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「拉致問題」の取り組み転換に希望を託したい=桂 敬一
http://www.asyura2.com/09/senkyo66/msg/624.html
投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 7 月 01 日 19:25:04: mY9T/8MdR98ug
 

http://jcj-daily.seesaa.net/article/122581959.html#more

読売新聞の読者なら、6月20日の同紙夕刊・第2社会面に、「蓮池薫さん『北』の暮らし語る望郷封印 必死に生きた 停電 山で薪拾い『イムジン河』に涙」という6段抜きの大きな記事が、蓮池さんの大きな写真と一緒に掲載されたのを、記憶されているだろう。同紙の単独インタビューであり、写真には「14日撮影」と記されていたので、本当に最近の心境が語られている、と理解することができた。

日ごろの読売はメディアのなかで、「北」(北朝鮮)にはなにによらず、一番厳しく、たとえば、核実験再開に対する国連決議についても、最も厳しい制裁要求を行えと政府の尻をひっぱたき、この決議のほかにも日本独自の制裁をと、「北」目当ての船舶立ち入り検査法を制定せよと主張、さらには再度の「ミサイル」発射に対する日米の迎撃体制についてもいち早く大きな報道を繰り広げるなど、強行策一辺倒の姿勢を示してきた。

当然「拉致問題」についても、被害者家族会が「北」への制裁強化を訴えると、それをもっとも鮮明に伝えたり、代弁したりする役割を果たしてきた。そのような印象を与えてきた読売からすると、上記の蓮池さん独占インタビューの記事は、ちょっと様子が違っていたので、いったいこれはなんなのかと、不思議な気分にさせられた。

たしかに表面的には、乱暴な拉致によって無理に故郷から引き剥がされ、寄る辺ない異境で苦しい生活を強いられた状況が語られているので、「拉致問題」に怒る読者の感情を刺激するものはある。だが、よく読むと、異境で望郷の念に駆られたときの思いを今あらためて追懐する気持ちのなかに、当時の耐えた暮らしをそれなりに懐かしく思い出すものがあり、それを頑張りに変えて今後を生き抜こうとする心の動きも感じられ、深い感銘を受るのだ。

また、現地の人の苦しい生活も偲んでいるが、それを眺める蓮池さんの眼差しはけっして冷たいものではない。そして、帰国後、韓国語を活かして翻訳家としての道を歩きだした経験を踏まえ、向こうで生まれた子どもたちに、「『北』での暮らしを空白にせず、負も生かす道があると教えたかった。『北』で生まれた自分を否定するな、と」と語っている点が、とくに目を引いた。

蓮池さんは、今後も「話せると判断したことは話していく。被害者として何ができるかを考え、残された人が一日も早く帰れるように努めたい」とインタビューを結んだが、その言葉も、制裁強化一辺倒に協力していく、とする文脈で理解すべきものではないように思え、それが意味するものなにかと、ずっと考えている。

このインタビューは、薫さんの兄、かつて「拉致被害者家族会」事務局長だった透さんが5月にブックレット、『拉致左右の垣根を超えた闘いへ』(かもがわ出版)を刊行、その内容が透さんの従来の強硬論からの転換を示すものだと、メディアのうえで話題になった直後に行われたものであり、インタビュー自体が、そうした状況だからこそ企画されたものだろうし、薫さんも、兄・透さんが一石を投じた状況の変化を意識し、それに応じたのだろう、と推測できた。

このインタビュー記事が掲載される2日前、6月18日に、東京・内幸町の日本記者クラブで、ブックレットの著者、蓮池透さんの記者会見というか、クラブ側の企画による記者懇談会が開催され、私もそこに参加した。その感想を北海道新聞のコラム「ニュースへの視点」に書いたので、以下にそれを転載、ご紹介する。ご覧くだされば、おわかりいただけるが、透さんの「変身」は静かだが、大きな衝撃を感じさせるものがある。

弟・薫さんのいう「被害者として何ができるか」の協力も、もはや強硬論、制裁強化一辺倒へのそれを意味するものではなさそうだ。凍結された冷戦体制に閉じ籠もる「北」に対して、核には核をのような居丈高な態度は取らず、実戦核兵器の唯一の被爆国、平和憲法の原理に立つ日本は非核3原則をあくまでも維持、プラハ演説をしたオバマの路線を支持し、アメリカに核全廃政策の推進を促す、とする姿勢を一貫して示しながら「北」に接し、その猜疑心を解くようにしていけば、「拉致問題」解決の新しい環境づくりも可能となるのではないか――そうした歯車が動きだせば、拉致被害者やその家族も新しい役割を演じ、日朝間のさまざまな問題の解決に貢献できるのではないか。蓮池兄弟の言葉はそのような意味を包含しているのではないか、と考えさせられた。(ジャーナリスト会議会員)

北海道新聞 6月27日夕刊
桂 敬一「ニュースへの視点」

蓮池透さん変身の意味は

「弟は北(朝鮮)に24年もいて、仕事や生活を通じて築いた、たくさんの人間関係がありますが、日朝の国交が正常化し、民間人が自由に往来可能となっても、すぐには北に行けるかどうか……。身の安全が保障されれば、行きたいと言うかもしれません。しかし、その子どもたちは、幼少期を過ごした北に友人がたくさんいて、日朝両国の懸け橋になりたいとも言っています。正常化の暁には、すぐにも行きたいでしょう」

◆対話と交渉 力説

今月18日、東京・内幸町の日本記者クラブで開かれた記者懇談会の席における、私の質問に対する蓮池透さんの回答だ。2005年まで「北朝鮮による拉致被害者家族会」の事務局長だった蓮池さんは当時、不実な相手に容赦ない制裁を求める、強硬派の代表的人物といった印象を与えていた。ところが、その蓮池さんが今月、ブックレット『拉致左右の垣根を超えた闘いへ』を刊行、そのなかで「制裁一本槍ではだめだ。政府は家族会の感情に迎合ばかりせず、対話と交渉の道を拓き、将来の国交正常化まで視野に入れながら、問題解決に努めよ」と主張、思いがけない変身をみせていたのだ。

それを読んでいた私は、この記者懇談会に関心をそそられ、彼の話を聞きにいった。とつとつとした彼の肉声に耳を傾けていくのに連れ、書いたもので披瀝されたその新しい思いが、生々しい後悔や悩みに根差すものであることが、よく理解できた。しかし、それだけに彼の話も、そのあとの質疑応答も、時間の大部分が、これまでの拉致問題の意味の解明に振り向けられることになったのには、少々不満が残った。そこで「この先、目指す国交正常化が成った場合、拉致の被害に遭った弟、薫さんや、向こうで生まれたお子さんたちは、また北を訪れたいと思うのでしょうか」と、私は聞いてみたのだ。

◆日朝関係再考を

弟や甥、姪の未来に心を砕くからこそ、蓮池さんは、日朝両国が安心できる着地点をどう見つけるかが大事だと説き、日本政府はオバマのアメリカに、「チキンレース」(無謀な大胆さを競い合うゲーム)のエスカレートを促すのでなく、対話を行うよう呼びかけるべきだ、と力説するように変わったのだ。あの鋭かった眼は今、静かな色を湛えていた。

折しも北の二度目の核実験が世界を騒がせ、ミサイル試射の再開も近いとする情報が流れている。これに対して、船舶検査まで行う制裁強化や、前回よりも規模の大きい迎撃ミサイルの出動が取り沙汰されている。メディアはそうした動きを追いかけるだけでいいのだろうか。あらためてよく考えてみる必要があるのではないか、と思わせられた。

 

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