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ワールブルグ効果の再興―がんは代謝研究だった? メタブローグ
http://www.asyura2.com/09/revival3/msg/391.html
投稿者 BRIAN ENO 日時 2013 年 1 月 03 日 09:00:42: tZW9Ar4r/Y2EU
 

こんにちは、バイオメディカルグループの篠田です。今回はがんとメタボロミクスについてお話しします。

昨今、がんは遺伝子の病気ということになっており、例えばWikipediaで”がん(悪性腫瘍)“を調べると、


がんは、遺伝子の突然変異によって発生する。

と最初に書かれています。
しかし、遺伝子異常が生じ、シグナルが停止せずに不要な増殖を続けるのががん、というのが正しいとしても、がん遺伝子が無から有を生み出すわけではなく、細胞が倍々に増えるには、莫大なATPが必要です。がんはどのような代謝でATPを得ているのでしょうか?この問いに答えるには、遺伝子だけではなく、代謝の観点からもがんを捉える必要があります。

不思議なことにがん細胞は、ATPを最も効率的に得られる酸化的リン酸化(@ミトコンドリア)を行わず、好気条件下でも、解糖系を利用してATPを得ます。この現象は、提唱者の名前から「ワールブルグ効果(ワーバーグ効果)」と呼ばれます。これは、好気条件下でグルコースを「醗酵」するようなもので、なぜこんな非効率な代謝を積極的に利用するのか?大変不思議です。

ワールブルグ効果への可能な説明の1つは、がん細胞は、すみずみまで張り巡らされた血管から十分なグルコースの供給を得られるので、非効率な代謝をしていても全く問題にならない、いうものです。しかし、血管が行き届いてない組織でもワールブルグ効果は観察される[1]ことから、この説明では不十分です。

もうひとつの説明は、ATP以外の代謝性要求を満たすためにワールブルグ効果がある、というものです。

がん細胞が増殖するには、ATPはもちろんですが、DNA、タンパク質を構成するアミノ酸、細胞膜を構成するリン脂質、脂肪酸もたくさん必要です(=代謝性要求)。例えば細胞膜を構成する重要な脂肪酸であるパルミテートを合成するには、7分子のATP、16の炭素骨格、28電子(NADPH14分子)が必要です。グルコース1分子は、酸化的リン酸化により36分子のATPを生み出しますが、これではATPだけが過剰になり、NADPHや炭素骨格が足りなくなってしまいます。そこで、そこで、解糖系を回し、そこから枝分かれしたペントースリン酸経路(グルコース1分子からATP30分子とNADPH2分子を生成)も利用することで、必要なNADPH等を得るのです。Palmitateと同様に、アミノ酸やヌクレオチドの合成においても、一見「非効率」な代謝を利用することで、がん細胞が自らの増殖/分裂に必要な炭素骨格やNADPHをバランスよく得ていると考えられます[2]。

興味深いことに、これらの代謝は緊縮応答ではなく、いわゆるがん遺伝子や、p53のようながん抑制遺伝子が、積極的にメタボロームを調節している結果であることが最新の研究で明らかになってきました。

例えば、増殖因子刺激で活性化するAkt/PI3Kシグナリングが解糖系を亢進させるという知見[3]や、チロシンキナーゼシグナルが解糖系の律速ステップを負に制御し、解糖系の中間体をペントースリン酸経路でのNADPH生成に利用させる知見[4,5]、反対に、がん抑制遺伝子として有名なp53がペントースリン酸経路を負に制御し、癌細胞の代謝性要求を満たす「増殖用代謝 (proliferative metabolism)」をシャットダウンしているといった知見[6,7]など、枚挙に暇がありません。

これらの知見は、がん遺伝子の研究のみならず、代謝物質やその中間体を含めたメタボローム研究を融合(マルチ・オミクス)させ、癌細胞の巧みな代謝調節、律速段階を追った成果であり、ワールブルグ効果の提唱から50年あまり、がん代謝研究の再興(“Re-generation”)ともいうべき時代に来ているのです。昨今、グリベック、イレッサをはじめとしてがんのチロシンキナーゼシグナルを阻害する分子標的抗がん剤が成果をあげていますが、ワールブルグ効果の研究により、癌細胞に特異的な代謝性要求を叩く分子標的治療が表れる日も近いのではないでしょうか。

[1] Hirayama A, Kami K, Sugimoto M, Sugawara M, Toki N, Onozuka H, Kinoshita T, Saito N, Ochiai A, Tomita M, Esumi H, Soga T.
Quantitative metabolome profiling of colon and stomach cancer microenvironment by capillary electrophoresis time-of-flight mass spectrometry.
Cancer Res. 69(11) 4918-25, 2009
≪PubMed≫

[2] Vander Heiden MG, Cantley LC, Thompson CB.
Understanding the Warburg effect: the metabolic requirements of cell proliferation.
Science. 324(5930) 1029-33, 2009
≪PubMed≫

[3] DeBerardinis RJ, Lum JJ, Hatzivassiliou G, Thompson CB.
The biology of cancer: metabolic reprogramming fuels cell growth and proliferation.
Cell Metab. 7(1) 11-20, 2008
≪PubMed≫

[4] Christofk HR, Vander Heiden MG, Harris MH, Ramanathan A, Gerszten RE, Wei R, Fleming MD, Schreiber SL, Cantley LC.
The M2 splice isoform of pyruvate kinase is important for cancer metabolism and tumour growth.
Nature. 452(7184) 230-3, 2008
≪PubMed≫

[5] Christofk HR, Vander Heiden MG, Wu N, Asara JM, Cantley LC.
Pyruvate kinase M2 is a phosphotyrosine-binding protein.
Nature. 452(7184) 181-6, 2008
≪PubMed≫

[6] Bensaad K, Tsuruta A, Selak MA, Vidal MN, Nakano K, Bartrons R, Gottlieb E, Vousden KH.
TIGAR, a p53-inducible regulator of glycolysis and apoptosis.
Cell. 26(1) 107-20, 2006
≪PubMed≫

[7] Matoba S, Kang JG, Patino WD, Wragg A, Boehm M, Gavrilova O, Hurley PJ, Bunz F, Hwang PM.
p53 regulates mitochondrial respiration.
Science 312(5780) 1650-3, 2006
≪PubMed≫

http://humanmetabolome.com/metablog/03/1528
 

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コメント
 
01. BRIAN ENO 2013年1月03日 09:06:39 : tZW9Ar4r/Y2EU : yhmbAsnuyo
癌細胞の特徴について述べよ

癌細胞の性状はその種類によって一様なものではなく、
個々の癌によって表現形質は異なるが、以下のようないくつかの共通した特徴がある。

@ 自律増殖
癌細胞は宿主のホメオスタシスから逸脱して、無限に増殖し続ける。

1)正常細胞を癌ウイルスなどで処理すると、細胞は一定の時間経過を経て、
形態の変化などを含む形質転換を起こし、無限増殖を始める。
このような細胞をトランスフォーム細胞という。
トランスフォーム細胞のあるものは、動物に腫瘍を作ることが出来る。
これは造腫瘍性と言われ、癌細胞の特徴の1つである。

2) 正常細胞の増殖には、足場依存性があるが、癌細胞は足場を必要としない。
従って、軟寒天中に浮遊状態で増殖出来る。

3) 正常細胞の増殖には、血清添加が必要であるが、
癌細胞では血清に対する依存度が低下しており、無血清培地でも増殖出来るものがある。
このような癌細胞では、血清中の増殖促進因子に相当する物質、
トランスフォーミング増殖因子が産生されている。

4) 正常細胞の増殖には、接触阻止があるが、癌細胞は接触阻止がない。
従って、何層にも重なり合って増殖を続ける。

A 高い解糖能
癌細胞で見られる代謝上の特徴の1つは高い解糖能である。
正常細胞では、好気条件下で解糖は抑えられるが、癌細胞では好気条件下でも高い解糖能を示す。
癌細胞の増殖速度と解糖能の高さとよく相関するので、
癌細胞は自らのエネルギー獲得をこの解糖能に依存している。
癌細胞が高い解糖能を示すのは、解糖系の律速酵素が正常細胞の酵素とは、
別のアイソザイムに変換されていることに基づいている。

B 脱分化・胎児化・異分化
癌細胞においては母細胞の持っていた分化した機能が脱落し、
分化機能を担っていた分化型酵素が低下あるいは消失する。
さらに、分化型酵素に代わって、胎児期に一時的に発現する胎児型酵素が出現したり、
別の型のアイソザイムが出現するなどの分化の乱れが見られる。

ところで、複数の一次構造の異なる酵素蛋白質が同一種類の反応を触媒するとき、
これらの酵素群をアイソザイムという。
アイソザイムはそれぞれ相異なる遺伝子の発現によるものであり、
その発現の調節機構も互いに異なっている。
癌細胞で見られる脱分化・胎児化・異分化などの現象も、
DNAレベルでの遺伝子発現の変異によるアイソザイム変換に基づくものである。
このような変異の結果、癌細胞ではホルモンや栄養条件などの、
外界の環境変化に即応して機能する分化型酵素が消失し、
自律増殖に適した代謝を行えるように変化しているとみなすことが出来る。
アイソザイム変換と同様の現象は、酵素以外の蛋白質でも見られる。
肝癌患者の血中に出現する胎児性蛋白質、αフェトプロテインもその1つである。

C 増殖因子やプロテアーゼなどの分泌
癌細胞からは、いろいろな物質が分泌されている。
ある癌細胞は、プロテアーゼ(プラスミノーゲンアクチベーターやコラゲナーゼ等)を分泌。
これらは癌細胞の浸潤や転移の形成に有利に働くものと考えられる。

D 免疫監視機構からの逃避
生体は異物の侵入に対してこれを排除する免疫機構を備え、癌細胞に対してもこの機構が働く。
しかし、癌細胞はもともと宿主由来であるため、その抗原性は宿主と類似しており、
宿主側からみて、癌細胞を異物として認識し難い。
さらに、これに癌細胞の抗原性が容易に変化すること、
また、多くの癌患者では免疫機能が低下していることなどの要因も加わり、
癌細胞は宿主の免疫監視機構から逃れて増殖を続けるのである。


http://www.nurs.or.jp/~academy/igaku/a/a42.htm


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