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「経済コラムマガジン09/3/2(559号)
・政府紙幣(貨幣)論の評判
・「卑怯者」の遺伝子
政府紙幣(貨幣)が世間の話題になり、これまで積極財政に反対してきた人々は慌て出した。彼等は一斉にこの政府紙幣(貨幣)に批難を浴びせている。しかしこれらの批難のほとんどは、感情的であり、非論理的なものばかりである。
例えば「論外の奇策だ」とか「将来に不安を残す」といった的外れな批難である。政府紙幣(貨幣)論者がずっと問題にしてきたものは、日本のデフレギャップの存在であった。これを埋める手段の一つとして、政府紙幣(貨幣)の発行を考えるべきと主張してきたのだ。しかし彼等の批難はこの辺りへの言及が全くないのである。
実際、筆者が参加していた丹羽経済塾(丹羽春喜元大阪学院大学教授を中心にした勉強会)の主なテーマはデフレギャップであった。政府紙幣(貨幣)に関しての制度的な学習より、日本経済の慢性的な需要不足に重点が置かれた。これに関して、内閣府や日銀が公表する日本のデフレギャップが、デタラメであることは本誌でも何回も取上げた。
特に小泉政権以降、日本に巨額なデフレギャップが存在することを無視して、経済政策が行われてきた。日本の内需不足を放置したままなので、日本経済は過度の外需依存になってしまったのだ。ところが今日、世界的な金融危機で輸出が歴史的な落込みとなり、日本の経済成長率は年率換算でマイナス12.7%というシヨッキングな状況になっている。我々が政府紙幣(貨幣)に興味を持ったのも、今日の状況をなんとなく予感していたからである。
本誌が09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」http://www.adpweb.com/eco/eco556.html で述べたように、政府紙幣(貨幣)発行など、自民党の構造改革派は大きく主張を変えた。もちろん政治家だけでなく、経済の専門家もどんどん主張を変えている。さすがに我々もこれには驚いている。
例えば「規制緩和で経済は成長する」という虚言・妄言を広めた張本人の中谷巌氏は、最近では「これまで社会という存在を軽視してきた」ことを懺悔している。野方図な構造改革やクローバリズムを反省しているのである。ちなみに本誌は、規制緩和の経済効果を唱う経済学者の論文を04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」http://www.adpweb.com/eco/eco338.html で全て非論理的と否定している(規制緩和の経済効果はプラス・マイナスがほぼセロと説明)。
ひときわ政府紙幣(貨幣)を強く批難したのが、経済諮問会議のメンバーの経済学者である。彼は続けて何と「財源が不足するなら堂々と国債を発行すれば良い」と言ってのけている。しかし2011年のプライマリーバランス回復にこだわってきたのが、この学者が参加する経済諮問会議であったはずだ。彼等は国債の増発なんてとんでもないとずっと言ってきたはずだ。ところがここに来て国債を発行すれば良いと簡単に主張を180度変えているのである。
またこの経済学者はケイジアンと見なされてきたが、過去の言動から判断して筆者はとてもケイジアンとは思っていない。あまりにも本来のケインジアンとかけ離れた発言が多すぎる。彼は単にケイジアンを装っているだけであろう。筆者はただ時流に乗ることに関心がある学者と見ている。
これだけ過去の主張を簡単に変えられる人々が日本には沢山いるのである。もっともこれらの人々は世の中を渡って行くのに長けているとも言える。何か日本の社会にはこのような「卑怯者」の遺伝子を持った人々が生き延びて行く素地があるようだ。
・消費者主権の原理
最近驚くのは、これまで積極財政、特に公共投資に強く反対してきたはずの人々までが「緊急に10兆円の公共投資を実施せよ」とか言い始めていることである。しかし公共投資はこれまでずっと目の敵にされてきた。以前、日本経済の成長率を高めるには、生産性の低い(儲からない)建築・土木業界などは潰せという虚言・妄言がはやったほどだ。
今日、何十兆円単位の公共投資の増額が必要という声がいたる所で上がっている。ちなみに冒頭の10兆円の話は日経新聞のコラムに登場したものである。しかし筆者は緊急に10兆円もの公共投資の増加させることは不可能と考える。
大きな公共投資は計画の段階から実施まで長い時間がかかる。環境のアセスメントや住民の同意が必要であり、地権者との調整や土地の買収にも大変な時間を要する。つまり10兆円の公共投資をただちに実施できるわけがないのである。
筆者は、「首都圏に新空港の建設」を目指し活動をしているグループと交流を持ったことがある。この時の話では、建設費が3兆円ほどと記憶している。建設期間が10年とすれば、公共投資額は1年でたった3,000億円にしかならないのである。
時間を掛ければ、大型の公共投資も可能かもしれないが、緊急に10兆円の公共投資は無理である。またこれまでずっと公共投資を減額してきており、ここで公共投資を急に増やすといっても業界が対応できるとは考えられない。日経新聞にコラムを書いているような経済の専門家には、日頃から何も考えていない者が多いのであろう。
丹羽教授の持論は「政府紙幣発行による国民一人当り40万円のボーナスの支給(総額で50兆円)」である。日本のようにデフレギャップが大きく成り過ぎた国では、これくらいの規模の財政支出が必要ということである。しかもこれを数年続けるという考えである。
ところが需要不足に対応して財政支出を増やすと言っても、公共投資のケースではそんなに簡単な話ではない。その点国民に等しくボーナスという話は実現性がある。特に今回定額給付金が実施されれば、そのルート使って金を配ることができる。ところが当時、丹羽経済塾の仲間内では、この40万円の話はあまり評判が良くなかった。
周囲の者に40万円の話をしても、喜んで受取るという者がいる一方、「そんな金を受取る理由がない」と気分を害する者もいるといった具合である。政府紙幣(貨幣)の賛同者でも、40万円のボーナスには反対という人々が意外と多いのである。
筆者は丹羽教授に「政府紙幣発行による財源を公共投資に使うことには反対ですか」とお聞きしたことがある。教授は「公共投資には反対ではないよ。しかし消費者主権の原理を大切にしたいので、これには国民には一律のボーナスが一番理想的です。」と答えられた。「消費者主権の原理」とは消費者の消費行動こそが、合理的な資源の配分を実現するという考えである。
例えば公共投資のような財政支出は、どうしても需要創出の効果が片寄る。具体的には公共投資に関わる者により大きな利益を得ることになり、どうしても経済に歪みが生じる。このような弊害を避けるには直接国民に金を配った方が良いという話である。教授は、旧ソ連などの社会主義国の経済メカニズムの研究者でも有り、自由主義市場の大切さを実感しているのである。
丹羽教授は正統派のケインジアンを自認している。ところが世間には誤解があり、ケインジアンは市場メカニズムを否定していると思われているのである。しかし筆者の理解では、本来のケインジアンは、マクロ経済に需要不足が生じたら政府がそれを埋めるような需要創出政策を行うが、政府は市場に手を出さないのが原則と考える。例えば生活保護政策の拡充には慎重であり、生活保護の必要がないような経済状態を維持することの方が重要と考えるのである。この点が直に「セーフティーネットが必要だ」という構造改革派とは正反対である(勝ち組指向の彼等にとってセーフティーネットなんて心にもないと思われるが)。
しかし読売テレビの「たかじんのそこまで言って委員会」の中で、丹羽教授は「40万円のボーナスの話は10年前の主張であり、最近ではそれほどこだわっていない」と発言しておられた。国民へのボーナス以外で、社会保障などに使っても良いと柔軟になっておられる。今日のような経済状況では、「消費者主権の原理」は多少損なわれてもしょうがないと考えておられるのであろう。
来週は、今日の経済状況が従来の経済理論ではなかなか説明がつかないことを取上げる。」
http://www.adpweb.com/eco/eco559.html
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