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<10>未来型医学と新しい可能性
ガン細胞の増殖の秘密
安保徹
医学の中には基礎医学があり、解剖学、生理学の次に続くのが生化学です。
この分野で、からだの中で使われる色々な物質の構造、その合成、代謝などを学ぶのですが、日常の診療で思い浮かべることはないのが普通です。生化学の知識は専門家にまかせて、普段考えることがありません。このような流れを脱却して、エネルギー生成の問題に取り組んで、日常の健康や病気の謎解きをするというのが今回の目的です。このような試みはかつてなかったように思います。
エネルギー生成は活発に活動している細胞内で起こりますが、細胞質で起こる「嫌気的解糖系」(以下「解糖系」)は、ブドウ糖を使ってピルビン酸をつくるシステムで、少量のATPをつくる経路です。私はつい最近までは、この解糖系のATPの生成量は少ないのであまり注目する必要がないものと考えていたのですが、この考え方の間違いに気付きました。というのも、解糖系のATPの生成速度が、ミトコンドリアの内呼吸の実に100倍もあるということを知ったからです。陸上競技の選手が400メートル走を行う時だけではなく、瞬発力を必要とする私達のすべての日常行動が、解糖系で得たエネルギーを使用していると考えなくてはならないのです。
逆に、ミトコンドリアの「内呼吸」でつくられるエネルギーは、心筋の活動のような、エネルギーを安定して持続的に使うところで大事な役割を果たしているのです。糖やミトコンドリアの多いところは脳や骨格筋です。骨格筋では赤筋がミトコンドリアの多い筋肉です。
このように用途に応じて、二つのエネルギー生成系が別々に使われることも多いということを私たちは知る必要があったのです。このような視点での考察が、多くの病気の発症メカニズムを明らかにすることにつながるのです。
解糖系
ミトコンドリアのない原核生物(細菌など)は解糖系でエネルギーを得ていますが、私達の細胞(真核生物)もエネルギー生成の半分は解糖系に頼っています。
そして残りの半分をミトコンドリアの内呼吸に頼っています。解糖系の特徴は酸素を使わない謙気的反応で、ミトコンドリアの好気的反応と180度異なっています。
そして大切な点は、急に運動したり分裂を続けたりするような状況下では、解糖系に依存してエネルギーを得ているということです。さらにATP生成の速度がミトコンドリアの内呼吸よりも100倍も速いというのも、それが必要になる運動の状況と一致する性質となっています。「カリウム40」や体温の要求性がほとんどないのも特徴です。つまりグルコース(ブドウ糖)を得て、ピルビン酸や乳酸にする反応系は低体温と低酸素下で起こるということです。
精子、胎児、ガン細胞はいずれも分裂の盛んな細胞ですが、いずれも解糖系を主としてエネルギーを生成しています。精子の場合は陰嚢に包まれて体温を下げて分裂しています。胎児細胞の場合は胎盤を介して酸素分圧を5分の1まで下げて分裂を促しています。ガン細胞の場合は、患者の生き方の無理からくる低体温と低酸素の条件が整わなくなるので、解糖系が十分に働けなくなり、ガン細胞は分裂できなくなってしまいます。
骨格筋の中では、白筋(骨格筋を構成する筋繊維のうち、白く見えるもの)がミトコンドリアの少ない筋細胞で、瞬発力にすぐれています。嚢のグリア細胞(中枢神経系および腸管神経叢のニューロンの間を埋めている細胞)は栄養を処理する細胞で、神経栄養因子などを出していますが、解糖系に依存していると思われます。脳がブドウ糖をエネルギー源にしていると思われます。脳がブドウ糖をエネルギー源にしているという理解はここにあると思います。
私達のからだの中で分裂を続けている細胞は、精子以外では皮膚細胞、腸上皮細胞、骨髄細胞です。いずれも低体温か低酸素にさらされて分裂が盛んになります。皮膚や腸は外界とつながっていますから冷やすことで分裂に入りますが、骨髄細胞の場合は低酸素によって分裂が盛んになります。ゆったり生きると赤血球造血が盛んになるのです。血小板や顆粒球も骨髄でつくられますが、低酸素にさらした方が数が増加します。しかし限度があるので、行き過ぎた時は骨髄機能そのものが低下します。これが、再生不良性貧血、血小板減少性紫斑病や骨髄異形成症候群です。
ミトコンドリア系
20億年前に原始細胞核細胞にミトコンドリアが寄生するまでは、私達の先祖細胞は解糖系のみでエネルギーを得ていましたが、ミトコンドリアが侵入し寄生関係が安定してからは、エネルギーの半分はミトコンドリアの内呼吸で得るようになったわけです。ATPの生成効率が良くなり、持続的運動が可能となった半面、分裂は抑制されるようになっています。ストレスなどで生じるHSP70などはbc1.2が活性化され続けると、ミトコンドリアの機能が疲れてきて分裂が始まってしまいます。このように、ミトコンドリアの機能が働きと分裂はいつも相反する流れになっています。
ミトコンドリアの多い細胞は脳神経細胞(ニューロン)、心筋細胞、骨格筋(赤筋)です。いずれも持続的にエネルギーを生成して働き続ける細胞です。ミトコンドリアのエネルギー生成はクエン酸回路と電子伝達系から成っています。特に、電子伝達系は電気現象を伴うので、脳波、心電図、筋電図などとして外から電気の流れを測定できるわけです。
クエン酸回路(サイクル)と命名されているように代謝系というよりグルグル回る回路なのです。回路が回るたびに炭素(C)と水素(H)がはぎ取られ、炭素は酸素によって燃焼されてエネルギーがつくられ水素はプロトンと電子に分かれて膜電子をつくります。この膜電子がエネルギーなわけです。ミトコンドリアの内膜の外に出たプロトンがまた内膜の内側に戻るとATPがつくられます。クエン酸回路で目減りした炭素と水素はピルビン酸からアセチルCoAとなって電子が起こっています。チトクロムCによって電子の流れが起こっています。チトクロムCは鉄(Fe)を含むので赤褐色の色を持っています。ミトコンドリアの多い細胞は骨格筋の中の赤筋のように赤く見えるわけです。心筋も赤い色をしています。ニューロンは糖脂質やリン脂質などが多いので比較的白く見えます。魚でも回遊魚の筋肉は赤く(赤身)、近海魚の筋肉は(白身)見えます。これらのうちのミトコンドリアの多い細胞群は分裂をほとんどしない細胞となるわけです。分裂の少ない細胞は持続的に働き続ける細胞です。
ガン細胞発生の謎
これまでのような理解があると、ガン細胞の謎も解けてきます。無理な生き方を続けて、交感神経緊張が起こると、血流障害によって低体温になります。これが年余に渡って続くと、低体温と低酸素にさらされた細胞はミトコンドリア機能抑制が起こってきます。そして、分裂細胞に転機するわけです。別の言い方をすると、20億年前の解糖系生命体に戻って生き残りをはかるわけです。ガン細胞は特殊な異常細胞というのではなく徹底的に先祖返りをした細胞ということができます。悪い細胞とばかりは言えないわけです。
解糖系を極限にまで拡大した細胞が精子です。ある意味では解糖系生命体に回帰したとも言えるわけです。1細胞当たりのミトコンドリアの数が100個レベルまで減少しています。逆に、卵子はミトコンドリアの生命体とも言えるわけです。1細胞当たりのミトコンドリアの数が10万個まで上昇しています。
卵子の場合は、胎児期の低酸素でミトコンドリアの少ない時期に分裂を終えて卵母細胞として出生時にすべて準備されています。あとは分裂のない成長期に入りミトコンドリアをふやして受精を持っています。精子と卵子の合体は、解糖系生命体とミトコンドリア生命体のやり直しということができます。両者の合体は、協調してはいるものの酸素に関してコンフリクション(葛藤)も多いので、一度分かれて再び合体すりうという現象を繰り返して生き延びているわけです。本態はコンフリクションのため老化しても生殖によって生き続けているわけです。
成長と老化の背景
私達に寿命があって老化で一生を終えてしまうのは、20億年前の解糖系生命体とミトコンドリア生命体の合体にコンフリクション(衝突)があって、いずれ破綻してしまうことの表れと言ってもいいでしょう。コンフリクションの最大の原因は酸素、熱、放射線などです。解糖系生命体は酸素が嫌いで、ミトコンドリア生命体は酸素がなければ生きることができません。この異質なもの同志が合体したつらさが老化という現象になってあらわれるのです。
胎児時代は、細胞分裂をくりかえすたびに細胞1個当たりのミトコンドリアの数を減らしてゆきます。つまり、解糖系に依存した分裂の流れを拡大し続けることになります。そして、低酸素と高栄養がこの解糖系を支えています。ガン細胞と同じレベルの分裂を維持して成長を続けます。卵母細胞の分裂もこの時期に終えてしまいます。
出生によって、新生児期は肺呼吸を開始しますので、この時点で急な分裂は抑制されます。しかし、1歳から4歳まではまだ細胞の分裂は高いレベルにあり、成長を続けます。解糖系での比率が高いので白筋中心の瞬発力のある動きに特徴があります。しかし、次第にミトコンドリアの増殖も起こり、成長がゆっくりになってきます。「子供は風の子」と言われるように、時々身体を冷やすことがミトコンドリアの働きを抑えて成長を促すことになるでしょう。
5歳から18歳くらいまでは、まだ解糖系の方がミトコンドリア系よりも優位の時期です。しかし、しだいにミトコンドリアのが対等の力を持ってくる時期に移行します。早目に成長が止まる人は、ミトコンドリア系が早目に対等になって大人になると言えるのです。つまり、“大人”とは、解糖系とミトコンドリア系の調和がとれた人生の時期と言うことができるわけです。20歳から60歳くらいまでが調和の時です。この時期にたくさん食べて栄養を摂っている人は解糖系を維持しようとやっきになっている人ということができるでしょう。
本来、解糖系とミトコンドリア系の調和の時期に無理な生き方を続けると、解糖系側の細胞に偏ります。これが発ガンです。ガン細胞はミトコンドリアが少なく、解糖系中心で生きる細胞です。そして、分裂能を獲得します。ガン細胞も胎児細胞も分裂して老化がないという点で、よく似ています。特に、ガン細胞のミトコンドリア機能を抑え、ガン増殖を促す解糖系優位になるためには低酸素と低体温が絶対条件です。これがまさに無理な生き方でたどり着く状態です。
ガン細胞は、ミトコンドリアの数や機能を抑制し、解糖系で分裂を続ける細胞です。20億年前に先祖帰りして悪条件に適応したのがガンという病気なのです。こういう理解があるとガンにならずに生きる方策が解ってくるでしょう。また、もしガンになってしまったとしても、生き方の無理をやめ、からだを温めて、深呼吸して、養生するとガンも生きづらくなって消滅するわけです。
そして、大人からお年寄りになって、小食になるとからだへの負担は少なくなり、だんだんミトコンドリア系が優位になります。ミトコンドリア系は効率がいいので極めて小食でもエネルギーをまかなうことができます。これが仙人なのでしょう。
http://www.kumagai-mitsue.jp/cont7/23.html
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