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http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090130dde012040010000c.html
特集ワイド:この国はどこへ行こうとしているのか 永六輔さん
◇振り向き、歩こう−−ラジオパーソナリティー・永六輔さん(75)
40年以上続くラジオ番組の収録のために、永六輔さん(75)が毎週通う東京・赤坂のTBS。その1階の喫茶室に、約束時間より30分ほど前に着くと、既に永さんはそこにいた。ゆったりと椅子に腰掛けて、静かにはがきを書いている。こちらに気付くと、表情が自然にほころんだ。
「実は明治維新は終わっていないんじゃないか」
えっ? 開口一番、言われたことに戸惑った。
「女学生のセーラー服は、海軍水兵の軍服。男子の詰め襟だって、元は軍服です。日本人は子どもの時から軍服を着ている。それを誰も不思議に思わない。小泉(純一郎元首相)も、引退するけど、せがれに後を継がせる。どこが改革? そんなの、江戸時代じゃない。明治で新しくなり、第二次世界大戦で世の中が変わり、世界の経済大国になった。そうやって、どんどん世の中変わっていると思うだろうけれど、本当は全然変わってない。明治維新が終わっているなら、国民はもっと目覚めているよ」
永さんの目には、政治は未熟だしとてもではないが近代化された国家には見えない。だから明治維新はまだ続いているというわけだ。少し極端にも思えるその論理の背景にはもちろん、いまの政治への憤りがあるようだ。
■
永さんは、戦争放棄を定めた憲法9条を守る会に賛同する一方で、「99条を守る会」を個人的につくっている。まるで冗談みたいな名前だが、実際はとても論理的だ。99条は、憲法尊重擁護の義務を定めているのだ。
天皇又(また)は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
しかし、現実は、自民党議員をはじめとする政治家は、守るどころか、憲法、特に9条を変えようと必死だ。
「99条を守っているのは天皇陛下だけなの。他の連中は守っていません。守っていないだけじゃなくて、無駄遣いはするわ、ごまかすわ」と、不愉快そうに言った後、声のトーンを変えた。「僕は天皇陛下を尊敬しています。99条を守っているから。僕はまじめに、天皇陛下が大好き」。その表情は、無邪気でうれしそうだ。
憲法条文を見ると、政府などの権力を縛り、国民の権利を守ろうとする姿勢が一貫して流れている。
永さんは、「憲法は国民には何も厳しいことは言っていないの。国民は安心して生きていれば、何もしなくていいんです」と話した後、「政治がしっかりしていれば」と、付け加えた。
でも、政治家はしっかりしていませんよね?
「していません」と、きっぱり。
その政治家を選んだのは国民……。
「そうです」
ということはやっぱり、国民が悪いということになるんですか?
「そう考えると、おしまいになっちゃう」
おちゃめな言い方に、カメラマンと3人、一同大笑い。
「投票して誰かを選ぶんじゃなくて、投票して誰かを落とす選挙にすべきだと思う。選ばれて政治家になっちゃったヤツはしょうがないけど、『こいつだけは許せない』っていう人は落とされちゃう。そこまで徹底しないとダメだよ」
■
永さんは、東京・浅草の浄土真宗のお寺に生まれ、さまざまな立場、境遇の人たちに触れて育った。中学生の時に習い事の月謝代稼ぎにNHKラジオに投稿した台本やコントが次々に採用され、高校生でスタッフに。20歳前後はちょうどテレビが開局する草創期。試験放送の段階から携わって現在の日本のテレビ放送の礎を築いた。
しかし、「明治維新が終わっていない」元凶の一つは、テレビだと指摘する。国民が民主主義に目覚める前に、テレビの時代が来てしまったのが問題だという。
「テレビって、『なんでこんなことやっているんだ?』っていう番組が多い。僕はそのテレビを作ってきたのね。とっても恥ずかしい」。そして、テレビが抱える問題の本質を指摘した。「危険なのはね、みのもんたでも、田原総一朗でも、怒るでしょう? 政治家を呼んでおいて『こんなこと許せないっ』なんて。国民は、怒っている人を見て『あっ、怒ってくれている』と確認すると、怒らなくなっちゃうんですよ。それが一番怖いと思う」。そして、テレビの欺まんを嘆いた。「大相撲の朝青龍にしても、初日前まであれだけたたいて『2〜3連敗して引退』って専門家が言っていたのに、そうならなくてもみんな謝らない。言いたい放題言っておいて、言いっぱなし。放送っていうのは、送りっ放しって書くけど、まさにそう。でも、テレビの話題だと、何でも事件になるでしょう。テレビってそれほどのものか、って思いますね」
永さんは、そんなテレビが嫌になって、昔から親交の深い黒柳徹子さんと、筑紫哲也さん(昨年11月に死去)の番組に年に1回ずつ出る以外は、ほとんどテレビには出演していないという。
「明治維新が終わっていない」という閉塞(へいそく)感漂う日本の状況を変えるにはどうしたらいいのだろうか。
「しょっちゅう旅をしているから、僕は知らない街へ行きます。そういう時、振り返るんですよ、歩きながら。どういう道を歩いてきたかを確認すると、帰りに迷わないの。でも、振り返らないで歩くと、ちょっとしたカーブで迷っちゃう。日本という国は、立ち止まって振り返って……ということをしないまま来ちゃっているからね」。だから迷っているのだという。「『上を向いて歩こう』じゃなくて、『振り向きながら歩こう』」と、永さんは、自身が作詞した坂本九の大ヒット曲に絡めて、提案した。そのためには、新聞も本も、仲間との会話も、歴史を学ぶことも必要になってくる。
永さんの大ぶりセーター。笑顔の犬のイラストデザインが目に付く。聞けば、ファッション評論家でタレントのピーコさんがコーディネートしてくれたのだという。「女房みたいでね」なんて言って、うれしそうに笑った。元々は、02年に亡くなった妻、昌子さんの古い友人だという。多いときには1日100通以上、1年で4万通のはがきを書いてきた永さん。亡くなった妻あてのはがきも、一緒に毎日したためている。【中川紗矢子】
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■人物略歴
◇えい・ろくすけ
1933年、東京都生まれ。ラジオパーソナリティー。放送作家、作詞家、司会者、エッセイスト、語り手などの幅広い活動で知られる。作曲家の故・中村八大氏とのコンビで「こんにちは赤ちゃん」など数々のヒット曲を手がけた。著書多数。担当するTBSラジオ「誰かとどこかで」は今年、開始から42年を迎えた。
毎日新聞 2009年1月30日 東京夕刊
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