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2009年4月20日 (月)
環境でなく自動車産業に優しい「エコカー」補助金
麻生内閣が4月10日に決定した「経済危機対策」。
定額給付金に続き、総選挙向け買収政策とも言える3.6万円の子育て支援政策など、典型的な「バラ撒き」政策が並んでいる。民主党の政策からの盗用と見える施策も多い。
政策の多くは「1回限り」の政府資金支出である。政府資金を「ばら撒いて」総選挙での投票を誘導しようとするものだろう。しかし、その資金は麻生首相が私財を投げ打って捻出したものではない。政府が借金をして賄うもので、。将来の国民の負担で賄われる。
「将来」も、遠い将来ではない。今年度が2009年度。2年後は2011年度だが、政府は2011年度にも大型消費税増税を計画している。5%の消費税が10%に増税されると、12.5兆円程度の増税になる。「目くらまし」政策に騙されてはならないと、私は強く思うが、有権者は正確に事態を把握しているだろうか。
誰も頼んでいない「バラ撒き」を実行して、「財政の健全性に責任ある対応を示す」のが責任政党の責務だとして、2011年度に税制の抜本的見直しを示す方針を示したことを、自民党は自画自賛している。
この「経済危機対策」の目玉政策のひとつが、エコカー購入に対する補助金政策である。「2010年燃費基準」を満たす新車に買い替える場合に、5万円から25万円の政府補助が支払われるというものだ。
「環境に負荷の小さな自動車を普及させる政策」との大義名分が示されているが、政策がもたらす効果をよく検討する必要がある。
「2010年燃費基準」を満たす自動車との線引きは、燃費の「絶対水準」による線引きではない。
燃費とは自動車のエネルギー効率を示す指標だ。燃費が良い車は、ガソリン消費を抑制し、CO2などの「温暖化ガス」の発生を抑制することになるから、「環境に優しい」ということになる。
燃費を示す基準にはいくつかの種類があるが、一般的な市街地や郊外を走行する場合の運転状況を基準に計測された燃費が「10・15モード燃費」である。具体的には、市街地を想定した10項目の走行パターンを想定したものが「10モード燃費」、これに郊外を想定した15項目の走行パターンを加えたものが「10・15モード燃費」と呼ばれている。
それでも、現実の走行と、「仮想状態」である「10・15モード」走行との間にはかい離があり、現実の燃費は「10・15モード」よりは、かなり悪いものになっているのが現実である。
最近話題になっている「ハイブリッドカー」では、「10・15モード」でのガソリン1リットルの走行距離が35Km(=35Km/l)程度と表示されているものがあり、従来の普通乗用車に比べて、燃費が大幅に改善されている。
2009年基準をクリアする自動車では、「10・15モード」燃費が40Km/lを超すものも登場すると言われている。
それでも、実際の走行では20Km/lから25Km/l程度の燃費効率が現実値であると言われている。
たしかに、自動車そのものを単純比較すると、「ハイブリッドカー」は「環境に優しい」ということになるが、問題は、望ましい結果を生み出すための政策対応である。
政府の施策は、「自動車の買い替え」を促進するものである。しかし、自動車を生産するために膨大なエネルギーがかかっている。この観点からすると、一度買った自動車は、できるだけ長期間使用することが「環境に優しい」ということになる。
今回の政策では13年以上経過した自動車の「買い替え」により多くの補助金が支払われることになっているが、そうでないケースでも補助金が支払われる。補助金が支払われる間に自動車を前倒しで購入する人が増えると、自動車の生産台数が増加して、トータルでは逆に環境に対する負荷が拡大することも考えられる。
もうひとつの大きな問題は、「2010年基準」を満たす自動車の購入に補助金が支払われるとの「線引き」だ。
大手自動車メーカーの最高級車種では、減税金額が50万円を超すものが登場する。この自動車の実際の走行における燃費は、確実に10Km/lを割り込んでいる。従来車種に比べて、あるいは、高排気量車のなかで「相対的に」燃費が良いというだけで、燃費の「絶対水準」は、極めて悪い自動車である。
政府の対応は、従来車種に比べて燃費効率が改善する自動車の購入を促進する政策であって、CO2などの「温暖化ガス」の排出量の絶対値を削減することを誘導するものになっていない。
自動車購入者が購入金額をあらかじめ決めている場合、政府の補助金で、ワンクラス排気量の大きな自動車を買えるようになり、ワンクラス上の排気量の自動車を購入すると、全体の「温暖化ガス」排出量は増加するかも知れない。
補助金付与政策によって自動車購入を促進されれば、自動車生産にかかるエネルギーを考慮すると、環境に対する負荷が拡大することも考えられる。
上述した50万円の減税を得られる自動車の価格は約1500万円である。高所得者ほどより大きな減税を得られる制度設計になっている。
政府が「環境負荷」を減少させることを考えるなら、政府補助金は「燃費効率」の「絶対値」を基準にして支払うことを決定するべきだ。
「10・15モード」燃費25Km/l以上
「10・15モード」燃費30Km/l以上
「10・15モード」燃費35Km/l以上
など、3段階、ないし4段階のカテゴリーを設定して、より燃費効率の良い自動車の購入には高い補助金を設定し、買い替え時期の短い場合には、ペナルティーを課すような設計を設けることが検討されるべきである。
だが、これらの自動車購入優遇政策を実施する前に、セーフティネット強化、経済的苦難に直面する多数の国民を救済する施策を、打つべきだ。麻生内閣の政策の最大の誤りは、政策の優先順位が間違っており、いま、真っ先に行うべき政策が盛り込まれていないことだ。
エネルギー効率の絶対値を基準に補助金政策を設定すれば、自動車購入者の行動は、低燃費車に誘導されることになる。その結果、CO2排出量絶対値の削減が誘導されるだろう。
しかし、麻生内閣はこのような制度設計をしない。理由は明白だ。このような政策を打ち出すと、高排気量の高級車が売れなくなるからだ。これまで、高排気量の高級車を使用していたユーザーが、低価格の低燃費車に乗り換える可能性が大幅に高まる。この行動は「環境対策」として望ましいが、自動車産業にとって望ましいことでない。
自民党が巨額の企業献金にとっぷりと浸かり切った「金権体質」の政党であることをこれまで指摘してきた。自動車業界から巨額の企業献金を受け取っている自民党に、「自動車産業に厳しく環境に優しい」政策を取れるはずがない。自民党の政策は「たとえ環境に優しくなくても自動車産業に優しい」政策にならざるを得ないのだ。
「高速道路1000円」政策も、昨年、ガソリン暫定税率が期限切れで廃止され、自民党が強引にこれを復活させたときに示した理由と完全に矛盾する。自民党は「ガソリン価格が下がるとガソリン消費が促進されて環境に悪影響が出る」と主張していたではないか。
「高速道路どこまで行っても1000円」政策は、ガソリン消費を促進する政策である。要するに麻生内閣には、政策の理念も哲学もないのである。
麻生首相の頭の中にあるのは、選挙での投票を誘導するための利益誘導と、巨額の政治献金を行う企業への利益供与政策だけだ。
「エコカー補助金」政策を「環境対策」と位置付けるのであれば、補助金支出の基準を「2010年燃費基準」から、「燃費の絶対値基準」に切り替えるべきだ。1500万円の環境に優しくない自動車購入に50万円の補助金を支出する政策を正当化する理屈は存在しない。
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