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http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090629dde012010033000c.html
特集ワイド:’09シリーズ危機 政権選択/上 社会学者・宮台真司さん
<この国はどこへ行こうとしているのか>
近く行われる衆院選。自民党が「政権担当能力」を突きつける一方で、民主は「政権交代」を掲げる。では、日本の現状の問題点は何なのだろう。3回シリーズでお届けする。【中山裕司】
◇育て「コミット」力
ペットボトルを片手に社会学者、宮台真司さん(50)は現れた。ハンチング帽にTシャツ姿。東京・赤坂の雑踏がよく似合う。ビルの谷間にある小さな公園で、今の日本を語り始めた。
「民主政治は本当にひどい政治制度だけれど、最悪よりかはマシという程度。日本人は民主制への誤解がある。『みんなで決めたことは正しい』『みんなで決めることはいいことなんだ』という幻想が強過ぎる。衆愚政治に対する危機感覚が乏しいのです」。チャーチルの有名な言葉、「民主主義は政府の最悪の形態。ほかのあらゆる形態を除いて」も引用した。
足りないものは何だろう。「衆愚に陥らないエリートをどう育てるかに無関心すぎる。エリートとは能力があるだけではなく、熱心なかかわりを意味する『コミットメント』を持っている人のこと。みんなが賢くなるように頑張ろうというのはたわごと。みんなが任せることができるエリートがきちんと育つ社会にしようと考えなくてはいけない」。宮台さんの言うエリートとはむろん、立派な学歴や肩書を持つ人などではない。
エリートの必要性を説明する締めくくりの言葉は「みんなへのコミットメントを持つことが、どういう生き方であるのか、ということです」というものだった。
「生き方ですか?」と尋ねると、「そうです。これはまさに生き方です」と返ってきた。
…●…
かつてはブルセラや援助交際をフィールドにした宮台さん。96年から各地で青少年条例に淫行(いんこう)規定が盛り込まれる動きが活発化したが、自分が援交のブームを喧伝(けんでん)した副作用が条例強化だと考えた宮台さんは、政治家相手のロビー活動に乗り出し、政治とのかかわりが始まった。
「政治家さんは官僚とのコンタクトが強過ぎて、見識のある人と接触する機会が少ないことが分かった。私たちの話を非常に真剣に聞いてくれたのですが、とんでもなく恐ろしいことが起きているかもしれないと思った。それは政治家さんの情報チャンネルが限られていたこと」
その日本の政治は漂流している。「霞が関に権益が集中して、もはや日本が動かなくなってきている。特に麻生(太郎首相)さんをはじめ政治家が官僚に頼り切りです。国民が政治家を操縦する形ではなくて、霞が関が政治家を操縦する事態になっている。議院内閣制の本義は、国民が議員を選び、議員が構成する議会が首相を選び、首相が大臣を選び、大臣が指名職の官僚を選び、指名職以下にキャリアとノンキャリアというのが権力の流れです。しかし、日本の場合は、官僚に操縦された政治家がまた官僚を指揮している。結局、官僚のお手盛りになっている」
自民党はどうだろう。「自らの集票の母体であったはずの人のつながりを自民党自身が壊してしまいました。20年以上前の竹下内閣の時から始まったレジーム(制度)です。米国の言うことを聞くと、国土を疲弊させ、共同体を疲弊させ、地方を疲弊させ、農業を疲弊させるという構造は、もはや多くの人の目に明らかです」。自民党が戦後の経済復興を成し遂げ、米国に追随する形ながらも冷戦体制下で国際的な地位を保ち続けたことは評価しつつも、だ。
自民党から次期衆院選への出馬要請を受けた宮崎県の東国原英夫知事が、総裁候補とすることを条件にしたことが報じられたが、こうした「地方からの反乱」も、「中央への集権体制が地方の疲弊に帰結した歴史的な事実を背景にした当然の動きだ」と宮台さんは言う。
…●…
宮台さんは今年度は大学で授業を開講せず、有給の長期休暇を取った。一方で私塾を開いて「日本戦後思想と郊外論」などを講義する。
意外にも、長期休暇をとった理由は子育てだった。もうすぐ3歳になる長女に続いて、7月下旬には第2子が誕生する予定だ。「長女が生まれて不安だったのは、雑事に追われて研究時間が減ることだった。確かに研究時間は3割ほど減った。それが僕には致命的な苦痛になると思っていたけれど、まったく苦痛ではなかった。3割の能率が落ちるぐらいなら、何の問題もない」。周囲からは「結婚して、子どもを作って、子煩悩になるのは宮台らしくない」とも言われ、一部の読者を失ったと指摘された。でも、「失う読者がいれば、増える読者もいる。どうってことはない」。強く言い切った。
「どこにでも移動する、給与の高い会社にならどこにでも転職する。そんな行動原理を日本の全員が共有すれば、みんなに対するコミットメントを作り出す社会的な装置が消える。もし自分の住む場所が不便であれば、離れるのではなく、住む場所を便利にすることが重要。どこにでも移動することで、それで一人寂しく死なないことができるのか。不安にならないですむ、包摂されていると感じるものを失ったという非常に悲劇的な現状に気がつくんですよ」
宮台さんが社会学を学ぶきっかけとなった民俗学者の柳田国男によれば、かつての日本でコミットメントを作り出していた社会装置「ホームベース」は村落などの共同体だったという。英国ではビクトリア朝的伝統、各国にも市民宗教、血縁主義などが今も根付く。
「自分の胸に手をあてて考えろ、ということです」。郷愁をも覚えるフレーズが聞こえた。
「ものごとの優先順位を正しく理解しなければならない。基本は、生きづらさ、実りのない感覚が、そもそもいつから、どう展開したかを理解すること。もはや、どの政党を選ぶか、政策をどうするかという小手先の問題ではまったくない。自分たちが幸せなのか、そもそも自分たちは誰であって、自分が命がけでコミットできる対象とは何であるのか。逆に言えば、自分に命がけでコミットしてくれる人がいるのか、いないのか」
カラスがけたたましく鳴き始めた。カアァー、カアァー、カアァー、と。1年で最も日が長いこの時期も、夕暮れが近い。昔からカラスが鳴いたら、うちに帰ると決まっている。
緻密(ちみつ)で難解、かつ鋭い言葉で社会を突き刺すミヤダイ。「じゃあ」と言い残し、するりと赤坂の雑踏に消えた。今日もまた自らのホームベースの核になる家路につくのだろう。
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■人物略歴
◇みやだい・しんじ
1959年、宮城県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。首都大学東京教授。著書に「14歳からの社会学」(世界文化社)、「<世界>はそもそもデタラメである」(メディアファクトリー)、「制服少女たちの選択」(朝日文庫)、「終わりなき日常を生きろ」(ちくま文庫)など多数。近著に「日本の難点」(幻冬舎新書)。
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ファクス03・3212・0279
毎日新聞 2009年6月29日 東京夕刊
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