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http://www.news.janjan.jp/government/0901/0901290457/1.php
日本、国際世論に逆らってまた「ベルトコンベアー」死刑を執行
荒木祥2009/01/30
治安は悪化していない。いわゆる凶悪犯罪は減っている。昨年、国連自由権規約委員会に「世論のいかんにかかわらず、日本政府は死刑廃止を前向きに検討し、必要なら死刑廃止が望ましいことを国民に知らせるべきである」と勧告を受けた日本政府。しかし1月29日、あらたな死刑が4名に執行された。米国や中国は死刑の執行を減らしてきており、急増した日本の死刑執行は極めて異常な状態にある。「死刑廃止を推進する議員連盟」や、人権団体・宗教関係者は抗議と記者会見を行った。
自省しつつも牧野正さんらの死刑執行に激しく抗議する石塚伸一さん(1月29日、衆議院第二議員会館で行われた記者会見で)
日本の死刑執行は「ベルトコンベアー」状態に
昨年、国連自由権規約委員会に「世論のいかんにかかわらず、日本政府は死刑廃止を前向きに検討し、必要なら死刑廃止が望ましいことを国民に知らせるべきである」と勧告を受けた日本政府。しかし1月29日、あらたな死刑が4名に執行された。
異例のクリスマスの執行となった2006年12月25日以後、2年1か月の間に、長瀬・鳩山・保岡・森、歴代4名の法務大臣が認めた死刑執行は計32名にも上る。史上まれに見る死刑の大量執行は「ベルトコンベアー」などと内外の強い批判を受けている。
この間、治安は悪化している訳でもなく、いわゆる凶悪犯罪は減っている(久保大、ほか)。増えているのは報道件数だ(浜井浩一、ほか)。ちなみに日本では、1979〜84年は死刑執行は1人/年であり、1990〜92年は死刑の執行が無かった。歴史を紐解けば平安時代に死刑は無かった。
現在、世界の3分の2以上の国は、死刑を廃止するか執行停止しており、国連は2007年・2008年の総会で、すべての死刑存置国に対してその廃止を求めた。それに応えるかのように、米国や中国は死刑の執行を減らしてきており、日本の死刑執行は極めて異常な状態にある。1月29日、「死刑廃止を推進する議員連盟」(会長:亀井静香・衆議院議員)は森英介法相らに抗議・面談を行ったあと、国会内で人権団体・宗教関係者と共に記者会見を行った。
記者会見後、衆議院第二議員会館前で行われた抗議
死刑の執行は妥当なのか
保坂展人・衆議院議員(「死刑廃止を求める議員連盟」事務局長)は、判決確定後の死刑囚の状況がプライバシー保護を理由に情報公開されないことを問題視した。判決確定後の死刑囚は、仏教やキリスト教などに帰依し、深く改心する人も少なくない。遺族への謝罪の手紙を書き続ける死刑囚も珍しくない。
また、精神状態に異常を来たし、死刑の執行がふさわしくないと思われる人もいる。保坂議員はまず「これでは執行が妥当なのかどうか判断がつかない」と、情報公開のあり方を問題視した。この点は昨年、国連自由権規約委員会も勧告で問題視したばかりだ。
死刑執行の日常化は導入が目前に迫った裁判員制度について「裁判員になりたくない」動きを広めている。保坂衆院議員はこの日「短期即決の裁判員制度では刑事被告人の権利を守れない。裁判員制度では重大事件を外すべきではないか。裁判員の苦痛を増やすだけだ」とも述べた。
日本の刑事裁判の三審制は形骸化している
死刑廃止国際条約の批准を求める「フォーラム90」からは、石塚伸一さん(龍谷大学大学院法務研究科教授/弁護士)が記者会見に臨んだ。石塚さんが弁護に関わった牧野正さんもこの日、死刑を執行された。
牧野正さんは、無期懲役の仮釈放中におこした事件で死刑判決を受けたが、一審弁護人控訴を本人が取り下げた点が問題視されている。起訴前の供述や公判での主張は2転3転し、物証と自供の内容にも矛盾があり、頭痛薬の濫用により犯行時の記憶があるかどうかも疑わしい事件だった。控訴取下の申立は、看守によるサインの偽造が疑われるのにも関わらず、最高裁は公判再開請求を棄却した。
「このように刑事被告人の権利が守られない国は日本だけ、実態は中国よりひどいのではないか」と石塚さんは語る。マスコミや世論が、死刑判決を受けた被告人の控訴を「死刑のがれ・減刑めあて」などと批判する国は日本しかない。拘置所の看守が事実上、被告人の控訴を妨害する国も日本ぐらいだ。日本の三審制は形骸化していると、国連の自由権規約委員会も指摘している。
判決の量刑が、検察側求刑と比して不当だとして上訴することも、米国の多くの州では禁じられている。検察が死刑を求め、判決が無期懲役だからと言って、検察が上訴することは多くの先進国で許していない。それらを踏まえ「日本の裁判制度・司法制度は欠陥とほころびだらけ」と石塚さんはいう。裁判官と検察官が出世のために厳罰を争い、マスコミと世論は追従している。これで日本は民主主義国だと、世界に胸を張って言えるのだろうか。私たち一人一人の責任も小さくない。
保坂展人・衆議院議員(「死刑廃止を求める議員連盟」事務局長)
(資 料) 森英介法相による2度目の死刑執行に抗議する声明
2009年1月29日 CPR・監獄人権センター
麻生内閣と森英介法相は本日(1月29日)、牧野正さん(福岡拘置所)、川村幸也さん(名古屋拘置所)、佐藤哲也さん(名古屋拘置所)、西本正二郎さん(東京拘置所)の4人に対して死刑執行に行った。私たち監獄人権センターは、本日の死刑執行に強く抗議する。
今回の死刑執行は森英介法相による2度目の執行であり、前回10月28日の執行から3か月しかたっていない。一昨年12月の鳩山邦夫・前々法相による執行以来、日本政府はほぼ2か月に1度のペースで死刑執行を行ってきた。今回の執行は、日本政府が今後も昨年同様のペースで死刑執行を行う態度を示したものと受け止めざるをえない。
国連総会は昨年12月18日、死刑執行の一時停止などを求める決議を、賛成106か国、反対46か国、棄権34か国と一昨年を上回る賛成多数で2年連続で採択した。国蓮総会決議から1か月もたたずして行われた今回の執行は、決議に示された国際社会の死刑廃止に向けた強い意思に対する挑戦である。
今回執行された4人うち、牧野正さんと西本正二郎さんは、いずれも控訴を自ら取り下げ、一審限りで死刑判決が確定しており、牧野正さんについては公判段階から精神障害の存在が争われていた。
昨年10月の国際人権自由権規約委員会の日本政府報告に対する最終見解では、「高齢者に対する死刑執行や精神疾患を持つ人の死刑執行については、より人道的なアプローチがとられるべきである」「死刑事件に関しては必要的上訴手続きを設けるとともに、再審請求や恩赦の出願がなされている場合には執行停止の措置をとるべきである」と明確に勧告されている。今回の執行は、こうした勧告を無視した暴挙である。
近年、自ら上訴を取り下げる死刑囚が目立つが、それ自体不自然なことであり、死刑判決を受けた被告が上訴すること自体をバッシングするマスコミや日本社会に雰囲気が、そうさせている面が否定できない。前々回執行の山本峰照さん(控訴取下げ)、前回執行の高塩正裕さん(上告取下げ)に続いて、今回も上訴を経ていない死刑確定者の執行を安易に行ったことは、日本が批准している国際人権自由権規約の精神にも反するものである。
すでに国連加盟国の7割にあたる138か国が法律上・事実上死刑を廃止し、死刑存置国は59か国にすぎない。残る主要な死刑存置国である中国、アメリカも死刑執行を減らしている。アメリカも死刑執行はピーク時(1999年)の2分の1に減っており、死刑判決もピーク時(1994年)の3分の1に減っている。アメリカの昨年の死刑執行数は37人にとどまっている。
そうした中で、日本だけが一昨年は9人、昨年は15人と死刑執行を急増させていることは異様と言うほかはない。中国やアメリカと比しても、日本の犯罪状況が悪化している事実は一つもない。殺人の認知件数は昨年やや上昇したものの、犯罪による死亡者数とともに40年以上一貫して減少傾向が続いている。日本だけが死刑なしでやれない理由など一つもないのである。
昨年秋以降、アメリカ発の世界経済危機が深刻化し、日本国内でも非正規雇用者を中心に失業問題が深刻化している。こうした中で、労働市場の規制緩和や福祉切り捨てなど市場原理主義による過去の政策の見直しを迫る声が日増しに高まっている。今こそ、自己責任を強調する市場原理主義と手をたずさえて進展してきた厳罰化政策も、真剣に見直すべき時機である。
「未曾有の経済危機」に何らの対応もせずに問題を先送りしてきた政権が、死刑執行だけはこれまで通り続けるということは、許されるものではない。麻生内閣と森英介法相は死刑執行を直ちに停止し、死刑廃止議連など各界各層とともに死刑制度の廃止に向けた議論を開始すべきである。
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