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新しい「助け合い」、新しい「労働運動」へ(鎌田慧)
http://www.asyura2.com/09/senkyo58/msg/170.html
投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 1 月 14 日 20:32:30: mY9T/8MdR98ug
 

http://www.magazine9.jp/interv/kamata/index2.php

株主のほうだけを向く経営者たち

編集部
 前回、『自動車絶望工場』の時代よりもさらに劣悪化している、派遣労働者の置かれた労働環境についてお話を伺いました。さらに、昨年末には自動車会社など多くの企業が、不況を理由に「雇い止め」「派遣切り」といわれる大量解雇を強行しましたね。

鎌田
 たしかに、需要が減ったとか業績の見通しが悪いから解雇するという言い方ですが、だからといってちゃんと契約している派遣労働者を中途で切るなんていうのは、やっちゃいけないしあり得ない。それに、自動車不況だからというけど、不況は年末の1カ月2カ月くらいで始まったわけじゃないのに、それで8万人とか10万人とかの労働者を切るという。
 実際には、今年の3月には多くの企業が派遣社員を正社員に登用しなくちゃいけなくなる(※)から、その前にどんどん切っているというのがあると思います。それに、「闇に乗じて」じゃないですけど、自分の会社だけ3000人切ったら大ニュースになっても、他の企業も一緒くたになって切ればそれほど目立たないという。日本経団連の陰謀。汚いんですよ、本当に。

※派遣社員を正社員に〜…2007年3月の労働者派遣法改正により、製造業における派遣労働者の派遣期間は、それまでの1年から3年に延長された。これを見越し、また「偽装請負」の社会問題化もあって、2006年に採用された大量の派遣労働者らが、2009年に一斉に3年の契約期限を迎えるため、企業側には直接雇用を申し出る義務が生じることになる。

編集部
 いくら不況だとはいっても、自動車産業なんかは、これまで溜め込んできた膨大な社内留保金があるはずなのに、それを一切吐き出そうともしないんですね。

鎌田
 昔の古いタイプの経営者には、「従業員のクビは1人でも切りたくない」という思いがあったと思うんですよ。社員の家族も含めて大勢を「食わせている」、それが経営者のプライドでもあったし、クビを切るっていうのは生クビを落とすということ、つまりは犯罪行為みたいなものなんだから、どうしようもなくなるまではやりたくない、と考えていたと思う。
 ところが、今はそういう感じが全然ない。労働者がクビになって、自殺するとか一家心中するとかいう話が実際にありますけど、そこへの想像力がなくて、命に関わる問題なんだということを経営者が分かっていないんですね。
 一方で株の配当は増やしていたり、経営者が完全に従業員よりも株主のほうを向いてしまっている。アメリカ型の非常冷徹になったというんでしょうか。

編集部
 それも、近年の日本社会で大きな力を持っていたアメリカ型資本主義の影響なのでしょうか。

鎌田
 そうですね。やっぱり日本には、そのいい悪いは別にして、必ずしも合理主義的な発想ではない「日本的経営」というものがあったわけです。農業的経営体意識というか、農民が種を植えて作物を育てるみたいな意識で企業を育てていく、生涯雇用や年功序列といった考え方ですよね。
 しかし、1995年に経団連が「新時代の日本的経営」という方針を出したんですね。これは、労働者を3階層に分けて、専門的な労働者と中心的な労働者だけを社員にする、それ以外は不安定労働者でいいという方針を示すものでした。このころから日本の労働状況が急速に変わってきたんだと思います。

編集部
 そうすると、そうした動きに対して政府は何をやってきたのかという話にもなると思うのですが…昨年、麻生首相が経団連の御手洗会長らを官邸に呼んで、「雇用の安定と賃上げに努力してほしい」と要請したにも関わらず、そのわずか3日後に、御手洗氏が会長を務めるキヤノンの系列会社が、1000人以上の派遣・請負社員を解雇すると発表しました。もうすでに、経済界は政府の言うことになんてまるきり聞く耳を持たないという状況なのかなと思います。

鎌田
 まあ、それが麻生首相だからなのかどうかは分かりませんが(笑)、これまではずっと、基本的にはそれほど景気が悪くなかったから、政府は何もしてこなかった。むしろ、国鉄などの国有財産を企業に売り渡す「民営化」をどんどんすすめて、「小さい政府」論でどんどん役人を整理してきました。中曽根首相の「国労つぶし」以来のことです。小泉改革の後は、竹中平蔵らの「新自由主義」があって、労働基準監督署も職安もまったくチェック機能を果たしていなかったですし。むしろ、今のような極端な状況になって初めて、ようやく仕事を始めたという感じじゃないのかな。

新しい形の労働運動が始まった

編集部
 いろいろお話を伺っていくと、あまりのひどい状況になんだか暗澹たる気分になってしまいそうですが、その中でもしまだ希望があるとすれば、どういうところだと鎌田さんは思われますか。

鎌田
 一つは、集会ですね。最近、派遣労働者の集会があちこちであって、僕もそこに行ってアジっているんです(笑)。社民党や共産党は「派遣法改正、(職種が限定されていた)1999年当時に戻せ」で、僕は「派遣法を潰せ」だから、僕のほうが過激なんだけど、まあ一緒にやっています。
 それから、地域ユニオンや個人加盟の組合が今、いろんなところでできて、力を持ってきています。ユニオンや組合というと聞こえはいいけど、実際の構成員は2〜3人だったりもする。だけど彼らに支えられて、不当解雇の撤回や待遇改善を会社に訴える人たちが出てきているんです。訴えたら、これは憲法や労働法でも保障されている権利だから、ちゃんと勝つんですよね。
 これまで、労働組合は団結しなきゃいけないというので、既存の組合を割って小さい組合をつくることはタブー視されていたんだけど、どんどんやっていけばいいんですよ。トヨタ自動車でも、従来の組合を割って数人の組合ができてます。ぐずぐずしていたって状況は変わらないし、クビになっちゃうかもしれない。だったら思い切ってやったほうがいいよ、と僕は言っているんです。

編集部
 従来の労働運動とはかなり違った動きですよね。インターネットをツールにして、団体交渉のやり方とか、「こんなことができるんだ」というのをどんどん発信して。雨宮処凛さんなどは「連帯」という言葉を使ってますけど、小さい団体がそうしてつながって運動していくという広がりは、ここに来てずいぶん出てきた気がします。

鎌田
 2007年に『いま、連帯をもとめて』という本を出しましたが、今は雨宮さんとか湯浅誠くんとか、若い人たちもかつての労働運動と関係があったわけじゃなく、まったく違うところから出てきて、いわば勝手にやっている。発想が柔軟ですごく若者を捉えやすくなったんでしょうね。デモじゃなくてパレードになったり、ミュージシャンの演奏があったり、いろいろ変わってきてるんですよ。「年越し派遣村」など、「皇居前の難民キャンプ」で、大胆果敢な運動の成果です。

編集部
 ただ、一方で、一部の若い世代の間には、中高年の正社員へのバッシングも広がっていると聞きますね。「彼らが高い給料をもらっているから、自分たちに回ってこないんだ」ということなのでしょうが、それは結局、自分たちの首を絞めることにしかならないのではないか、と思います。

鎌田
 僕もある集会で、新しくできた組合が「正社員の賃下げを要求するんだ」と言っているのを聞きました。労働賃金というパイをどっちが取るのか、分け前で考えるんですね。
 それは「社員」たちが今まで不平等の上にアグラをかいてきたことのツケです。でも、それでは内輪もめの醜い争いになっちゃうし、経営者側はそれをうまく利用してくるでしょう。正社員の賃金を下げたって、また自分たちの賃金が下がるばかりなんだということを理解させないといけない。ワークシェアリングが必要になっています。

編集部
 やはり、同一労働同一賃金を実現していく必要があるということでしょうか。ヨーロッパなどでは、かなりその体制ができてきているそうですが。

鎌田
 ヨーロッパでは、パートと正社員でも賃金格差はそれほどないし、有給休暇などの条件もそんなに違わない。意識的にそうしているんです。日本の場合は逆に、とにかく差を付けるでしょう。でも、同一労働同一賃金というのは当然の哲学ですよ。同じ仕事をしていて給料が違えば、どうして違うのか、差別じゃないかと不満を抱くのは当たり前ですよね。最近の日本では、「そんな建て前を言ったってしょうがない」ということで、人間平等の観念が少なくなっちゃっているんだけど。
 でも、それが労働者の団結の一番の基礎なんですよ。正社員も派遣労働者もパートも労働者はみんな仲間だとか、連帯とか共生とか、かつてはよく言われていたけれど、「タテマエ」とか「甘い」というので死語にされちゃいましたね。

編集部
 そういう言葉をもう1回、復活させていく必要があるのかもしれませんね。

憲法9条は、「国が人を殺さない」ということ

編集部
 さて、最後になりますが、憲法9条についてのご意見も伺っておきたいと思います。「9条世界会議」の呼びかけ人にもなられるなど、かねてから9条改定には反対を表明していらっしゃいますね。

鎌田
 9条は血肉化しています。それはもちろん平和を守る、戦争をしないということですけど、その根っこには憲法25条、人間的な最低限度の生活を守るということがあると思います。貧しくなると、戦争でも何でもいいから生活できたほうがいいというふうになっちゃいますから。
 たとえば、かつてアジア太平洋戦争のときに、「満州」へ「開拓」に行った人たちがいますね。彼らのほとんどは生活を変えようと思って、一発逆転を狙って行っているわけで、実際に多くの人は生活がよくなったはずです。小作人だったのが満州では地主になったとかね。そしてこのとき、第一次の移民は銃剣で武装して上陸して、中国のゲリラから襲撃されています。完全に侵略に農民が使われたわけです。人を殺しても生活しなくては、と追い込まれる。この事実は日本だけじゃなく、どこの国にとっても大きな教訓になると思いますね。
 もちろん、仕事がなくて軍隊に行くということもあるし、戦争というのはそうやって「生活」と結びつくところがある。派遣労働の問題なんかも無視したままでいると、「戦争でもあったほうがいい」というふうになってしまうと思うんです。

編集部
 戦争へ向かわない、戦争を容認してしまう社会にしないためにも、25条に定められた「最低限度の生活」を守ることが重要だ、と…。

鎌田
 逆にいえば、「最低限度の生活」のために人を殺さない、ということです。
 それから、さらに言えば、僕は死刑の問題も9条に絡めて考えています。9条というのは国が人を殺さないということ。死刑もまた、「国が人を殺す」中に入るというのが僕の主張なんです。9条をつくったときに、どうして死刑廃止にも踏み切れなかったのかと思う。
 そんなふうに、9条というのは本当に人間として生きるすべての源泉だと思います。9条から発して9条に帰ってくる、というか。それをもし失ってしまったら、取り返すのは大変です。その意味でも今、「マガジン9条」のようないろんな運動が出てきて、9条を支えているというのはとてもいいなと思います。

かまた さとし
1938年青森県生まれ。ルポライター。新聞、雑誌記者を経てフリーに。著書に『自動車絶望工場』(講談社文庫)、『教育工場の子どもたち』『ぼくが世の中に学んだこと』(ともに岩波現代文庫)、『痛憤の現場を歩く』(金曜日)、『全記録炭鉱』(創森社)、『いま、連帯をもとめて』(大月書店)など多数。

 

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