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http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090420dde012040013000c.html
特集ワイド:愚問ですが 東京地検特捜部と西松事件 「ヤメ検」郷原信郎さんに聞く
◇政治との結託、ない
各界に大きな影響を与えている西松建設による違法献金事件。では、検察の組織、政治資金規正法、国策捜査とは何なのか。ごくごく基本的なことも含め、かつて東京地検特捜部で捜査したことのある「ヤメ検」、名城大学教授で弁護士の郷原信郎さんに遠慮なく聞いた。【中山裕司】
◇行政の一員でも、遮断された「聖域」
◇虚偽記載にあたるか疑問
−−愚問かもしれませんが検事は官僚なのでしょうか。
郷原さん 検察庁は法務省に属する行政機関で、広い意味で政府の一員であることは間違いありません。一方で検察庁は捜査や訴追などの司法的権限を法務省から独立して行使できる独立機関です。
−−行政機関なのですね。
郷原さん 日本の検察は「厳正中立」「不偏不党」を極端に強調します。しかも、そこでの「正義」は検察内部で完結するものです。行政組織の一翼でありながら、外部と遮断された聖域みたいに扱われています。
−−政府が検察の捜査にかかわることはありますか。
郷原さん 外国での捜査共助では、政府の外交ルートで捜査を依頼する例はあります。また、捜査で行政庁に重大な影響がある場合は事前に告知することは否定できませんが、仮に政府が「この人を捜査しろ」といっても、指示に従うことはありません。
−−公正中立性はどのようにして担保するのでしょうか。
郷原さん 重大な事件であれば、最高検を頂点とするラインで慎重に判断するのが通例です。政治資金規正法違反や政治家の汚職などは権限の行使が大きな政治的影響を及ぼすので、公正中立の観点から客観的にチェックする必要があります。
■
−−ところで、郷原さんは西松事件の捜査を批判していますが、検察に何らかの思いがあるのですか。
郷原さん 検事としてのこれまでの現場での経験などから、言うべきことを言っているだけです。誤りを指摘されず、批判されない組織には向上は望めません。
−−政治資金規正法の専門家だそうですが、西松事件は違反にあたりますか。
郷原さん 今回のケースが政治資金収支報告書の虚偽記載にあたるか否か疑問です。この法律は寄付を行った者を記載することを定めているだけで、出資者が誰かを記載する義務はありません。今回の事件では西松建設ではなく、政治団体が寄付者と書いたことが虚偽記載にあたると地検は判断しました。とすると、外形的には寄付の行為を行っている政治団体が「寄付を行った者」に当たらないという理屈が必要になりますが、全国に何千、何万とある政治団体の中には政治献金のためだけに設立しているものや、自らで意思決定しない政治団体は山ほどある。これらを寄付者と記載すると、すべて虚偽記載になる。そう考えれば、どんな政治団体、政治家、政党支部にも罰則が適用できて、検察の権限に歯止めが利かなくなります。
−−検事は政権交代に気を使うものなのでしょうか。
郷原さん 個人レベルでは支持政党や選挙結果に対する願望が働いている可能性がなくはないかもしれませんが、検察が組織としてそのような意図を持って捜査するとは思えません。今回の事件はむしろ、上場企業の社長を形式犯で逮捕した西松事件を何とか政界捜査に結びつけようとする焦りから、通常なら立件しない事件をやむをえず立件した可能性が強い。その結果、これだけの疑念を持たれかねない起訴になったと思います。
■
−−民主の次は自民とも言われますが、二階(俊博・経済産業相)ルートは立件が難しいのでしょうか。
郷原さん 今までの報道を見る限りでは、事件の規模・悪質性や立証上の問題など立件することには疑問があります。立件を思いとどまった方がよいと思います。与野党のバランスをとればいいという考え方には賛成できません。小沢(一郎・民主党)代表の事件と同様の過ちを二階さんでも繰り返すべきではありません。
−−検察も国民の評価が気になるものなのでしょうか。
郷原さん 検察の捜査に不満を持った男が92年に検察庁の表札にペンキを投げつけた東京佐川急便事件から、検察は世論を気にするようになった。世論に迎合するような形で捜査を進めるケースが多くなりましたが、それに伴い特捜検察の捜査能力も低下しました。
■
−−民主党の有識者会議のメンバーですが、もしかして民主党の支持者ですか。
郷原さん 私が検察の捜査に批判的な意見を述べたことが、結果的に小沢代表に有利に働いて「小沢擁護論者」と思われているふしがあります。しかし、これは的外れです。現職の検事のころから、私は談合構造の問題と、それを背景にした政治と受注業者の癒着を徹底的に捜査してきた人間です。その立場から、ゼネコンから多額の政治献金を受けていた小沢さんの政治手法は個人的には支持しません。政治的にはニュートラルです。検察捜査の批判をしているのはまったく別の問題です。
−−国策捜査はあるのですか。
郷原さん ある政党が望む一定の方向の捜査を検察が行うことを「国策捜査」と言うならば、それはありません。しかし、誤った捜査が結果的に大きな政治的影響を及ぼしてしまうことはありえます。
−−つかぬことをお聞きしますが、検察官の仕事は楽しかったですか。
郷原さん 検事という仕事にめぐり合ったことの幸せを、長崎地検の次席検事として自民党長崎県連違法献金事件(02年)の捜査を指揮した時に実感しました。後輩にもそれを実感してほしいのですが、西松事件の捜査の現場はまったく逆だと想像します。捜査の方向性に確信が持てず、達成感も使命感もない。逆に社会からは批判を受けるという大変な状況だと思います。今の東京地検特捜部は、太平洋戦争中にガダルカナル島の山中をさまよった日本兵と同じような状態だと思います。一日でも早く今回の捜査を終結させ、反省や総括をして、特捜検察の再生を目指してもらいたいと思います。
−−恐縮ですが、幸せだった検事をなぜ辞めたのですか。
郷原さん 経験を生かす場が検察の中にはないと思ったことが大きな原因です。そこで、検察で得た知識や経験を別の分野に活用したいと考えたのです。
−−愚かな質問ばかりで失礼しました。
◇
「愚問ですが」は旬の話題について、渦中の人やその道のプロフェッショナルに話を聞きます。分かりやすさが身上の新シリーズ(随時掲載)にご期待ください。
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■東京地検特捜部が手掛けた主な事件
立件時期 容疑者・被告(肩書は当時) 容疑・罪名
76年 田中角栄前首相 外為法違反
(ロッキード事件)
89年 江副浩正・リクルート前会長 NTT法違反
(リクルート事件)
93年 金丸信・自民党前副総裁 所得税法違反
(東京佐川急便事件)
94年 中村喜四郎・前建設相 あっせん収賄
(ゼネコン汚職)
97年 酒巻英雄・野村証券元社長 証券取引法違反など
(野村証券利益供与事件)
01年 村上正邦・元労相 受託収賄
(KSD事件)
02年 鈴木宗男・衆院議員 あっせん収賄
04年 村岡兼造・元官房長官 政治資金規正法違反
(日歯連事件)
06年 堀江貴文・ライブドア社長 証券取引法違反
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■人物略歴
◇ごうはら・のぶお
1955年生まれ。東京大理学部卒。83年検事任官。東京地検特捜部検事、長崎地検次席検事などを経て今年4月から現職。著書に「思考停止社会」(講談社現代新書)など。
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