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2009-05-18 - 【海難記】 Wrecked on the Sea
「友愛」と「第三の道」は同じか〜続・民主党代表選に思う はてなブックマーク - 「友愛」と「第三の道」は同じか〜続・民主党代表選に思う - 【海難記】 Wrecked on the Sea CommentsAdd Star
鳩山由紀夫の最大の謎は、「友愛」への執着である。そのルーツが祖父の鳩山一郎ではなく、戦前の欧州統合運動の主導者だったクーデンホーフ=カレルギーにあることを先日書いたが*1、鳩山由紀夫の説明では、「友愛」はフランス革命時のスローガン「自由・平等・友愛」のひとつである、ということになる。そのままでは対立しかねない「自由」と「平等」をつなぐのが「友愛」だというのだ。
でもそれは、クーデンホーフ=カレルギーの思想とはややずれている。ネットで調べた限りでは、クーデンホーフ=カレルギーの思想の基本にあるのは反フランス・反国民国家であり、旧ハプスブルグ帝国の領土=「中欧」を中心としたヨーロッパの「統合」であるからだ。だからクーデンホーフ=カレルギーはナチスの勃興に対抗するためにオーストリアのファシスト勢力や、ムッソリーニとさえ提携しようとした。
もし鳩山由紀夫のいう「友愛」が、クーデンホーフ=カレルギーの思想とはまったく切り離されたもので、行き過ぎた自由主義でも、極端な平等主義でもなく、そのバランスをとるものとしての「友愛」にある、というのなら、それはイギリスの労働党がブレア政権のもとでとった、アンソニー・ギデンズのいう「第三の道」と似てくる。もし鳩山由紀夫が、今後の日本の進む道を「第三の道」と規定してくれれば、もう少し議論がわかりやすくなるのだが、そう言わずに「友愛」というから、まったく議論(対話)が不可能になるのである。*2
いまの民主党は、旧民主党と旧自由党の合併で生まれた。小沢一郎が率いていた旧自由党は、その名のとおり「新自由主義」の政党だった。旧民主党は新党さきがけと社会党右派の合併で生まれた。社会党右派は民主党における「平等主義」(=労組依存)勢力であり、新党さきがけは菅直人の体現する「市民派」(旧社会民主連合)と、鳩山由紀夫という「個人」(鳩山家というスポンサー)の連合だったと理解できる。
新しい民主党執行部を見るとわかるが、民主党はいまだにこの4つの要素からできていて、相互の融合はまったくすすんでいない。鳩山由紀夫(スポンサーとしての鳩山家)、菅直人(市民派)、興石東(社会党右派)、小沢一郎(旧自由党)の4勢力である。岡田克也とその支持グループは、このいずれにも依拠しない新しい政治勢力だったから、すべてのグループから警戒されている。そのなかでの95票という得票は、きわめて大きいと私は思う。
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ところで、こうしてみると鳩山のいう「友愛」は、どう考えても「第三の道」とは異なる理念だとしか思えない。むしろ岡田と同様、既存の政治勢力(労組、新自由主義、市民派)のいずれにも依拠できない鳩山が、それこそ白樺派的な観念でぶちあげた、まったく現実に根ざさない妄想だったはずだ。
その程度の意味しかなかった「友愛」が、昨今の「格差社会」論の高まりのなかで、弱者救済の社会政策論としての新たな顔を見せるようになった。少なくとも、「友愛」という言葉をそのように使える、という判断を誰か利口な議員が入れ智恵したのだと思う。
代表就任後のテレビ出演で、鳩山由紀夫は田原総一郎に「友愛というのは社会民主主義という意味か」と問われ、即答できなかった。即答できないということは、そうではないということで、鳩山のなかではたぶん「第三の道」という発想もないだろう。政治記者はそのあたりをつっこんで取材して記事にしてほしい。
「第三の道」が日本でうまく機能するかどうかは分からないが、岡田克也が代表になったほうが、民主党は「第三の道」的なコースを辿りやすかったと思う。代表選での演説でも、「官僚批判」しかしなかった鳩山にくらべ(党内融和が最優先の鳩山が安心して批判できるのは、そこだけだから)、自身も元官僚である岡田は、「官僚には働いてもらう」とはっきり言っていたし、官僚と一般公務員は別だとも言っていた。また、今後は人に投資する必要があること、新産業を立ち上げる必要があることなど、政策も明解だった。ここから日本的な「第三の道」政策のパッケージができてくるはずだ。
鳩山由紀夫は、いわば民主党の「象徴天皇」のような存在なのだと思う。今回の鳩山の代表選出は、混乱した党内を収集するための、一種の「天皇親政」なのだ。小沢一郎という実質的「権力」と、鳩山由紀夫という「権威(財源?)」の二重体制がこれまでの民主党だとしたら、今後は小沢ではなく岡田克也が幹事長として実権を握って、鳩山はその動きをしやすくする立場に回ればいい。
岡田の幹事長就任がそのことの現れで、民主党の脱小沢化、次期岡田代表への地ならしということができるなら、鳩山の代表就任も、過渡期的な措置としてはよいと思う。でも、小沢と岡田の間にある溝はそうとう大きそうで、総選挙の結果次第では小沢の脱党・政界再編もありうる、という政治評論家の観測には、不気味なリアリティがある。*3
私としては、そろそろ小沢一郎には政界を引退してもらいたい。「言葉」のない政治家は、いくら政治屋として豪腕でも、有権者の支持をうけることはない。西松建設問題への国民の批判は、「金を受け取ったこと」に対してではなくて、それについての「説明がないこと」に対してであるのを小沢周辺は見誤っている。
いまは小泉時代の新自由主義政策への批判が花盛りで、そのためにポピュリズム政治に対する批判も高まっているが、私はポピュリズム政治というあり方も、いちがいに批判できないと思う。有権者自身が、ポピュリズムにもとづいた過去の投票行動を反省し、次の投票で誤らないようにすることのほうが、既得権をもつ者同士の合従連衡の繰り返しより、ずっと大事だと思うのだ。なぜならポピュリズムという選択肢は、現状の政治的勢力のなかに代表をもたない者、つまり既得権をもたない者にとっての、棄権に代わる唯一の選択肢なのだから。
ポピュリズムを煽るのはつねにメディアであり、メディアを抜きにしたポピュリズムはあり得ないから、ポピュリズム政治への有権者の自己批判は、メディア批判にもつながる。そういうレッスンを、日本人はしばらくしたほうがいい。
今回の民主党の代表選は、見事に「既得権をもつ者同士の合従連衡」だったけれど、民主党はまもなくポピュリズムの洗礼を受けることになる。そのときに鳩山由紀夫から出る言葉が「友愛」でしかないようなら、やはり彼も、「言葉なき政治家」ということで、いつか退場を迫られることになるだろう。
*1:「愛なき世界のほうがまし」http://d.hatena.ne.jp/solar/20090515 言うまでもないが、「言葉なき世界」よりは、ということ。
*2:逆に鳩山の考えがクーデンホーフ=カレルギーを引き継いだ反国民国家、国家を越えた広域統合にあるならば、さらに突っ込んだ説明が求められる。祖父の鳩山一郎の場合、玄洋社との関係も深く、クーデンホーフ=カレルギー的な広域統合思想への傾倒も理解できるが、それはようするに大アジア主義である。鳩山由紀夫はすでに外交面でアメリカ一辺倒から距離を置くという発言をしているが、その真意やいかに。鳩山のアジア外交観についても取材してほしい。
*3:そもそも小沢は過去の自分の「新自由主義」的な主張をどのように総括しているのか。2005年の総選挙で岡田が率いた民主党が小泉自民党に大敗北した後に書かれたこのブログの分析は、次期衆院選の帰趨を占う上でも重要だと思う。http://cityscape.air-nifty.com/cityscape_blog/2005/11/post_21e1.html
http://d.hatena.ne.jp/solar/20090518#p1
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