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LVMH、不動産会社がなぜブランド帝国に?
編集委員 小林明
(1/4ページ)
2013/1/11 6:30
高級ブランドの世界最大手、仏モエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)。ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオールなど60以上のブランドを抱え、売上高(2011年12月期)は236億5900万ユーロ(約2兆7千億円)。
11年には伊ブルガリを買収、さらに仏エルメスの株式取得も進めるなど、今なお成長を続ける巨大ブランド帝国だが、そもそもの出発点は北フランスの建設・不動産会社だった。
■出発点は北仏の不動産会社
なぜ畑違いのブランドビジネスに足を踏み入れたのか?
なぜ貪欲(どんよく)にブランドを買い続けるのか?
グループの歴史をたどると、興味深い企業戦略や秘話が浮き上がってくる。
グループを率いる総帥、ベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)の側近で、傘下のブルガリのCEOを務めるマイケル・バーク氏が、これまでのグループの軌跡や、「カシミヤを着た狼(おおかみ)」と呼ばれるアルノー氏の素顔についてインタビューで初めて明らかにした。
LVMHの軌跡をたどる前に、まずグループ傘下にどんなブランドがあるのかを確認しておこう。
■「おしゃれ+酒+小売り」のユニークな形態
大きく分けると部門は5つ。
「ファッション・レザー」ではルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオールなど仏ブランドのほか、フェンディなど伊ブランド、ダナ・キャランなど米ブランドを抱える。パリやミラノ、ニューヨークのコレクションでもおなじみのブランドだ。売り上げ全体の4割近くを占める稼ぎ頭になっている。
これにブルガリなどの「時計・宝飾」、ゲランなどの「香水・化粧品」、ドン ペリニヨンなどの「酒類」、免税店のDFSなどの「小売り」を加えたのが基本構造。つまり、「おしゃれ関連」「お酒」「小売り」を足し合わせたユニークな形態になっている。
ブランド(社名)はどれもよく耳にする有名なものばかりだが、これらを同一グループが所有しているという事実は意外に知られていない。LVMHグループ全体として宣伝したことがないからだ。
では、なぜグループ全体として宣伝しないのか?
そもそも、どうして前身が建設・不動産会社で、それがなぜ世界最大のブランド帝国に変貌(へんぼう)を遂げたのか?
その謎に迫ってみよう。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFE09003_Z00C13A1000000/
LVMH、不動産会社がなぜブランド帝国に?
編集委員 小林明
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2013/1/11 6:30
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表2
バーク氏はアルノー氏と初めて出会った“運命の日”から話を始めた。
それは1979年。バーク氏がビジネススクール、仏EDHEC経営大学院の最終学年でラグビー部主将をしていたときだった。
「面白い実業家が実習生を探しているんだ。会ってみないか?」
ある日、クラスメートからこう声を掛けられた。そろそろ就職のことが気になっていたバーク氏は興味を抱き、大事なラグビーの練習を休み、会ってみることにした。それがアルノー氏だった。
■せっかちで強引な実業家
アルノー氏はエリート養成校、国立理工科大学(エコール・ポリテクニーク)を卒業した後、父が仏北部で経営する建設・不動産会社フェレ・サヴィネルに入社。3年後の74年から社長を務めていた。すでに、米国で不動産ビジネスを手がけたいという夢を温めていたようだ。
「とりあえず米国のフロリダへ飛び、高級不動産市場のリサーチをしてほしい」。その場でこう指示された。
バーク氏は休暇のほとんどを調査に費やした。足を棒にして現地を歩き回り、フロリダの不動産事情を丹念に調べ上げた。帰国後、リポートをまとめてアルノー氏に提出すると「うん、完ぺきじゃないか。これを実現しよう。すぐにうちの会社でこのプロジェクトに取り組んでほしい」と身を乗り出してきた。バーク氏は慌てた。
「僕はまだ学生です。もう少しで卒業なので待ってもらえませんか」
「いや、待てない。君に卒業証書なんて必要ないだろう」
せっかちなアルノー氏は結局、バーク氏の卒業まで待たずに、別の人物を採用してしまう。「ああ、これでアルノー氏との縁も切れてしまったな……」。そう思っていたら、幸運が舞い込んだ。採用した人物がアルノー氏の眼鏡にかなわず、再びバーク氏にお呼びがかかったのだ。
こうして、バーク氏は卒業証書と就職口の両方を手にできた。「幸運だった」と振り返る。
写真3・4
■社会党政権を嫌って米国へ
82年、アルノー氏はバーク氏らとともにニューヨークに移住した。
これには大きな理由があった。前年の81年。仏大統領選で圧勝したミッテラン氏が社会党政権を樹立し、自由主義経済の崩壊が懸念されていたからだ。「フランスでは自由にビジネスができなくなるかもしれない。自由の国アメリカに逃避しよう」。アルノー氏はこう決断した。
米国では数年間、不動産事業に取り組んだ。
手がけたのは富裕層向けの別荘などの建設と分譲。「オフィスビルや商業ビルには手を出さず、個人向けの住宅をつくって売った」。バーク氏はそのまま不動産ビジネスを続けるつもりでいたという。まさか自分が将来、ブランド業界で働くなどとは夢にも思っていない。
ところが大きな転機がやってくる。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFE09003_Z00C13A1000000/?df=2
ミッテラン・ショックが一段落した84年のことだった。アルノー氏が突然、老舗ブランド、クリスチャン・ディオールを所有する仏繊維会社ブサックを買収したのだ。
「アルノーとは何者だ?」「なぜ不動産会社がファッションに?」――。パリのファッション界に突如、登場した無名実業家にフランス経済界は騒然となった。
当時、クリスチャン・ディオールのほか、新聞社、銀行なども所有していたブサックは、すでに放漫経営から資金難に陥っていた。アルノー氏の狙いは最初からクリスチャン・ディオールだった。ニューヨーク時代に知り合った仏投資銀行ラザールの実力者、ベルンハイム氏が資金面の後ろ盾になっていたとされる。
■きっかけはタクシー運転手との会話
面白い逸話がある。
70年代、初めてニューヨークを訪れたアルノー氏がタクシーに乗ったときのできごとだ。
「ねえ、フランスについて何か知っているかい?」。アルノー氏が興味本位で運転手に尋ねてみると、運転手はこう答えたという。
「フランスだって? 大統領の名前さえ知らないよ。ただ、クリスチャン・ディオールという名前だけは聞いたことがあるな……」
この経験から、アルノー氏はひそかにファッションビジネスに興味を持つようになったそうだ。クリスチャン・ディオールを買収したアルノー氏はフランスに帰国し、高級ブランドを買収し続ける。ルイ・ヴィトン、ロエベ、セリーヌ、ジバンシィ、ケンゾー、ゲラン、フェンディ……。買収を繰り返し、巨大なブランド帝国を築き上げた。
■不動産とブランドの共通点
不動産とブランド――。「一見、脈絡がなさそうに見えるが、明らかな共通点がある」。バーク氏はこう明かす。実は、どちらも高所得層を対象にしているのだ。
「米国では高級コンドミニアムなどを建設し、個人の金持ちに売りさばいていた。だから、我々は高所得者層の嗜好(しこう)を熟知している」。高所得者層の購買動機は決して機能だけではない。手に入れた後に自分が世の中からどう見られるのか。社会的な地位や社交、自己満足なども関係してくる。不動産もブランドも同じなのだ。
「だから、不動産事業からブランドビジネスに移行するのも自然の流れだった」。高級ファッションしかり、時計や宝飾、香水、酒しかり。すべての対象顧客はセレブなのだ。
こうしてLVMHは形成された。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFE09003_Z00C13A1000000/?df=3
LVMHには一貫した基本戦略がある。
■アルノー式錬金術とは?
知名度は高いが、一時的な経営のまずさから苦境に陥っているブランドを安値で買収し、再生し、資産価値を高める。資本力を駆使し、新鋭デザイナーを起用し、広告でスター性をアピールし、旗艦店と直営店を通じて世界同時に新作を売り出す。
同じ手法で次々とブランドビジネスを成長させていった。グループが成長する限り、資産価値はより高まり、動かせる資金力もより増える。「アルノー式錬金術」である。
多くのブランドを抱えるメリットはほかにもある。
■多ブランドを抱える利点
「仮にあるブランドの業績が赤字でも、ほかのブランドが稼ぐ利益を投じながら、時間をかけて再生できる。さらにグループ内にブランド経営のノウハウが蓄積でき、人材も育つ」というわけ。グループの規模が大きければ大きいほどより強力なパワーが発揮できる。だから、成長を続けなければならないのだ。
では、どうしてグループ全体の広告を打たないのか?
「それは、売り買いが活発で、グループ内のブランドが常に流動しているから。個別ブランドの広告は打つが、グループ全体のイメージを固定化させるような宣伝は打っても意味がないでしょう」
バーク氏はこう答えてインタビューを終えた。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFE09003_Z00C13A1000000/?df=4
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