郵政民営化推進
派のまきかえし オリックス不動産への「かんぽの宿」の売却をめぐる手続き上の不透明さが公然化して以来、「日本郵政」問題は通常国会の政治的焦点に浮上した。それは小泉政権を頂点として自公政権が押し進めてきた新自由主義的経済政策の賛否を問う課題だからに他ならない。
今年二月、麻生首相はいつもの「軽さ」で「郵政民営化に賛成じゃなかった」と述べ、四分社化の見直しにつながる「郵政株式処分凍結法案」の提出までほのめかした。それは経済危機―世界的不況の中で、小泉―安倍―福田のもとで進められた新自由主義的「改革路線」に対する社会全体の不満、自民党内にも広がる動揺をみて政策の舵を切り直そうとする総選挙を意識した麻生なりの思惑によるものであった。「派遣切り」「完全失業率の五％超え」、そして「年越し派遣村」の与えたインパクトはそれ程強烈であった。
だが麻生政権を支えている土台は、四年前小泉のもとで手にした郵政総選挙で得た巨大な議席である。この結果、与党内に「改革・民営化の見直しか民営化の推進か」をめぐる対立が一挙に公然化し、政官財を巻き込む様相を帯び始めた。
五月十七日、総務大臣鳩山邦夫は全国郵便局長総会で「国民共有の財産を無にする絶対に許し難い行為だ。正義感を持って闘い抜く」とぶち上げた。これを受けて西川善文・日本郵政社長は六月十日の衆院決算行政監視委員会で「民営化の土台をしっかり築くことが私に与えられた責務」と発言した。こうして対立は引くに引けない与党内の政治選択問題となった。
財界の意を受けた牛尾治朗（ウシオ電機会長）を委員長とする日本郵政の社外役員でつくられている指名委員会は只ちに「西川の続投」を決定した。これに連動するように自民党内の中川秀直元幹事長や塩崎元官房長官らは「民営化推進のために鳩山を辞めさせるべき」と公然と麻生にせまり、郵政民営化の立て役者の一人でもある竹中平蔵も「公社の総裁と日本郵政の社長は違うですよ。『公社』は……日本郵政は民間企業ですから」とマスメディアを使い援護発言を繰り返した。
逆に麻生の意見を代弁していると自負する鳩山総務相は「正義」という言葉を連発しながら「西川社長に感情的なものを持っているわけではない。西川社長をどんなに尊敬していたとしても監督官庁としては認めるわけにはいかない」と衆院総務委員会で厳命した。六月十二日麻生は官邸を訪れた鳩山に辞職を勧告した。「信念を曲げられないと言うことなので、残念ですが、やむをえない」。 「かんぽの宿」
問題の本質は 「かんぽの宿」で発覚した一連の事実は、郵政民営化が内包している政治的利権的性格が凝縮されている。そもそも「かんぽの宿」は旧簡易生命保険法によって利益を上げたり利益をめざして経営してはならないと定められている。そのために決算段階で土地や建物の評価を低くしたりして「利益」が出ないように会計報告がされていたのである。
日本郵政はそれを逆手に取って不採算事業としてオリックス不動産に売却しようとしたのである。まさに「赤字」が口実として利用された。それもオリックスに優先交渉権を与え、入札もせずに、その上土地の取得と建設に二千四百億円も投入した国民の財産を二十分の一の百九億円である。
このやり方は今回初めてではない。〇四年度、〇五年度、〇六年度の計三回にわたって全く同じ手口でコスモスインシア（旧リクルートコスモス）一社にだけ全物件を売却している。日本郵政は「売れ残り」が出ないように一般入札によるバルク（一括売却）を行ったと発言しているが、〇六年分だけでも二年もたたないうちに物件の七割が転売されている。〇四年度からの調査報告が出されれば数字は八〜九割になるのは明白である。二十一億円と言われた指宿簡易保養センターや十二億円と資産評価された鳥取岩井簡保センターはそれぞれ一万円でバルクセールされたのである。
日本郵政が保有する簡易保養センターやかんぽの宿、さらにスポーツセンターなどの総資産は数兆円である。しかし郵貯・簡保が今日保有している金融資産は三百四十兆円に達する。郵政民営化の核心はこの三百四十兆円を「国」のくびきから解き放ち、日米金融資本がそれをさん奪しようとする点にある。アメリカのメルリリンチ、ゴールドマンサックスなどのファンドだけが「ハゲタカ」ではない。新たにつくられた「トラスティ・サービス信託銀行」は、すでに旧勘定で三百四十兆円の約三分の一にあたる百三十兆円の管理業務を引き受けている。この耳慣れない「トラスティ・サービス信託銀行」は、住友信託、中央三井トラスト、りそなの三行が、それぞれ三分の一の株式を保有し、三百四十兆円の運用のためにのみつくられた銀行である。「かんぽの宿」問題を郵政民営化の本丸である郵貯・簡保問題に波及させず、「鳩山辞任」を演出した実際の「力」はこれである。
日本に郵政民営化をせまったブッシュやウォール街のファンドが自国アメリカでは郵政事業の「全国一律のユニバーサルサービス」の問題をたてに民営化しないのは、投資の対象になる「ポストバンク」が存在しないからである。
日本郵政の「社長人事」は三百四十兆円をめぐる攻防であり、それが故に一挙に政官財を巻き込んだのである。日本郵政の経営人事を見るとそれは一目瞭然である。グループの中心である日本郵政の社長西川は元三井住友、四分社の一つ日本郵便の北村憲雄会長は元トヨタ、郵便局の川茂夫会長は元イトーヨーカ堂、ゆう貯銀行の古川洽会長は元三菱商事、かんぽ生命の進藤文介会長は元東京海上日動システムという形で「オール財界」がシフトされている。 西川続投支持
したＪＰ労組 すでに述べたように麻生は首相に就任後一貫して「改革」推進派と「是正」派の双方に足を置きながら「国会解散―総選挙」の機会をうかがってきた。だが麻生は日本郵政の社長人事で「泣いて馬謖（ばしょく）を暫る」というつもりで鳩山を辞任させた。だが歴史の「馬謖を暫る」とは違って麻生の支持率は一層低下し、目論見はみごとにはずれた。麻生は鳩山に「西川後の候補リスト」を送っていたことが暴露されたし、国民は自らの政治的延命のために鳩山の首を切ったことを見抜いていた。麻生に残された時間は三カ月を割り、「得意」の引き延ばし作戦も通用しない。最早「内閣改造」も人気を回復させる手段とはならないばかりか国民が不満の中心にあげている「新自由主義派本隊」の神輿を選んだのである。
他方「政権交代」を叫ぶ民主党は「国会解散」をあらゆることに優先させ、「バラ巻き」予算に対しても一切追及できず、「海賊対処」派兵新法や衆院憲法審査会「規程」の強行採決を許した。前代表小沢の西松献金問題でのつまづきはその構造に拍車をかけた。民主党の一連の対応が明らかにしているのは、民主党の政治的路線が新自由主義や戦争のできる国家づくりに真っ向から対決できないばかりか、内部に自公政権と同様の路線を持つ集団が多数存在していることを明らかにしている。
これを裏付けるように派遣法の改正をめぐって電機労連や自動車総連は資本・企業と一体となって抵抗し、今回の「人事」問題でも同じような政治的態度を取っている。「日本最大の単一労組、日本郵政グループ労働組合（ＪＰ労組、約22万９千人）の山口義和委員長は六月十六日、仙台市内で記者会見し、麻生太郎首相と鳩山邦夫前総務相の意見対決で焦点になった……『労組としては継投に大歓迎』だ……労使一体となって経営課題に取り組むことが大切と述べた」（共同通信６月16日）。現在選挙戦のただ中にある静岡県知事選でも連合静岡は、静岡空港に反対する知事候補を最後まで認めず「空港賛成派」を民主党候補としてごり押しした。
今日日本郵政グループにおける非正規職の比率は五〇％に近い。郵便局のゆうメイトは年々増加し続け今や二十万四千人を超えている。時間制契約労働者の平均時給は九百九十円で、一日八時間、週五日勤務としても年収は二百万円である。低賃金で働かされる「ワーキングプア」が民営化が進む郵政事業を支える構造になっている。「郵政民営化」とは、一方で三百四十兆円という「国民の財産」をハゲタカに供し、他方では「ワーキングプア」と「派遣切れ」的な雇用構造を拡大するものに他ならない。
民主党の基本政策は格差と貧困の増大を押し進める新自由主義と対決できないばかりか、自公政権と同様大企業を支え優遇する政策においてはなんの違いもない。われわれの課題は麻生の自公政権の打倒であると同時に新自由主義と戦争のできる国家づくりと対決する新たな政治潮流の形成である。 （松原雄二）
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題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。