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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/167/index.html
1月5日、第171通常国会が召集された。昨年から続く世界的な経済危機のなか、とくに注目されているのが雇用問題である。 同日に政府から提出された2008年度第2次補正予算案では、昨年10月にまとめられた「生活対策」や12月に発表された「生活防衛のための緊急対策」をもとに、雇用対策や中小企業の資金繰り支援策などが盛り込まれている。 1月7日には、参議院では与野党が雇用決議案を一部修正したうえで合意し、全会一致で可決した。決議案の内容は、円滑な再就職に向けた支援、失業者の住居確保、職業訓練の実施などを政府に要請するものとなっている。 雇用対策が急を要することであるのは、誰の目にも明らかだろう。だが、こうした緊急雇用対策という話を聞くたびに疑問に思うのは、あわてて何かをやったからと言って、どれだけの効果があるのかということだ。 現在、これほどまでに雇用情勢が悪化した主要な原因は、1990年代に雇用政策の基本理念が大転換したことにある。そして、明らかにそれは失政であった。その反省をしないままに、こうした対症療法を重ねていくだけでは、根本的な解決にはつながらないとわたしは思うのだ。 構造改革を主張する竹中平蔵氏との論争1990年代以前は、働く人の失業を防ぐための対策として、現在よりも対象が広く、期間も長い雇用調整助成金制度があった。そうした制度が充実していたために、企業は不況になっても労働者をクビにすることなく、雇っておくことができたのである。そうした政策を「構造改革に反する」として目の敵にしたのが小泉内閣である。その新自由主義のもとでは、それまでの「労働者を企業が守る」という政策から、「労働者のクビをどんどん切り、その代わりに再就職を企業が支援する」という政策に一変したのである。 その思想を広めたのが構造改革派と呼ばれる人たちであり、その中心人物が竹中平蔵氏であった。いったい彼らは、なぜそのような政策をとったのか。 竹中氏らの理屈では、会社をクビになった人たちを労働市場に吐き出せば、より人を欲しがっているバイオやIT関連の新成長企業に移っていくというものだった。そうなれば、国民全体の生産性が高くなるというわけだ。 この理屈は、どう考えても無理がある。失礼ながら、たとえば製造業の派遣労働者がクビを切られて、その人たちがIT業界やバイオ関連企業の技術者になれるだろうか。まずなれることはない。会社をクビになった人が成長分野に移っていくという図式は、そもそも存在しなかったのである。 当時、私はその点について竹中氏とけんか同然の論争をしたことがある。私が竹中氏に向かって、「そんな都合の良い話が、うまくいくわけないじゃないですか」と言った。すると、竹中氏はなんと答えたか。「みんながちょっとずつ上にいけばいいんでよ」というのである。「あなたは、日本国民を全員転職させるつもりか!」と私はあきれはてた。いくらなんでも、そんなことはありえない。 今考えれば、とんでもない発想であることがよくわかる。だが、当時の日本ではこんな考え方がもてはやされ、経済評論家やエコノミストの大半が支持していたのである。 不況時に派遣労働者を犠牲にすることは織り込み済みだった時代は、構造改革派の思うとおりに進んでいった。そして、労働者のクビを切りやすくするために、労働者派遣法の対象となる業務をずるずると拡大していったのである。そして、小泉内閣時代の2004年、とうとう製造業への派遣労働が解禁された。その経緯および、製造業への派遣労働導入がいかに問題の多いものであるかは、「第145回 『日雇い派遣禁止』の裏に隠された巧妙なからくり」をご覧いただきたい。 このとき、財界が望んだ解禁の理由は、まぎれもなく次の二つである。一つは、賃金の低い労働者が欲しいということ。もう一つは、雇用調整がしやすい労働者−−つまり、いつでもクビが切れる労働力が欲しいということだった。 だから、今回のように、いったん不況が訪れたら、彼らが真っ先に犠牲になるということは、最初から織り込み済みだったといってよい。 それでも、竹中氏のいうように、失業した人たちが成長企業に職を得ることができればいい。だが、現実には何が起こったか。レベルの高い産業にいくどころか、ホームレスになっているではないか。 今回、与党が示した案というのは、まだまだ新自由主義路線から脱却しているとはいえない。労働者を企業が抱え込むという考え方ではなく、あくまでも「職を失った派遣社員などを正社員に雇ったら、補助金が出るようにしましょう」という発想だからである。旧労働省のいう「円滑な労働移動の支援」にすぎない。ここに及んで、それは間違っていたということが明らかになったのではないか。 たしかに、失業者の生活を当面守るために、住宅を用意したり入居費用を貸し付けたりするという政策は必要だが、それは対症療法にすぎない。今回の雇用問題についての根本的な解決をするには、まず製造業への派遣労働を禁止すべきなのだ。そして、根っこにある「どんどんクビにしていい」という考え方を転換しなくてはいけない。話はそこからはじめなくてはいけないのである。 新自由主義的雇用政策が失敗したことを総括せよすでに廃案となったが、昨年末に民主・社民・国民新党の3野党が新対策雇用法案を共同提出した。その内容は、内定取り消し防止、非正規労働者に対する安易な雇い止めの規制、雇用調整助成金の対象に非正規労働者を加える、雇用保険の加入条件を非正社員に拡大する、有期労働契約のルールを決めるなどの内容が盛り込まれていた。それを見た細田博之官房長官は、「これは社会主義だ! こんなものは認められない」と叫んだのだそうだ。何を指してそう言っているのかよくわからないが、ルールや規制を設けること自体が気に入らないのだろうか。もうそうだとすると、やはりその頭は構造改革にどっぷり漬かっているとしか思えないのである。 誰がなんといおうと、雇用問題を解決するには、企業に労働者を抱えてもらうしかないのだ。かつて、米国のヒューレット・パッカード社は、不況になると隔週週休3日制にして雇用を守った。労働投入を10%減らすことで、その分、人件費を減らしたのである。同社は、「人への尊重と信頼」をモットーとして、社員をかけがえのない財産として尊重してきたことで有名である。 いま、トヨタは正社員について、そうしたワーク・シェアリングの方向に政策を切り換えている。 考えようによっては、製造業の派遣労働者が激減した今が、製造業の派遣労働を禁止する大きなチャンスである。 昨年から、与野党ともそうした動きがまったく見られなかったために、わたしは歯がゆく感じていたのだが、ここにきて舛添要一厚生労働大臣が、個人的意見としたうえで、「製造業にまで派遣労働を適用するのはいかがなものか」と述べて見直しの必要性を認めたのは一つの進展である。 さらに、民主党の菅直人代表代行と社民党の福島瑞穂党首が会談して、製造業への派遣規制を盛り込んだ労働者派遣法改正案を国会に提出する方針を固めたというニュースも入ってきた。 ぜひとも、新自由主義的雇用政策が失敗したことを、与野党ともはっきり認めたうえで、製造業の派遣労働禁止を決めていただきたいものである。 |
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