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小沢一郎民主党代表の公設秘書逮捕事件は、結局政治資金規正法違反による起訴だけに終わった。これは実質的には検察の敗北であり、小沢代表は威信を損なったものの、続投するようである。 今回の事件は、日本の民主主義の基盤がいかに弱いものかを改めて示した。最大の問題は、強制捜査権を持つ検察という官僚組織が、民主政治の方向をねじ曲げたという事実である。昔、ある検事総長が「巨悪を眠らせない」と大見得を切ったことがある。リクルート事件の捜査で竹下政権を退陣に追い込み、佐川急便事件で金丸信の脱税を暴いた検察は、その系譜に連なる小沢も巨悪の同類と思っているのかも知れない。 しかし、今回の逮捕容疑を見る限り、小沢を巨悪と呼ぶことはできないと私は考える。捜査の過程では、西松建設による公共工事の受注と政治献金の関連についての報道が相次いだ。しかし、それらはあくまで献金した側の主観の問題であった。仮に、小沢の秘書による入札妨害や斡旋があったなら、小沢の政治生命は終わりである。しかし、旧竹下派と検察の攻防を目撃してきた小沢は、自分や秘書の行動について、刑事事件にならないよう明確な一線を画してきたに違いない。 本来、民意によって決定すべき小沢という政治家の評価や政権交代の是非について、検察が国民の意識を操作し、政党政治の展開をせき止めた。そのことの責任を彼らはどう取るのだろうか。また、検察のリークをそのまま垂れ流した新聞やテレビの責任も重大である。 このように、法律論から見れば、事の本質は検察の暴走ということになるであろう。しかし、政治論として考えれば、単に小沢を免罪するという主張は立てにくい。半世紀を超える長期政権を倒す時には、様々な障害がつきまとうものである。それについて、権力の弾圧だと非難していても、活路は開けない。今回の攻撃をはね返すだけの胆力と知恵が民主党に求められている。 小沢献金事件によって、政局は奇妙な凪の状態に陥った。麻生太郎首相の人気は、この事件が起こっても上向かないが、ともかく一息ついた状態である。政府与党の指導者は、経済政策の決定を引き延ばし、政権の延命を図ろうとしている。このような手詰まり状態を打破するためには、民主党の側から積極的な動きが必要である。そして、資金疑惑でイメージを損なわれた小沢が代表の座にある限り、民主党の側からの動きには政治的な迫力やインパクトが伴わないことも、残念ながら事実である。 ここは、法律論とは別の、政治的判断が必要である。民主党のイニシアティブによって局面を転換するためには、まずリーダーを入れ替えることから始めるしかない。麻生政権の無能、無策ぶりは、この間何一つ変わっていない。野党の追及が止まったから、政権が長持ちしそうに見えているだけである。与党の政局引き延ばしに対して、民主党が何ら対抗する策を持たないならば、政治の空白に民主党も荷担したことになる。新しいリーダーと、緊急の経済政策をセットで打ち出すことで、政権交代に向けた流れを取り戻すことが急務である。(週刊金曜日3月27日号) |
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