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著者プロフィール:郷好文(ごうよしふみ)
マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など。他の連載は印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」、メルマガ「ビジスパ」で「ことばのデザイナーのマーケティングレシピ」。中小企業診断士。アンサー・コンサルティングLLPパートナー。ブログ「マーケティング・ブレイン」(コンサル業)、「cotoba」(執筆業)。Twitterアカウントは@Yoshifumi_Go。
1000兆円の債務、と聞いても巨額過ぎてピンと来ないかもしれない。それは国債という国民の借金と長期短期の政府借入金の合計870兆円、そして地方政府の債務169兆円、そして社会保障基金3兆円を合わせた1042兆円のこと。それがつまり日本国民が背負っている借金総額である(2010年9月時点)。
その金額は日本のGDP(国内総生産)――つまり経済成長によって生み出される額である約500兆円の2倍を超える水準となった。簡単に言えば、日本全体で稼いだお金の2倍の借金を背負っているということである。財政赤字で大統領の支持率が低下する米国や、慢性的に財政状態の悪いイタリアの水準をはるかに上回っている。
国家予算92兆円(2010年度)の10倍以上の借金。それは過去のデフォルト(債務放棄)国家の平均水準を軽く超えている。1998年のロシアで5倍、2001年のアルゼンチンでも2.6倍だったのだ。フランスの知性と言われるジャック・アタリ5 件氏はこう言う。
「2500年にわたる過去の歴史から、これほどの公的債務を抱えて悲惨な運命をたどらなかった国はない」
公的債務のGDP比(出典:財務省統計)
悲惨な運命へ
2011年1月14日、1年4カ月ぶりに来日したジャック・アタリ5 件氏。37歳でミッテラン政権の大統領補佐官となり、2007年よりサルコジ大統領の諮問委員会「アタリ政策委員会」の委員長を務める。先のEU大統領選挙ではフランス側の最有力候補ともなり、フランスの政財界を動かす知性と言われる。
ジャック・アタリ5 件氏
今回の来日ではフランスから到着早々、大前研一氏と対談をこなし、ユニクロの柳井正会長、楽天の三木谷浩史社長との対談も予定されている。1月15日には就任直後の海江田万里経産大臣との講演もこなし、さらに鳩山由紀夫前首相との会談もあるようだ。
日本でも人気のアタリ氏だが、日本のについてどのように考えているのだろうか。海江田万里経産大臣と行った記者会見でアタリ氏が語った主張をまとめてみよう。
「公的債務の増加により、国の信用力が低下します。それが金利上昇を招き、国債の価格が下落。日本国債を大量に抱える金融機関は莫大な損失を被り、次々に破たんします。不況が深まり、生活水準が悪化し、購買力は落ちる。企業業績も悪化する……やがて日本という社会、民主主義が崩壊しかねません」
アタリ氏は単に目下の現象だけをとらえて言っていない。自著『国家債務危機』(作品社刊)では、公的債務という概念の発生を紀元前5世紀のスパルタとアテナイの戦争に端を発するとした。戦争で弱体化した両国が、資金調達のため宗教団体との融資契約を交わした。その公的債務の膨張が古代ギリシャの都市国家を衰退させ、ローマ時代をもたらした。
ローマ時代には商人から“無金利の貸し付け”という公的債務が生まれ、その後ユダヤ人は金利付きで国に金を貸し出した。だが、欧州の中世の国々では「君主の死=債権の消滅」であった。つまり借金は一代限りということだ。施政者が変わっても借金が続く、今の法治国家の仕組みは、19世紀の産業革命以降、つまり経済成長という概念とともに生まれた。
会見でアタリ氏は「米国とは公的債務の返済で生まれた国。各州の債務を何とかするために連邦が生まれた」と語っていた。そのため米国は建国以来200年、債務ゼロになった年はたった2年間しかない(1835〜36年)。今に続く財政問題、茶番というか楽天的というか。 麻生太郎氏、鳩山由紀夫氏、そして菅直人氏と3代続けて首相がジャック・アタリ5 件氏の本を購入。債務総額は計算により900〜1000兆円のばらつきがある
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1101/20/news009.html
アタリ氏の4つの処方せん
だが、借金大国とはいえ米国はいまだ大きく豊かだ。それに対して人口減で少子高齢化が進む日本は、マイナス経済成長の下、貯金を借金返済で使い果たし、やりくり次第では消滅するかもしれない。日本の処方せんについてアタリ氏は次のように語った。
「現実を直視しよう。日本の出生率は世界最低レベル、少子高齢化は進む。歳出が歳入を上回り、税収基盤は脆弱(ぜいじゃく)になる、巨額な国内貯蓄も債務返済にすべて費やされる。日本は今、クリアなビジョンを持つべきです。どういう国になるべきか、政治家がそして国民が議論しなければなりません」
ジャック・アタリ氏(左)と海江田万里経産大臣(右)
アタリ氏が2500年の歴史を振り返ったところ、公的債務を解消するのは7つの方策しかなかったという。
1.増税
2.歳出削減
3.借金の繰り延べ
4.インフレ
5.他国などに借金をまわす
6.戦争で帳消しにする
7.経済成長
日本は公的債務を解消するため、「歳出削減」「消費税と所得税の増税(格差是正)」「家族政策、人口増」「イノベーション」を同時並行すべきとアタリ氏は語る。
異論はない。ただ「事業仕分け」という歳出削減は、債務削減効果よりも官僚へのけん制効果しかあげていないように見える。海江田大臣はアタリ氏に「子供手当は70%が反対している」と嘆いたが、家族政策や移民政策でも与野党、国民に一致点は見えない。そして増税を言い出した菅直人首相は選挙で痛い目にあって、今や及び腰。そもそも1年未満の政権交替政府では、腰をすえた公的債務削減策を打ち出せるわけがない。
政策の1つ1つは間違っていなくても、大局を示していないから、仕分けも増税も子供手当もなぜ必要か、どのくらいの緊急度なのか、フォーカスが合わない。だから国民は脱力し、イライラする。感情論で内閣支持率が上下する。
日本はこれからどうすべきか?
「日本の将来には期待が持てない」「今後どんどん日本は貧しくなる」と予想する人は多い。しかし、貧乏な国になりたいと願う人はいないだろう。そうならないためにはどうしたらいいのだろうか?
そのためには、国民も政治家もアタリ氏の「増税が経済成長を阻害することはない。間違ったお金の使い方が成長を阻害するのだ」という主張に耳を傾けるべきだと思う。
1つ提案をしたい。公的債務を「国家債務」と呼び替える。そして社会保障や社会資本整備など「使う方」ではなく、「国家債務をどうするのか?」「どう返済するのか?」「国民のコンセンサスをどうとるのか」という点からのみで、各政党のマニフェストを選挙で評価するのだ。党利・私欲でなく、この危機に身を投げ出す人を見極め、4つの政策を粛々とやれそうな政党・政治家に投票する。そうしないといよいよマズいと思うのだ。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1101/20/news009_2.html
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