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「裁判員制度の意義を問う」で伝えられなかった重要な事実―NHK「クローズアップ現代」の不可解な論理(JANJAN)
http://www.asyura2.com/09/senkyo63/msg/597.html
投稿者 クマのプーさん 日時 2009 年 5 月 19 日 16:14:50: twUjz/PjYItws
 

http://www.news.janjan.jp/media/0905/0905183639/1.php

NHK「クローズアップ現代」の不可解な論理
「裁判員制度の意義を問う」で伝えられなかった重要な事実

                       岡田克敏
                                   2009/05/19
 「なぜ私たちが法廷に〜裁判員制度の意義を問う〜」
 これは5月14日のNHK「クローズアップ現代」のテーマです。「クローズアップ現代」は優れた番組が多いのですが、残念ながら今回の番組は内容に問題があるように思いました。

 番組はまず裁判員として参加したくない人が58%もある現状を示し(制度が必要ないと思う人も6割)、裁判員候補に選ばれた人の不安や悩みを具体的に取り上げます。「求められる市民感覚とは何なのか」「残酷な証拠に耐えられるか」「恨まれる恐れはないか」「カレー事件のように状況証拠だけで死刑の判断を迫られる難しさ」などが紹介されます。

 次に、これらの不安や疑問に答える形で、米国の陪審員制度の事情が紹介されます。ここでは陪審員は地域社会への奉仕であるということが強調されます。ある重要事件の4ヶ月間にわたる裁判で100人を超える証言、900件の証拠をノートに記していた陪審員のリーダーは地域社会への貢献を誇らしげに語ります。

 しかし、陪審員制度の意義を地域社会への貢献とする米国の事情が日本に適用できるかも疑問ですが、番組は米国の重要な事実を伝えていません。以下は第30回司法制度改革審議会配布資料よりの引用で、興味深い事実が書かれています(米国では被告は陪審員制の裁判と職業裁判官による裁判を選択する権利が与えられています)。

 「アメリカ、イギリスにおいても、陪審裁判が行われている事件は極めて限定されている。アメリカにおいては、民事について、連邦地方裁判所において陪審裁判により終局した事件の全終局事件に占める割合は1.7%、刑事について、陪審裁判により終局した事件の全終局事件に占める割合は5.2%である。また、イギリスにおいては、民事について陪審裁判に付されている事件は、高等法院において1%未満、県裁判所において0.1%未満であり、刑事について陪審裁判により処理されている事件は全刑事事件の1%にも満たない」

 「イギリス・フランス・ドイツの各国はいずれも、絶対主義の下での権力者の統治に対する対抗手段として、また、アメリカはイギリスの植民地支配に対する対抗手段として、それぞれ陪審制度を導入したものである」

 つまり米国の陪審員制度は広く支持されているとはとても言い難く、刑事事件で陪審員裁判が行われるのは20件中の1件に過ぎません。意図的かどうかはわかりませんが、この重要な事実を伝えずに、見習うべき手本のように意義を語るのは適切ではないでしょう。また英国や米国の陪審員制度導入の理由は日本とは根本的に異なっているとされており、意義が同じではないことを示唆しています。

 ゲスト解説者は裁判員制度を題材にしたミステリーを書いたという夏樹静子氏でしたが、この人選にも疑問を感じます。裁判員の意義は裁判に市民感覚を持ち込むことだと主張する一方で、裁判を難しく考える必要はなく検察側の立証ができているかを見きわめるだけでいいと発言されています。立証の見きわめは論理の問題であり、そこに市民感覚を持ち込むというのは凡人にはちょっと難しい話です。

 また一生に1回あるかないかのことだが、裁判員に参加することによって社会をよくしようとする気持ちが出てきて社会が変わってくることに意義があるとしています。この意義があるとすれば裁判員になる回数は大きい意味を持ちますが、回数は一生に1回どころではありません。年間6000人に1人ですから一生に一回だとすると6000年も生きなければなりません。一生に1回あるかないかを50%の確率と考えれば3000年となります。裁判員になれる期間は50年ほどですから夏樹氏の話には60倍ほどの誤差があります。つまりその意義は60分の1程度になるわけです。

 番組を概観すると、前半の裁判員になることの不安に対して、後半は不安に答えるというより、適切とは思えない米国の例をとって裁判員は社会の義務であり、やらなければならないことだと強調する構成になっています。「裁判員制度の意義を問う」という表題から予想される意義に対する問いかけはほとんどなく、逆に制度を肯定する内容となっています。羊頭狗肉と言ってよいでしょう。

 今回はたまたま情報の欠落に気づいたわけですが、一般に情報が伏せられた場合、視聴者・読者がそれに気づくことは大変難しく、情報の受け手側の立場の弱さというものを改めて感じた次第です。
 

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