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足利事件菅谷さん釈放麻生首相の不熱意発言(植草一秀の『知られざる真実』)
http://www.asyura2.com/09/senkyo64/msg/688.html
投稿者 クマのプーさん 日時 2009 年 6 月 05 日 15:31:22: twUjz/PjYItws
 

http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/post-3646.html

2009年6月 5日 (金)
足利事件菅谷さん釈放麻生首相の不熱意発言


「栃木県足利市で1990年、保育園女児=当時(4)=が誘拐、殺害された事件で無期懲役が確定し、再審請求中の菅家利和さん(62)が4日午後、服役先の千葉刑務所から釈放された。91年12月の逮捕から17年6カ月ぶり。東京高裁は今後、再審開始を決定する見通し。」
(共同通信配信記事2009年6月4日23時09分)


 無期懲役の刑が確定し、刑の執行中にあった菅谷利和さんが釈放された。心から祝福申し上げたい。しかし、失われた17年6カ月は戻ってこない。


菅谷さんが釈放されたのは、再審請求審で弁護側、検察側がそれぞれ推薦した鑑定人2人が先月、女児の肌着に残った体液のDNA型と菅家受刑者の型について、いずれも「DNA型が一致しない」とする鑑定結果を高裁に報告したことによる。


以下、朝日新聞配信記事から引用する。


「東京高検は4日、女児の肌着に残った体液のDNA型と菅家受刑者の型が一致しないとするDNA型の再鑑定結果を受けて、「新鑑定が無罪を言い渡すべき明らかな証拠にあたる可能性が高いと判断した」とする意見書を東京高裁(矢村宏裁判長)に提出した。あわせて菅家受刑者の刑の執行を停止する手続きを取った。この意見書により、再審が始まることは確定的になった。」


菅谷さんは4日に開かれた記者会見で、取り調べの模様を次のように述べた。


「2件の女児殺害事件を認めたのも、刑事に無理やり体を揺さぶられて「おまえがやったのは分かっている」と言われたから。髪を引っ張られたり、足でけ飛ばされたりもし、どうにもならなくなって「やりました」と言ってしまいました。」
(河北新報2009年6月4日)


菅谷さんは6月4日夜の日本テレビ「NEWSZERO」に生出演した。菅谷さんは、いま一番やりたいことの質問に対して、
「同じような状況で苦しんでいる方のために力になりたい」
と話された。


フランス人権宣言第9条
「何人も、有罪と宣告されるまでは無罪と推定される。ゆえに、逮捕が不可欠と判断された場合でも、その身柄の確保にとって不必要に厳しい強制は、すべて、法律によって厳重に抑止されなければならない。」


に示される「無罪推定の原則」。


 「推定無罪の原則」がデモクラシーの根本原理の一つであるが、これを言い換えたものが、


「10人の罪人を逃しても、1人の無辜(むこ=無実の人)を処罰することなかれ」


の言葉である。「無辜(むこ)の不処罰」と呼ばれる根本原則だ。


 ネット上にある「無辜の不処罰」コラム記事から、重要な指摘を転載する。


「「無罪推定の原則」や「防御(ぼうぎょ)権の保障」など近代刑事手続きの諸原則はこの原点を実現するためと言ってよい。それゆえ、現代の刑事手続きが語られる場合にしばしば引用される重要なことわざである。


ただ残念なことに、日本では、警察や検察はもとより裁判官や多くの法学者が、このことわざを本当に重要なものと考えているとは思えない。ある裁判官は、無罪判決を出す時に「犯罪者を取り逃がすことになったら」と心配するそうだ。「野放しの犯罪者が犯罪を繰り返したらどうする」と詰め寄られた時に、「それでも無実の者が処罰されるよりましだ」と言い切る者が何人いるだろうか。


それどころか、日本の現状は、「処罰された者が無辜ではあってはならない」とこのことわざを転倒させ、再審の門を固く閉ざして誤判の訂正と無辜の救済を拒否している。


国家権力の規制を目的とする憲法の下に刑訴法(けいそほう=刑事訴訟法)が存在する以上、その目的は「犯罪者」をいかに効率良く処罰するかではなく、十分な証拠もなしに片端から犯人扱いしかねない国家に、でたらめな処罰させないということでなければならない。だから、検挙率や有罪率の高さは日本の刑事手続きの欠陥を示しているのだ。


しかし、日本の刑事手続きの関係者は、そうは考えず、より効果的な捜査のためと称して、警察の拷問的取り調べや職務質問の強制、盗聴など違法な捜査手法を次々に合法化し、防御権を踏みにじってきた。その彼らに、このことわざを語る資格があるだろうか。」

(ここまで転載。太字は本ブログによる。)


法律の専門家の言葉であるようなので、一般の人にはやや難解な部分があるが、極めて重要なことがらを指摘をしている。


無実の人間に罪を着せ、刑罰を科すことはあってはならないのである。しかし、冤罪は後を絶たない。日本の民主化、近代化を考えるのなら、警察・検察・司法の近代化を何よりも優先しなければならない。


菅谷さんに向かって多くの人が「おめでとうございます」の言葉をかけるが、何とも言い表せぬ複雑な思いがする。菅谷さんも「うれしい。良かった」と語るが、記者会見でもふと現実を振り返ると、言葉に表せぬ怒りがこみ上げてくるのが伝わってくる。


「釈放」や再審での無罪確定は、取り返しのつかない「巨大なマイナス」を「ほんのわずかに穴埋めする」ものであって、菅谷さんから奪い取った「巨大なマイナス」に比較すれば、まさに「大河の一滴」にしか過ぎない。


富山でも冤罪事件が明らかになった。このケースでは、刑の執行が終了した後に冤罪が明らかにされた。


菅谷さんがテレビ番組で「同じような状況で苦しむ人のためになりたい」と述べられたが、菅谷さんの「他者を思う心」に心を打たれた。「冤罪」は決して許されないとの強い思いが湧き上がるのだと思う。


「想像力」という言葉があるが、状況を変えるためには、すべての人が「想像力」を持つことが必要だ。


拙著『知られざる真実−勾留地にて−』プロローグに「想像力」について書いた。映画監督の山田洋二氏の言葉をひいた。


「一言で言えば想像力。想像することは、つまり思いやること」


「たとえばイラク戦争の空爆で死んでいく子どもや女性たちがどんなにつらい思いをしているのか。想像することは、つまり思いやること。いまの時代、注意深く相手を観察する能力がとても欠けていると思います。」


 冤罪はこの世に存在する「過ち」のなかでも、見落としてはならない重大な「過ち」のひとつである。人口に対する発生率が小さいから、経験者の力だけではどうにもならない。すべての人が想像力を働かせて、仕組み、制度を変えなければ事態は変わらない。


 取り調べ過程を完全録画、あるいは完全録音する「取り調べの全面可視化」の要請は、この問題意識から生まれている。民主党は「取り調べ全面可視化法案」を国会に上程し、4月24日、参議院で可決された。


 しかし、自民党は反対している。上記「無辜(むこ)の不処罰」のコラム記事の表現を用いれば、
「効果的な捜査のためと称して、警察の拷問(ごうもん)的取り調べや職務質問の強制、盗聴など違法な捜査手法を次々に合法化し、防御権を踏みにじる」
ことを容認する姿勢が感じられる。


6月4日のぶら下がり記者会見で麻生首相は次のように述べた。朝日新聞配信記事から転載する。


――総理、この件を受けて、冤罪防止のためにさらなる取り調べの可視化を求める議論が強まると思いますが、総理のお考えをお聞かせ下さい。

 
麻生首相「あ、可視化が、かの、必ずしも、それにつな、可視化にしたからといって途端に、あの、よ、それが良くなるという感じはありません」


――総理、そうは言っても、無実の人が捕まって刑に服することはあってはならないことだと思いますが…。

 
麻生首相「それ今答えた通りです」


――そういった国家のあり方を考える上で…。

 
麻生首相「国家のあり方ってどういう意味です?」


――冤罪が起きないような国にするために、総理は被疑者の言い分や自白がちゃんと録音されている可視化というのは必要だと思いませんか。

 
麻生首相「僕は、基本的、基本的には、一概に、可視化すれば直ちに冤罪が減るという感じがありません」


(ここまで転載)


 「可視化すれば直ちに冤罪が減るという感じがしない」が、可視化に「反対する」理由になると考えているのだろうか。


 全面的な「可視化」は欧米諸国だけでなく韓国、香港、台湾、モンゴルなどでも導入されている。「可視化」は人権に配慮したうえで、「被害者」や「目撃証人」にも適用されなければならない。被害者や目撃証人の供述調書がどのように作成されたのかが、事実認定での重要な判断要因になる場合があるからだ。


 「国策捜査」、「冤罪」について、広く「真実」が伝えられる必要がある。そのうえで、制度、仕組みを根本的に改める必要がある。


 DNA鑑定に関連して、見落とせないもうひとつの重大事案がある。詳細については、改めて記述したいが、被疑者が一貫して犯行を否認し、無罪を主張したにもかかわらず、DNA鑑定が決め手となって死刑が確定した「92年飯塚事件」である。


被疑者が無実を訴え続けるなかで昨年10月28日、死刑が執行されてしまった。


 DNAの鑑定方式は足利事件と同じMCT118型だった。「週刊現代2009年6月13日号」が詳しく伝えている。事件があったのは福岡県飯塚市、麻生首相のお膝元である。


 私は当事者でもあるが、無辜の人間に罪を着せ、罰することは決してあってはならない。

 

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