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ニュースを斬る シリーズ 変なニッポン4 ブログ市長の「切ない」思い(2009/03/27)
九州の天草灘に面した人口2万4000人の小さな市が揺れている。
鹿児島県阿久根市。昨年8月に初当選した竹原信一市長への不信任決議が今年2月に全会一致で可決。竹原市長が議会を解散したことによる出直し市議選が3月22日に行われ、反市長派が優勢を保った。
「市政を混乱に陥れ、阿久根市の恥を全国にさらした」と糾弾する議会と竹原市長との対立は、今後も続く。次の不信任案が可決されれば竹原市長は失職し、5月中にも出直し市長選に臨むことになる。
自身のブログ「阿久根時事報」で、市議への歯に衣着せぬ“口撃”を繰り返し、一方で職員給与が高すぎるとして、職員計268人の給与明細の匿名公開に踏み切るなど、何かとお騒がせな「ブログ市長」。
反対派の市議が「品位のかけらもない」と言うように、ただの変人なのだろうか。騒動の真意を探るべく、鹿児島へと飛んだ。
■バイクに乗って一軒一軒の郵便受けにビラ配り
鹿児島中央駅から川内(せんだい)駅まで北上。在来線だと50分かかる区間を、部分開業している九州新幹線を使って13分で行く。車内はガラ空きで採算を心配してしまうが、個人的には救われた。
そこから肥薩おれんじ鉄道線という第3セクターのローカル線に揺られ、海沿いを走って約40分。切符をどこで誰に渡せばいいのか戸惑いながらディーゼル車を降りると「10分停車します」のアナウンス。
数分後、小さなロータリーしかない駅前に、タクシーが滑り込み、中から女子高校生3人がキャッキャ言いながら改札へ駆け込んでいく。乗せて来た運転手に駅前で待機していた別の運転手が「断れよ。みんなが電車は待ってくれるものだと思ってしまうだろ」と叱責している。
そんな、のどかな町で竹原氏は6年前、1人でチラシ配りを始めた。これまでの、すべての行動の原点である。
行政サービスと言いながら市民を見下す態度の役所、財政赤字を放置して責任も取らず研修という名の旅行に興じる議員、職員と議員を身内のように扱う無軌道な市長、そして、こうした事実に目を背ける無気力な市民…。
これでいいのかと糾弾するビラを作り、バイクに乗って一軒一軒の郵便受けに配って回った。その数、2年半で約7万枚に及ぶ。その頃の話から竹原氏に聞いた。
◇ ◇ ◇
―― ビラ配り、変な人だと見られませんでしたか。
竹原 信一 変人だとか何とか、あるでしょうけど、自分が何もしないことが辛くて、切なくてやっているわけですから。やっていても悲しい、辛いですよ。でも、何もしないのも切ない。だから、それで喜ばれようなんて思ってないので、気になりません。
―― ビラの内容はどんなことを?
竹原 今言っていることとあまり変わらないかな。(市職員は)いろいろな悪事をやっていたから。職員が自分の天下り先を作るために市民をだまくらかしてNPO(非営利組織)を作らせ、それを取り上げると。一般市民は知ろうともしない話ですけれども、特別な情報ではない。
ビラ配りは市議になってからも続いた
―― 最も腹が立ったことは何ですか?
竹原 相手が憎いわけじゃないんですよ。それぐらいしかできない人を市長にしてしまった、その程度の人を議員にしてしまった、この状況が切ない、辛い、悲しい、そこら辺ですよね。私の行動する原点というか、エネルギーというものは。
行動すれば改善がいくらか進むような、治るような気もしていた。自分が引き受けてやるつもりはなかったんですけどね。こういうことになるとは思わなかったです。
◇ ◇ ◇
■研修旅行に欠席したら「反省しなさい」
こうした活動がある市議の目に留まり、2005年の市議選で出馬を持ちかけられた。「言いたいことを伝える道具にはなるかもしれない」と思い立候補したら「当選してしまった」。わずか2万4000人の市に、定数16人の議会。立候補者は18人しかおらず、「大した運動はしていない」のに当選したのも頷ける。
ともかく、より市政の実態を知る立場となった竹原氏。切なさは、さらに増幅した。
例えば議員が出張の際に受け取る2600円の日当。「こんな小遣いは財政が厳しい中、必要ない」と廃止の条例案を出すも、「市民に良い顔をしなくても」「何で議員ばかりもらわんようにせにゃならんか」と多数の議員に反対され、否決となった。
2006年6月には、「私のような議員が13万円の税金を使って北海道に行ったとしても、経費に見合う成果を発揮することはほぼ不可能」として、議員全員で行く研修旅行を欠席した。すると議会は「反省しなさい」と、竹原氏に対する問責決議案を採決する。
問責決議案に賛成した議員らの「トンデモ視察旅行」や領収書偽造の実態が、市民オンブズマンによって明らかとなったのは、翌2007年のことだった。
ある政務調査費を使った視察旅行の領収書にはこうあった。「はじめてのバンコク5日間、10万3000円」。鹿児島空港を飛び立ち、ソウルで市内観光の後、バンコクへ向かい、寺院や水上マーケット、アユタヤ遺跡などを巡るパッケージツアーだった。
別の領収書にはこうあった。「ふれあいの旅、2万3000円」。お隣、熊本へ向かい、阿蘇ファームランドでショッピング、湯布院を散策の後、別府温泉に宿泊するツアーである。
同時に市民オンブズマンのチームは、バンコクツアーに行った議員が別に提出していた領収書に目をつけた。「プリンター、スピーカー代、8万4000円」。店に確認したところ、販売していないという。この市議は2007年9月、詐欺や私文書偽造などの疑いで書類送検された。
竹原氏は同日、この市議の辞職勧告決議案を提出するも、「他にも政務調査費を巡る問題がある中、1人だけに辞職を求めるのは間違い」などとの意見が他の議員から飛び出し、否決された。
馴れ合い議員のための、馴れ合い議員による儀式化した議会。一方で、職務怠慢の職員を守り、職員の退職金を上乗せする市長。竹原氏の切なさは、ピークに達する。
■市税収は20億円、職員人件費は23億円
2008年5月、竹原氏はブログで、事実上の出馬宣言をした。
「議会はまったく市民の為になっていない。議員達はラクをして喰う為だけに議員をしている。本当にサイテイの議会だ。何を提案しても全て無視、否決される。自分にはこんな連中と一緒に居る理由が無い。もはや、あたりまえの市政にするには自分が市長をやるしかない」
3期続いた前市長の引退表明に伴う12年ぶりの選挙は、前市議会議長、前消防長、そして、竹原氏が激戦を繰り広げた。役所側に立つ対立候補に対して、竹原氏は徹底して反役所の姿勢を取る。特に主張したのが、市の税収約20億円のところ、約23億円もかかっていた職員の人件費削減。市長の給与、退職金、議員定数の削減などを公約に訴えた。
結果は、次点に500票差の5547票を獲得した竹原氏の辛勝。2008年9月、市長となった。
◇ ◇ ◇
―― 市長になって、何か変わりましたか。
竹原 何も。市長という立場、権力を借りているだけで、それ以上でも以下でもないですよ。
―― 役所のトップに立ち、職員は市長としての目にはどう映りましたか。
竹原 例えて言えば、社長のいない会社で、よく分からない規則でお互いを縛り合っている状態。舵のない船とも言える。舵がないからどうしたらいいかと考えるのが本来の仕事なのに、もう思考停止。お金に溺れている感じですね。
加えて、態度が悪いうえに、勝手に手当をつけたり、身内でやりたい放題だった。本来なら彼らを律すべき市長や議員たちも、下手なことをすると「選挙で落とされるかもしれない」と、職員たちに対してすくんでいる状況だった。
―― 職員の採用は適正に行われていたのでしょうか。
竹原 私が市長になってから、「職員を採用する際には、自分も面接に参加する」と方針を述べたら「いや、そこにいてもらったら困る」みたいなことを、職員係長などから言われました。市長を採用の現場に出させず、自分たちが選んだ人間にハンコを押させるだけという環境でした。だから、やりたい放題です。
―― ほかの市町村も、一緒なのでしょうか。阿久根市固有の話なのでしょうか。
竹原 議員や職員たちが、市民ではなく、自分の生活のために議員や職員をするという意味では、一緒なんでしょうね。
議会も、野党がいるから与党に意味があり、与党がだらしがないから野党に意味がある、もたれ合い。お芝居ですよ。そのお芝居にみんなだまされているわけですね。そして市民は閉塞感を感じていると。首長もみんな役人出身とか、議員出身とかでしょう。議員、職員とマインドは一緒ですよ。
◇ ◇ ◇
役所村の上には想像以上に厚い岩盤が、市民との間に存在していた。竹原氏はブラックボックスだった採用プロセスに何とか自身もかめるよう調整する一方で、最大の懸案事項に着手する。うずたかく積もった人件費だ。
今年2月23日、竹原氏は人件費の実態を知らしめるべく、2007年度分の各種手当を含めた全職員の給与明細を、匿名で公開させた。
「給料」だけでは何の実態もつかめない。年収2586万円の医師、同1015万円の市長に次いで、3位の職員は、年間543万円の給料に、扶養手当が37万円、住居手当が32万円、時間外手当が55万円、期末手当が158万円、勤勉手当が77万円ついて、実際の年収は909万円だった。
■給与明細の公開は「当たり前のこと」
竹原氏は、このリストへのリンクをブログに張ったうえで、こうコメントした。
「年収700万円以上の職員が54パーセント、大企業の部長以上の給料を受取る人間が過半数にもなる組織が阿久根市民の上に君臨しているのだ」
財団法人 地方自治研究所によると、阿久根市の人件費は全国に67ある人口5万人以下の市のうち、2番目に高い水準にある。200〜300万円程度だという阿久根市民の平均所得に対して、阿久根市の職員は倍近い所得を得ていることになる。
◇ ◇ ◇
―― データの入手と公開に壁はありましたか?
竹原 いや、ないです。私は伏魔殿と思っていたというか、怖かったんですね。ここに来た時、鬼が出るか蛇が出るかという感覚があった。その、言い出せなかった自分がいたという気がします。
でも「出しなさい」と言ったら、あっさり「はい、メールでデータを送ります」と来た。いざ、メールを受け取ると、「本当に来た」という感じです。初めて市長になったという実感がわきました。
―― 賛否両論ありますが。
竹原 公開して当たり前でしょう。言ってみれば主権者たる市民が社長ですよね。社長が職員の給料を知っていて、文句を言われる筋合いは、ない。しかも、国は公開しろと言っている。
私は市民の代理人だから、社長に対して職員の給料を公開しましたと。ただ、それだけのことで、やって当たり前。市民に隠されてきたこと自体が大きな問題なんです。
市民、国民は現実の税金の使われ方がどうなのかを分かってないといけない。肌で感じてないといけない。そこから、初めて信頼が生まれるわけですね。その当たり前の作業がなされてこなかった。
ひどい状態ですよ。だって、こんな当たり前のことを日本中でしたことがないんですよ。あれを見なければ職員の給料が高いのか、安いのか誰も分からないじゃないですか。国の指導で公開しなさいとなっていますけれども、本給だけ公開したりと、分からないような公開を日本中でやっている。それはおかしいでしょう。
市民も職員も、みんなが現状を確認することなしには変わるわけがない。知らされているということで、公務員が当たり前の仕事をせざるを得なくなる。そして、頑張る人間は認められる。そういうことになっていれば、この国もこんな状態になっているはずはないんですよ。
だから、給料明細の公開自体は、決して突飛な話じゃなくて当たり前のこと。それで大騒ぎになること自体が、どれだけ今の世の中はおかしいのかという話です。
◇ ◇ ◇
棘のある表現、叙情的な言い回し。反市長派が問題視するのは、竹原氏の歯に衣着せぬ、あるいは品位に欠けた攻撃的な物言いや、ブログで市議の不人気投票をするなどの行為だ。
確かに、竹原氏は、今回の市議選の告示後、ブログで領収書を偽造した議員らのニュース映像にリンクを張って、「こんなサイテイの連中でも選挙を勝ち続けてきたという事だ」と批判するなど、やり方はキツく、お騒がせなところはある。
ちなみにニュース映像は、動画投稿サイトのユーチューブに無断でアップされていたものであり、南日本放送は「報道目的以外に映像が使用されることがあってはならない」と竹原氏に抗議した。市長選の時は、ブログの更新を公職選挙法違反だと当局から咎められたこともある。
反市長派からすれば、下品でグレーなブログ市長。出直し市議選では、10人の反市長派が当選したため、2回目の不信任案が可決する公算は大きい。
しかし竹原氏は「あっ、そうですか、分かったよと言うしかないですよね。残念でございます」と意に介さない。出直し市長選で改めて有権者に信を問うのみだ。
■切なさが消えたら、戦いは終わる
もともと、23人の立候補者中、市長派は7人と少なく、次回の不信任決議が即、有権者の不信任だとも言い切れない。市長派のうち5人が、得票数で1位から5位を独占している。
◇ ◇ ◇
―― 市民にとってどういう存在でありたい?
竹原 あんまり関わり合ってもらいたくないなと(笑)。いいかげん、結構切ないので、自分たちでやってと思っています。
あなた方、皆さんがちゃんと良心に基づいて政治を知り、行動してくれれば、私はこんなことをしなくてもよかった。市民の本心がろくでもない市長を選び、ろくでもない議員を選び、職員のわがままを許してきたということですから。
―― 市民自身の手で市政を変えてほしいというわけですね。
竹原 そうです。変わった方がいいでしょうと。気づいてもらえないのが辛くて切ないから、やっているだけです。だから、市民が変わり、私の中の切なさが消えたら終わりですよ。それでいいのではないでしょうか。
◇ ◇ ◇
中央からの補助金をどんどんと削られ、税収も伸びず、弱体化に喘ぐ地方自治体。その中で、多くの自治体において、人件費だけが高止まりしている。今、阿久根市で起きていることを、風変わりな市長と異様に権力が強い役所がある、日本の片隅の特殊な自治体の話と片付けることはできない。
「地方は簡単に切り捨てられる」「職がない、景気も悪い」「何とかしてくれないか」…。弱体化する地方の有権者からは溜息しか聞こえてこない。だが、溜息を漏らす前に、役所や国に頼る前に、自分たちの力で変えようと思わなければ何も変わらないのではないか。
そんなメッセージを、竹原市長は九州の田舎から、ブログで全国に発信している。
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