻想」や「支持」とは何の関係もない。われわれは「政権交代」を契機に労働者・市民の運動にとってのスペースを最大限に作り出し、自らの要求を新政権に対して正面から突き付けていくための闘いを強化しなければならないのである。そしてこのような闘いの意識的推進こそが、労働者・市民の運動を「政権交代」の枠組みにつなぎとめることなく、資本主義システムそのものへのオルタナティブに挑戦していくための条件となるだろう。 われわれはそうした立場から総選挙に向けて、自民党・民主党の「二大ブルジョワ政党」システムに収れんされることのない労働者・市民の政治的闘いを発展させるべきことを訴える。共産党、社民党、そして新自由主義と改憲・戦争国家体制に反対する候補者への投票を! (平井純一)
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